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インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 4K UHD MovieNEX
2023年12月15日発売MEG ザ・モンスターズ2 <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>
2023年12月20日発売王女ピョンガン 月が浮かぶ川 ディレクターズカット版 コンパクトDVD-BOX1 [スペシャルプライス版]
2023年12月6日発売『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』 Blu-ray
2023年12月20日発売グランツーリスモ 4K ULTRA HD & ブルーレイセット
2023年12月20日発売特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~ [数量限定特装版Blu-ray]
2023年12月20日発売ハマる男に蹴りたい女 Blu-ray BOX
2023年11月29日発売週末映画ランキングMOVIE RANKING
翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて
公開: 2023年11月23日 公開 4週目ゴジラ-1.0
公開: 2023年11月3日 公開 6週目鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
公開: 2023年11月17日 公開 4週目青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない
公開: 2023年12月1日 公開 2週目首(2023)
公開: 2023年11月23日 公開 4週目ナポレオン(2023)
公開: 2023年12月1日 公開 2週目怪物の木こり
公開: 2023年12月1日 公開 2週目エクソシスト 信じる者
公開: 2023年12月1日 公開 2週目映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ
公開: 2023年11月3日 公開 6週目MY(K)NIGHT マイ・ナイト
公開: 2023年12月1日 公開 2週目専門家レビューREVIEW
VORTEX ヴォルテックス
公開: 2023年12月8日-
文筆業 奈々村久生
同じ空間を共有しながら別々の時間を生きる夫婦。人生の終わりに向かう日々を、複数の監視カメラ映像をスイッチングしつつモニタリングするようにつないでいく構成は、悲劇と呼ぶにはあまりにも写実的で等身大。そこにあるのは否応なく流れる時間の静かな暴力性だ。しかしすべてが終わったと見えたとき、エンドロールからの始まりを思い出して、時系列を逆にした「アレックス」の「時はすべてを破壊する」という言葉にたどり着き、時間に抵抗するノエの執着を思い知るのである。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
とてもつらい映画。頭が曖昧になって、いろんなことが次第にわからなくなっていくのに体は達者なのは本当にさみしい。頭がハッキリしてるのに体の自由が利かなくなっていくのもさみしい。がんこになるのもさみしいし醜い。むこうも中年になった昔からの愛人に、相手にされなくなるのも実にみじめ。過去の偉そうな仕事の実績が老いた自分を救ってくれるわけじゃないのもみじめ。いずれ老いゆく者、つまり現代の我々全員にとって必見の映画だと思ったが、あまりにもつらすぎて星は2つ。
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映画評論家 真魚八重子
ノエは時折ひどく切ない愛の映画を撮る。恋愛で相手を深く愛する者は、裏切られた時の心の痛みが尋常ではない。正気ではいられないくらいに傷を負う。本作はスプリットスクリーンで、夫のアルジェントがいまだに浮気をして、他の女性に依存している様子を写す。かたや妻のルブランは認知症が進行して徘徊や不始末を起こす。だが夫の大事な原稿を流すのは意図的だろう。彼女は憎悪するほどにまだ愛がある。ノエはまた、彼らの息子を麻薬の売人にし、愛の結晶も負け犬な人間に育つ現実的な苦みを描く。
メンゲレと私
公開: 2023年12月3日-
映画監督 清原惟
