
時代が変わって今なお、その鮮やかな世界観で観る者を魅了し続けているウォン・カーウァイ作品。
決して色褪せることはなく、カルチャーに敏感な若者たちの心を捉え続けるその魅力とは、一体何だろうか?
昨年、代表作5本の4K上映でムーブメントが再燃し、今年2月からは4KレストアUHD・Blu-rayの発売が予定されている今、改めてウォン・カーウァイ(WKW)の魅力を振り返ってみたい。
WKWに魅せられる若者たち
2022年8月の、シネマート新宿などでの公開を皮切りに、全国主要都市で順次公開されていった「WKW4K ウォン・カーウァイ4K」。このWKWの代表作5本(「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」「花様年華」「2046」)の上映は、シネマートでは初日から連日満席となり(実際、筆者は満席での断念を経験した!)、その後も各地で盛況が続き、年明けの現在も上映中の都市がまだあるといった状況。これは、配信でも観ることのできる作品のリバイバルだと考えると、4K上映ということのバリューや、例えばシネマートで行われた「クラシカルブーストサウンド」での鑑賞機会の貴重さなど、諸々の特別感を差し引いたとしても、驚くべき異例のロングランヒットだといえるだろう。
しかも上映に駆けつけたのは、90年代にWKW作品をリアルタイムで観ていた女性たちはもちろんのこと、女性を中心とした若い層の観客も、かなりの割合を占めていたというのだ。もっともその点に関しては、さほど驚きはなかった。そもそもが、かつてのWKWの登場に熱狂し、その後のブームを支えていったのは、やはり同じく女性を中心とした若者だったからだ。
95年、日本で公開されるや、これまでの香港映画、アジア映画のイメージをシャレたものへと一変させた「恋する惑星」(94)。スクリーンを彩るヴィヴィッドな色彩、手ブレやスローモーションなどを多用したカメラワークが伝える躍動感。そんな画(え)に重ねられるナイーブなモノローグの数々に、それらと呼応しあうように流される既成楽曲の粋なセレクト。そして何よりも、観る者を魅了してやまない、フェイ・ウォンが見せる気まぐれなふるまいや抜群のファッションセンス――。そんな「恋する惑星」が伝える時代の気分は、当時の渋谷系カルチャーとの相性のよさも手伝って“オシャレなもの”として受け止められ、香港映画ファンでも、ましてや映画ファンでもない若者たちを大いに吸引していったのである。

さらに、この「恋する惑星」からさほど間を置かずに、ミニシアターの牙城だったシネマライズ渋谷で「天使の涙」(95)、「ブエノスアイレス」(97)が公開され、熱狂はますます加速していくことに。このように90年代の日本を沸かせた一連のWKW作品が、現在の“90年代リバイバルブーム”の最中に公開という、この絶妙なタイミングも、多くの若者に訴求できたポイントだと思われる。

ただ、今回に限らずこれまでも、新作の公開、あるいはリバイバル上映されるたびに、若者たちを魅了し新たなファンを獲得していったのがWKW作品。そうなのだ、デビュー作「いますぐ抱きしめたい」(88)からもう四半世紀以上がたつのだが、この間、WKWが古びたことは一度もなかったのである。それはなぜか。一般の観客のみならず、幅広いクリエイターたちも刺激を受け、その作品にWKWの影響を刻んでいったこと。これも、長い間、鮮度を保ち続けてきた大きな理由だといえるだろう。
映画の作り手に愛されるWKW

まずWKWに熱狂したことで有名なのはタランティーノだが、ほかにも、監督自ら「ブエノスアイレス」にオマージュを捧げたと公言する「ムーンライト」(16)のバリー・ジェンキンス、共通点を指摘されることも多い「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」(18)のビー・ガンなど枚挙にいとまがない。また、WKWが「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(17)のバズ・プーンピリヤ監督に惚れ込みアプローチをしたことから製作された「プアン/友だちと呼ばせて」(21)のように、近年、製作者として各国の若手映画人と組んだ映画作りを進めてもいるWKW。「プアン」などはまさに、「ウォンに捧げるような画作りや光の使い方」をしたかったと語るプーンピリヤにより、WKWの遺伝子が継承された作品といってもいいだろう。こうした後続たちによるリスペクトもあいまって、「グランド・マスター」(13)以降、監督作を発表していないにもかかわらず、その存在感が薄まることも古びることもなく、愛され続けてきたともいえるのではないだろうか。

そんな熱い愛され方の一端を実感させてもらったのが、今回の上映期間中にシネマートで行われた「花様年華4K」“正装鑑賞回”。年齢性別問わず多くの観客が、思い思いの“WKWファッション”で来館したのだが、特に圧巻だったのは、「花様年華」(00)の劇中でため息ものの着こなしを見せたマギー・チャンも納得必至の、チャイナドレス姿の数々。SNS上にはそのときの画像がいくつもアップされているので一覧されたし。ちなみに、そのなかで個人的に最も心を摑まれたのは、まさにトニー・レオン!なスタイル、表情にて、机の上の紙にペンで何か(たぶん小説)を書いている男性の方。(シネマート新宿のスタッフ・宮森覚太氏と判明!)そんな画像を眺めながら、WKWの最も評価すべき点とは、トニー・レオンをはじめとしたスターたちの魅力を、ほかの作品では観ることができない独自のニュアンスで写し取ってきた手腕なのだ!ということも、改めて思い出していたのだった。
文=塚田泉 制作=キネマ旬報社
WKW4K ウォン・カーウァイ4Kレストア 5作品
「恋する惑星 4Kレストア UHD+Blu-ray 〈5作収納BOX付〉」
●順次発売予定の下記5作品を収録できるBOX付き<初回生産限定>
※当商品に収録する本篇は『恋する惑星』のみ
●2月10日発売 価格¥7,480(税込)
「恋する惑星 4Kレストア」UHD+BD/BD
●2月10日発売
●1994年/香港/カラー/本篇102分
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ
●出演/トニー・レオン、フェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武、チャウ・カーリン
「天使の涙 4Kレストア」UHD+BD/BD
●2月10日発売
●1995年/香港/カラー/本篇99分
●監督・脚本/ウォン・カーウァイ
●出演/レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モク
「花様年華 4Kレストア」UHD+BD/BD
●3月31日発売
●2000年/香港/カラー/本篇98分
●監督・脚本・製作/ウォン・カーウァイ
●出演/トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン、ライ・チン
「2046 4Kレストア」UHD+BD/BD
●3月31日発売
●2004年/香港/カラー/本篇129分
●監督・脚本:ウォン・カーウァイ
●出演/トニー・レオン、木村拓哉、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー
「ブエノスアイレス 4Kレストア」UHD+BD/BD
●5月31日発売
●1997年/香港/カラー(一部モノクロ)/本篇96分
●監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ
●出演/レスリー・チャン、トニー・レオン、チャン・チェン
※各商材に特典映像&封入特典あり
※UHD+BDはデジパック+スリーブケース仕様
※UHD+BD 各¥7,480(税込)
※BD 各¥5,720(税込)
●発売・販売元:TCエンタテインメント
●提供:アスミック・エース
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