収容所生活を生き延びたダニエル・ハノッホさんの語りと、当時のニュースやプロパガンダ映像だけで構成された、シンプルな映画。終戦直後に食料よりもまず鉛筆と紙を求め、一晩中文字や絵を書いたという話に、彼の人間として生きていくことへの強い信念を感じた。迫害されたユダヤ人たちが船で、希望を背負ってパレスチナへと渡っていく話は、そこから今起きている戦争の出口のなさについて思い巡らすことになり、胸が痛い。メンゲレの話が中心ではなく、邦題に少しズレを感じた。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
「SHOAHショア」以後、ナチスによるユダヤ人強制収容とホロコーストの全貌を伝えるのは当事者によるインタビューだけであることが立証されたかにみえる。だが、その唯一真正なる語りはいかに継承され得るのか。91歳のダニエルには最後の生き証人としての決然たる覚悟が窺えるが、彼を寵愛したメンゲレ医師が1400組の双子を縫合する手術を施したという証言には言葉を失う。アドルノの箴言を俟つまでもなくアウシュヴィッツとは未来永劫に亘って失語症を強いるおぞましさの表象なのだ。
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映画批評・編集 渡部幻
ホロコーストを生き延びた者たちには当時の子どもたちもいる。だからぼく自身が幼い頃は、今は大人であろうかつての子どもたちの記憶に想像を巡らした。だが、そうしたチャイルドサバイバーの研究が加速したのは21世紀だという。「メンゲレと私」はそんなリトアニア人少年の一人たる「私」に取材したドキュメンタリー映画。解放時まだ13歳だった少年は地獄をどのように受け止め、分析し、生き抜いたか? 今は老人の「私」は語る—「カニバリズムを目撃した人間は、何を抱えていると思う?」。
父は憶えている
公開: 2023年12月1日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
村中のごみを無言で回収してまわる父のなかには、もちろん彼なりの道理があるのだが、それが何なのかは決してわからない。代わりにはっきりと見えてくるのは、彼の帰還によって揺さぶられる周囲の人々の変化。失われた愛は、長い眠りから目覚めたかのように色づきはじめる。基本的に人物の動きに合わせて柔軟に動くキャメラが、まるで適度な距離を保ってその人物を見守りつづけているかのようであり、その結果わたしたちも、その人物に対して親密な感情を抱かずにはいられなくなる。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
キルギスのアクタン・アリム・クバト監督が監督・主演。23年ぶりにキルギスの村に戻ってきた老人が巻き起こす静かな騒動を描く。携帯電話が画面に出なかったら、とても21世紀の話とは思えないほど時間が止まったかのような村で、日本人とよく似た風貌ながらも、皆が敬虔なイスラム教徒であり、ロシアの強い影響下の中で生きている人たちの生活を丁寧に観るという文化人類学的な面白さ。私たちに似ているとても異なる人々の普遍的家族愛。いっそドキュメンタリーの方が向いている題材なのではないか。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
行方知らずだった男の23年間は一切語られない。記憶と言葉を失った理由も明確にわからない。家族や友人たちは記憶を取り戻そうと必死だが、男は動じず、ただ黙々とキルギスの村のゴミを拾い続ける。力強く根を張る木々、木立のざわめき、素朴で美しい歌声……感覚に訴えかけてくる演出ひとつひとつがゆったりどっしりとしていて、果てしない奥行きを感じる。生命の根源的な力が本作には宿っている。人間はただ生きているだけで尊い。そんなピュアな気持ちを呼び覚まされる稀有な作品。
バッド・デイ・ドライブ
公開: 2023年12月1日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
オリジナル版と他言語版は残念ながら観ていないのだが、基本設定が確かに魅力的。残り3分の1になってから突然ツッコミどころが増えたり、動機づけを含めて急に展開が雑になる気がするけれど、短い上映時間でシンプルに語るべき題材である以上、欠点と断言するほどではないかもしれない。家庭人として完全に失格かと思いきや、危機に瀕した途端、この上なく頼もしい父親へと変貌するリーアム・ニーソン無双。役柄よりも歳上すぎるという難点を、身のこなしの若々しさで華麗にカバー。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
今年主演作が3本公開されるリーアム・ニーソン。本作は2015年のスペイン映画「暴走車 ランナウェイ・カー」のリメイク。金融マンが車に爆弾を仕掛けられ、犯人の指示でさまざまな困難に直面する。いつものニーソン映画同様、スピーディーでサスペンスフルかつ不死身。またニーソン映画同様に低予算短期間撮影ものでニーソン以外のキャストに華がない。同じような役柄で低予算アクション映画を連発するニーソンは低予算アクション映画の船越英一郎だ。大ヒットも芸術も狙ってないところが苛立たしい。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
リーアム・ニーソンが車という閉鎖的な空間で着座のまま闘い、犯人と対峙するまでの90分。彼の鬼気迫った渋い顔をアップで見続けるだけでも眼福だが、「スピード」や「フォーン・ブース」といった作品がチラついて既視感を拭えない。クライマックスはあらかじめ決めた結末からの逆算でアクションを組み立てているのが明白でやや物足りない。一番大切なものを強調したいがゆえのラストの回想三連発が作品をチープにしている。資本主義の弊害を量産型アクション映画で描くという皮肉。
隣人X 疑惑の彼女
公開: 2023年12月1日-
文筆家 和泉萌香
人間に擬態して暮らしているとの惑星難民X。記者の男を主人公にすえたことにより、謎に包まれたXへの偏見をふくめた大衆の態度よりも、どんなことをしてでも売上とPV数を稼ぎたいマスコミたちのあくどさ、醜悪さが全篇に現れている。ロマンスの始まり、ここぞ、というタイミングで雨が降るのは、人間を超えた何やら別の力が影響を及ぼしているのかと想像を掻き立てたり。だが、主人公の見当はずれの償いの発表に続くその着地点は、ふんわりしすぎているのではないか。
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フランス文学者 谷昌親
惑星難民Xが地球にやってくるというSF的な設定のもと、一種の他者論を展開する興味深い作品だ。ただ、Xのスクープを狙う週刊誌記者の笹が、取材対象の良子に惹かれていく過程でカメラの望遠レンズ越しに良子を見つめるだけに、そこでもっと映画的な表現はできなかったのかと考えたくなる。また、留学生のイレンをめぐる物語も一方で展開するのだが、そもそも移民や難民の問題を扱いたいのであれば、むしろイレンのような外国人の存在をこそ正面から描くべきだったのではないだろうか。
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映画評論家 吉田広明
自分と異なる者を排除しようとする社会を糾弾するという骨格は「正欲」と同じ。無理筋が目立つのもよく似ている。異論の余地なく「ポリティカルにコレクト」な物語だからといって(奇矯な設定でもいいが)丁寧な人物設定と造形、自然で説得力のある心理描写と展開をおざなりにしていいはずがない。それを踏まえた上で真に異なる世界への飛躍をもたらすのが映画というものではないのか。「正欲」ともども、独りよがりの理想論振りかざして現実置き去りではどこかの条例案と変わらない。
怪物の木こり
公開: 2023年12月1日-
ライター、編集 岡本敦史
亀梨和也の怜悧な人でなしぶり、睫毛の先まで神経が行き届いているかのような一挙手一投足にただ見惚れるばかり。美しく後手に回るプロファイラー役・菜々緒もキャリア最高の輝きを放っている。三池崇史監督の堂々たる職人的演出も快調だ。とはいえPG-12なのでR指定級の過激さは抑えられ、ストーリーも全国区向きだが、それでも日本のメジャー映画としては最上級の画作りが拝める快作。背広のくたびれ刑事たちが居並ぶ三池ノワール・ショットには久々にワクワクした。
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映画評論家 北川れい子
劇中に登場する絵本『怪物の木こり』を、ティム・バートンが映画化! なんてヤラセの噂がサラッと流れる。そうか。気色悪い導入部はあくまでも恐怖の火種。演出のどこかに空気穴風な隙間を盛り込んで進行するのか、と思っていたら、三池監督、隙間どころか、妙にクールな演出で人物たちを煽り、話自体もとんでもないのだが、こちらもクールに成り行きを観ているだけ。それにしても本作の亀梨和也も「法廷遊戯」の永瀬廉も弁護士役で、いまや弁護士役はアイドルの専売特許?
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映画評論家 吉田伊知郎
この題材ならば三池崇史の名前に当然惹かれてしまうが、往年の過激さは影を潜め、サイコパスが王道を歩く本作では殺人描写も含めて常識的な範囲に収まっている。誘拐された子どもを使った行為はぞっとさせるだけに、せめて触覚的な感覚を見せてほしかった。プロファイラーの菜々緒が醸し出す雰囲気が良く、上手い演技というわけでは決してないところが逆に異物感を出して突出。「首」に続いて快演を見せる中村獅童が粗暴さの裏にフランケンシュタインの哀しみを抱えた姿で魅せる。
ほかげ
公開: 2023年11月25日-
文筆家 和泉萌香
ひとりの女と男たちとひとりの子供。焼け焦げになった街や生活が、戦争そのものが、文字通り家の中に強烈に横たわっている。登場人物たちの輪郭、魂はゆらゆらと揺れ動きながらも儚さを拒み、特定の時間帯を感じさせない橙色の灯りが、彼らはここにいると強く染め上げている。こちらも役者陣の顔にぐっと迫る作品で、塚尾桜雅くんの真っ黒な瞳はきっと劇場の暗闇をも圧倒することだろう。名前も呼ばれないまま、道に放り出される子どもたちを決して増やしてはいけないのに、現実はずっと……。
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フランス文学者 谷昌親
「野火」の一種の続篇とも、対になる作品とも言えそうだ。居酒屋の女と戦争孤児の少年に、若い復員兵、片腕の動かぬ男が絡んで物語は展開するが、逆に言えば、ほぼこの4人だけで構成された作品だ。特に前半は居酒屋から一切出ない室内劇の緊張感のなかで終戦直後の日常が描かれる。一転して戸外で展開する後半では、戦争のもたらす狂気が表現される。筭本晋也監督自身がカメラをまわした撮影がすばらしく、作品世界の質感までも感じさせつつ、彼ならではの世界観を表出させている。
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映画評論家 吉田広明
夫と子供を戦争で亡くした女のバラック食堂で、疑似的な家族が成立する前半部と、片腕の利かない男との「仕事」を巡る後半部。共に戦争によって心が壊れてしまった二人、彼らをつなぐ存在たる少年がその生を見届け、それを教訓とも生きる縁ともしながら、新たな生に立ち向かうべく闇市の中に消える。過去に囚われた女と男、屋内と屋外、そして未来を担う少年と、きれいに対称的に構成されている分、その美的な形式はかえって戦争の体感を妨げ、心に棘がざっくり刺さる感触を失わせている。
サムシング・イン・ザ・ダート
公開: 2023年11月24日-
映画監督 清原惟
今私は何を観ているのか?と思うような、観たことのないタイプの映画だという感じがしたのだが、そのカテゴライズのできなさが謎であり、面白さだと思った。陰謀論めいた街の謎や、超常現象も、すべて冗談みたいだけれども、その謎を追う二人の主人公たちは妙に現実感がある。観た後に知ったことだが、監督二人が主演であり、現場を三人で回していたというから、この妙な感じにも納得した。やはり作り方というのは、否が応でも映画の画面にも現れるものだということに勇気をもらった。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
作り手曰く、LAという都市へのオマージュらしいが、残念ながらLAの魅力など画面から全く伝わってこないし、低予算のインディーズの弱点だけが露呈している。主人公二人がアパートの一室で遭遇する“超常現象”の陳腐さ、それをドキュメンタリー映画に仕立てるメタ映画風な発想にも既視感がある。土台、このワン・アイデアで2時間弱の尺を語りきるには無理があるのではないか。パンデミック下での企画らしく、全篇に漂う荒涼たるざらついた“幽閉感覚”だけが奇妙にリアルであった。
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映画批評・編集 渡部幻
社会から孤立したような二人の男が出会い、部屋で浮遊する結晶体の光に遭遇、常軌を逸したドキュメンタリー制作を開始するが……。奇才ベンソンとムーアヘッドの巧妙なDIYスタイルは、否応なくパンデミック下の終末感、閉塞感、無力感や倦怠感を思い起こさせる。「X-ファイル」的な怪現象の推測がみるみるうちに陰謀バラノイアへと発展していく様子はブラックコメディ的であり、同時に、むしろ「ナイトクローラー」「アンダー・ザ・シルバーレイク」に連なる現代人の危機をめぐる寓話とも取れるのだ。
ロスト・フライト
公開: 2023年11月23日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
ただでさえ面白いナショジオチャンネルの『メーデー!』をさらに濃縮したかのような迫真の機内シーン。乗客全員特技を活かして危機を突破、みたいな展開になったら痛快娯楽作だが、その真逆を行く凄いリアリティで、ある意味シミュレーションドラマ的面白さ。航空会社の危機管理担当者が傭兵を雇うのだけファンタジーかと思ったらこれも現実にありうる話だとか。終わり方が示唆するとおりどうも続篇の予定があるらしく、個人的にはこれだけでいいんじゃないかと思うがさてどうだろう。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
ジェラルド・バトラーが製作・主演。被雷した旅客機がフィリピンの反政府ゲリラが支配する島に不時着するというサバイバル・サスペンス。被雷→不時着→ゲリラとの闘いと話は単線的に進み、シナリオに気の利いた工夫はない。また旅客機の描写の多くが安っぽいVFXで、ロケ撮影も画質の低いデジタル撮影のため、映像のテクスチャーを重視する者としてはかなり興醒め。メジャー・スタジオ製の作品ではなく、アクション俳優が製作・主演すると大抵低予算低画質ご都合主義の仕上がりになるという典型。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
大嵐と落雷によって制御不能となった飛行機が不時着した場所は、イスラム過激派がのさばる無法地帯だった。次から次へと降りかかる災難を、屈強な肉体と血走った瞳で生き抜くジェラルド・バトラーはやはり極限状態が似合う男。バトラー演じる機長のバディは移送中の殺人犯という設定が、緊張感を途切れさせない。フィリピンのホロ島が舞台ならば、もう少し踏み込んだドラマを見たかったが、本作はあくまでポップコーン片手に無心で楽しめるエンタメに徹していて、それはそれで良い。
シチリア・サマー
公開: 2023年11月23日-
文筆業 奈々村久生
同性愛者であると知られることは社会的な死に値した80年代シチリア島の時代劇。よくも悪くもクラシックな作劇と演出であり、眩しい太陽と美しくも儚い花火の光に彩られた少年たちの描写は、イノセンスへのロマンチシズムに溢れていて、若さゆえの刹那を含め、その?末は是枝裕和監督の「怪物」を想起させる。自分たちの価値観が正しいと信じて疑わない、ステレオタイプな父親や叔父の対応に反し、少年たちの双方の母親が示す葛藤とその発露に、当事者以上のきめ細かさが滲む。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
僕は美少年は大好物なんですけど、本作は無難に美少年と美少年が愛しあうのを小エロく描いといて最後に二人は差別に殺されて悲しくも美しかったですね、じゃ済まなかった。最初ゲイの子をいじめてた不良どものホモソーシャルは、ひどい差別をしながら同時に発情もしてることが描かれ、主人公を愛情で包んでいた家族や親戚たちが同性愛をマジで忌み嫌ってるのを終盤で目にした不良たちはドン引き。「正しさ」と世間の常識と普通の宗教と家族愛が地獄であるという、重い傑作。
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映画評論家 真魚八重子
シチリアの風光明媚さがかき消されるほどの、同性愛者への差別。世界中で映画はLGBTQに対する嫌悪や差別を露わにする人々を描き続け、同性愛の映画の中でも〈迫害〉はもはや一ジャンルを成すだろう。同性愛嫌悪と女性差別はセットになっていることも多く、シチリアも男がのさばってきた歴史がある。本作も差別主義者とは断絶があり、同性愛者を毛嫌いする人を説得するのは難しいという諦念に囚われる。ただし映画の出来不出来はまた別の話で、銃声だけで処理したラストは端折りすぎではないか?
首(2023)
公開: 2023年11月23日-
ライター、編集 岡本敦史
「いつの世も“天下人”などと呼ばれるヤツらは、ろくでなしばかり」という北野武監督らしい歴史観を、北野作品らしからぬ超大作ルックで見せるという大がかりな転倒に、まず面食らう。かつて「血と骨」で共闘した撮影の浜田毅が堂々たる仕事をしている。合戦シーンになると普通の映画に見えるきらいもあるが、「乱」を撮ったころの黒澤明とほぼ同年齢だと思えば、この大作志向と「昔ほど遊ばない感じ」にも納得がいく。欲を言えば、衆道の描写にはもっと繊細さと実感が欲しかった。
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映画評論家 北川れい子
北野監督が戦国時代と戦国武将たちを好き勝手に切り刻んだ血まみれスプラッターホラーである。ビートたけしが演じている秀吉はただの生首フェチで、加荑亮の信長も気まぐれで残忍な変質者、人気俳優たちが勢揃いした武将役はどいつもこいつも裏ありの二枚舌野郎、まさに生首ゴロゴロ、血の量も半端ない。北野監督がどういう意図で脚本、編集まで手掛けたのかは不明だが、悪趣味な笑いを含めもう最悪! とはいえ、血まみれ狂気は世界の現実でもある。監督はそれを予感した!?
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映画評論家 吉田伊知郎
北野映画としては最長の空白期間を経たものの時代劇版「アウトレイジ」を期待するなら十分満足させる。方言を多用する残虐で狂的な信長(加瀬亮が絶品!)、狡猾かつ武士の格式ばった振る舞いを嘲笑う秀吉、とぼけた家康のキャラ付けも良く、史実との年齢差も気にならない。ウエットになりかけると瞬時に冷徹な裏切りや死が訪れるドライな視点が徹底されるのも良い。ただし、初期作に見られた色気のある同性愛描写に較べれば、今回の衆道描写は即物的すぎて取って付けたよう。
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
公開: 2023年11月17日-
文筆業 奈々村久生
「バーニング」でデビューしたチョン・ジョンソは、猟奇的な怪演で度肝を抜いた「ザ・コール」の監督との再タッグで「バレリーナ」(Netflix)を発表したが、私生活でもパートナーであるイ・チュンヒョン監督はジョンソのハードな面ばかりを強調。モナ・リザもその延長線上にあるが、アメリカに生きるアジア系女性がシングルマザーとその子供を巻き込む、弱き者たちのしたたかな共犯関係を描いたアナ・リリ・アミルプール監督の魔術的な演出がポップで痛快。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
口ずさみたくなるロックの歌詞をそのまま脚本にしたみたいな映画。「寡黙で神秘的な東洋娘」とか「よい黒人」とかは類型なんだが、新しいことは特に何もやってないんだが、とにかく人の顔がいい。チョン・ジョンソの顔を見てるだけで最高だし、脇役も子役も全員いい。お金かけてないのに画ヅラもいい。あと、いかにもなストーリーだったのに人が一人も死んでない。これはなにげにすばらしいことではなかろうか。こういうのでいいんだよ、こういうので。ていうか、こういうのがいいんだよ。
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映画評論家 真魚八重子
韓国人俳優チョン・ジョンソが良い。気の強さと無垢であることが無言で同居し、クールな表情をしていてもチャーミング。「ハスラーズ」のような女同士の連帯は、私欲の前では吹き飛ぶが、母に代わる飛行場での子どものシークエンスは、チケットの名前から自己犠牲まですべていとおしく完璧。モナが何者かわからず、人を操る超能力ゆえに、精神病院に12年も入っていた経験は重い。だからこそTシャツ1枚の違いで楽しい。彼女の新たな人生の始まる赤い月夜のフライトはワクワクする。
スラムドッグス
公開: 2023年11月17日-
文筆業 奈々村久生
やさぐれわんこの逆襲をコミカルに綴ったブラックコメディだが、飼い主の虐待を愛情と信じて疑わない捨て犬の主張は、人間の児童におけるそれの構造と酷似しており、笑ってしまうほどに胸が痛んだりもする。アメリカ式のコテコテなユーモアのノリも、主体のビジュアルが犬であるからこそ見え方に変化がつき、人間を主語にしないことで語れるものがまだまだあるという可能性を実感する体験。欲を言えば小ネタ的に挿入される猟奇殺人鬼の飼い犬のアナザーストーリーも観たかった。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
可愛いワンちゃんたちが口を開けばオチンポ様とかウンチとか聞くに耐えない下ネタを言う。わざと言う犬もいるが、犬は他の犬の肛門の臭いや排泄物や吐瀉物が好物なので真顔でも言う(犬の真顔とは?)。人間もウンチまみれ、キノコ食ってラリった犬の視界もごきげんだが、飼い主との悲しい関係は人間同士の共依存のメタファー。こういう映画大好き。吹き替え日本語版で牝犬を演じたマギーの声もよかった。てっきり犬は全部CGだと思って観てたら、リアル犬による演技だったと知ってびっくり。
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映画評論家 真魚八重子
想像以上に下品で気分が悪くなりそう。下ネタのオンパレードで、「テッド」の製作チームによるものというのもむべなるかな。自分が飼い主に嫌われていると気づいておらず、しかしそれがわかった途端、恐ろしい復讐に燃え立つ主人公の犬が可愛いが、原語のアテレコはウィル・フェレル。アメリカンコメディ界は人材がくすぶっていて、時が止まって感じる。実写とCGの技術が高く犬の表情がナチュラルで、その天然性によって観ていられるし、犬の感情が感じられる編集は良かった。
きのう生まれたわけじゃない
公開: 2023年11月11日-
文筆家 和泉萌香
空への道を駆け回る光が我々の視線を軽やかに奪っていく。時には、此処では流れてはいない時間のなかでひとり言葉を発しもする登場人物たち。あちらこちらに散りばめられた黄色が次々に目に飛び込んだあと、ぱっと広がった照葉には思わず星空のような、とつぶやきたくなるほど。詩人が辿り着く海や雲の形、それぞれ異なる色をして並ぶ木々といった自然の美しさに、大袈裟でなく驚き嬉しくなってしまう。てんとう虫は枝や指先に止まったら一番高いところまで上り、飛んでいくそうだ。
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フランス文学者 谷昌親
詩人でもある福間健二監督が少女と老人の交流を描いた作品。少女・七海と元船乗りの老人・寺田の関係を軸に、そこに他の人物たちのさまざまなエピソードがからむのだが、エピソードの積み重ね方、そして人物のとらえ方や演技はむしろドキュメンタリーを思わせ、結果として、独特の詩的な感触が生み出される。福間監督が慣れ親しんだ国立市の風景が魅力的だし、川べりの公園での飛翔シーンに心を動かされる。だが、残念なことに、詩と映画が理想的なかたちで融合できたとはいいがたい。
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映画評論家 吉田広明
監督の評価したピンク映画は、断絶や軋みに満ちた社会の中で、性を通じてギリギリ結ばれる関係を通じて現在を炙り出すという意味で批評的なものでもあった。ここでは人間関係は軽やかに結ばれ、また解かれてゆく。人の心が分かる子どもと、死んだ妻と会話する老人。彼らは、心の中と外、生と死、その境界を自在に踏み越える。ユートピア的な境地であり、これが遺作となったことにいささかの感慨を覚える。ただ社会の周辺に置かれた存在のみにそれが託されるのは若干寂しい気はする。
正欲
公開: 2023年11月10日-
文筆家 和泉萌香
眉毛をべったり(!)描いて登場する新垣結衣が、ベッドに寝転んだ自分を発見して鏡を隠す。欲望を感じる自分自身の姿は、見たくない。新垣はじめ俳優たちが向かいあうごと、カメラは各々の顔をとらえ、彼らの瞳もまた拒絶、歩み寄り、興味、空洞、時に鏡のような表情を見せるのが素晴らしい。〈普通〉とは異なる欲望を抱く人々を描きながらも、物語は社会において最も守られるべき存在に対しての姿勢は徹底し、許してはならないそれへ引いた線は崩さない。原作も読まなければ。
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フランス文学者 谷昌親
物語やテーマは原作から受け継いだものではあるが、ここまで多様性について考えさせてくれる作品はあまりない。同時に、岸善幸監督がインタヴューで強調する「二面性」にも関係する作品になっていて、まさにそれが、「二重生活」以来の監督の関心事だと感じさせる。その二面性に最も苦しむのが、新垣結衣が演じた夏月だ。その夏月や彼女と秘密を共有する佳道に観客は共感するようになるのだが、もし別の性的指向を描いた場合でもそうなるのか、という疑問がどうしても残ってしまう。
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映画評論家 吉田広明
人と違う嗜好を持つために生きづらい人々の連帯という主題自体は全くの正論、異論の余地もないが、しかしその嗜好が水フェチ程度で自分を宇宙人に感じるとかお前は社会のバグだと言われるとは大仰過ぎないか。それは異端性の一つの比喩に過ぎず入れ替え可能とは逃げ口上で、水だからこそ観客は安心しているし、それが静謐な映画のトーンを決定するのだから、唐突にそれを言語道断な性的暴力と一緒くたにして衝撃を与えるのは無理筋。為にする設定、安易な想像力の所産というほかない。
花腐し
公開: 2023年11月10日-
ライター、編集 岡本敦史
作り手の狙いが完璧に達成されていれば、しかもそれが面白ければ、星の数を減らす理由がない。個人の好き嫌いとか、観る人を選ぶかもという心配とか、要らぬお世話に思えてくる。荒井晴彦作品に望む男女のドラマが濃密に描かれていて、綾野剛のいままでにない芝居が観られて、柄本佑が相変わらず荒井演出のもとで生き生きしていて、ピンク映画業界へのオマージュが重くも軽くも込められた、しかも近年最もモノクロ画面が冴えた作品であれば、やっぱり観ない理由は探せなかった。
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映画評論家 北川れい子
寒々しい波打ち際に横たわる濡れそぼった男女の死体。男は新作を準備中のピンク映画の監督で、女はその作品で主役を演じるはずだった。という場面からスタートするが、話の軸は、死んだ女と時間差で深く関わった2人の男の、不甲斐ない傷の舐め合いで、現在をモノクロ、過去はカラーという演出もくすぐったい。さしずめ希望は過去にしかない? 新宿ゴールデン街でクダを巻く場面や、アダルト映画顔負けの場面も。後ろ向きでクセのある、死んだ女とピンク映画へのレクイエムか。
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映画評論家 吉田伊知郎
前作は食と性を介して男女を描いた荒井監督が今回は著書『争議あり』を基に細部を形成したかのような固有名詞と自己言及をちりばめる。実名を連ねて時代を形成し、雨と歌と性を重ねていく。「新宿乱れ街」の30数年後を描いた後期高齢者の繰り言かと思いきや、劇中の同時代にシナリオ講座へ通い、国映の成人映画を観ながらピンク映画のシナリオを応募していた筆者などは自分を重ねてしまい、心が揺れる。「身も心も」の奥田瑛二&柄本明を凌駕していく綾野剛&柄本佑に見惚れる。
法廷遊戯
公開: 2023年11月10日-
ライター、編集 岡本敦史
人は誰でも嘘をつくという作中世界のルールでもあるのか、「単刀直入に訊けばよかろう」と思わせる場面が続き、とにかく回りくどい。どんでん返しのお膳立てとして小説なら成立していたかもしれないが、2時間の映画では難しい。法廷ドラマとしても、現行の司法制度への批判と、裁判制度自体への揶揄がゴッチャになっていて、そもそも「裁判は犯人当ての場ではない」という大前提の理解すら怪しい。いちばん恐ろしいのは、このタイミングで「贖罪から逃れる物語」を映画化したことだ。
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映画評論家 北川れい子
司法制度の改革とか、冤罪とはとか、頻出する法律関係の用語が話を惑わせるが、描かれるのはロースクールで学んだ3人の手の込んだ因縁話で、観終わっての後味はかなり消化不良! 少しずつ明らかになる彼らの重い過去が、無責任な大人や法律の不備にあるというのは分からないでもないが、回想というより後出しジャンケンふうな真相の出しかたもズルい。ミステリーではよくある手だが。後半の裁判場面が学生たちの模擬裁判と大差ないのは「法廷遊戯」というタイトルへの忠節?
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映画評論家 吉田伊知郎
ひたすら設定だけを説明され続けているかのようで、映画を観ている感覚にならず。ロースクールで暇つぶしに行われる〈無辜ゲーム〉や、生徒たちが揃って示す反抗のポーズなども、無国籍的な世界観が作られていれば良いが、日本とは思えず。「ソロモンの偽証」が前後篇使って学校内裁判を成立させていたことを思えば、この状況にすんなり入りきれず。過去の因縁話も説明に説明を重ねられて明かされるだけに、驚きが薄い。登場人物たちはゲームのコマのように動かされるのみ。
私がやりました
公開: 2023年11月3日-
映画監督 清原惟
友人同士である女優と女性弁護士が共に無実を証明するまでの物語と思って見ていたが、早々に勝利を手にしてしまい、第二の展開が待っていた。そこで突然現れた、イザベル・ユペール演じるかつての大女優オデットが、二人の勝利をかき乱す。オデットのキャラクターはかなり滑稽で痛々しいのだけど、そんな彼女が単なる悪役としてのみ機能する話ではなかったところに救われる。女性の参政権もなかった時代を舞台に、今にもつながる問題意識を軽やかに喜劇として描いているのがよかった。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
F・オゾンは現在のフランス映画界で大衆性と自己流の美意識を統一させた手練れの演出で一頭地を抜いている。本作は「イヴの総て」を反転させた小粋な笑劇だが、B・ワイルダーの処女作「悪い種子」の引用からもわかるようにワイルダーへのオマージュだ。I・ユペールの怪演は「サンセット大通り」のG・スワンソンを彷彿させるし、アモラルなファースの趣向は「人間廃業」を書いていたウーファ時代が想起される。しかし、そこには〈ファースへのノスタルジア〉(花田清輝)だけがあるのだ。
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映画批評・編集 渡部幻
「8人の女たち」「しあわせの雨傘」と共に三部作を形成する新作は“アモラル”な偽装犯罪コメディ。ぼくが一番好きな「しあわせの雨傘」のみ犯罪ものではないが、「さて、それで女性たちはどうする?」のスリルは同じ。50年代、70年代と続いて今度は30年代が舞台。各作品、各時代のハリウッド映画の気取らないリズム感を踏襲しながらフランス風に料理した。オゾンはここでも女優への感謝を込めて、男性優位の社会に居直る女性たちの“犯罪”的な反撃にこそ“モラル”を見出だして気持ちがいい。
パトリシア・ハイスミスに恋して
公開: 2023年11月3日-
映画監督 清原惟
ギターのやさしい音色が印象的なこの伝記映画は、1920年代にアメリカに生まれたひとりの小説家が、ひとりのレズビアンとして生きた軌跡をたどる映画でもあった。「キャロル」をはじめとする、彼女の小説を原作とした映画の断片と、そこに彼女自身の物語が重なる瞬間には鳥肌が立つ。創作への向き合い方から、女性が女性と恋に落ちることの当時の社会的困難さについてなど、軽快でかわいらしいタイトルからは想像しなかったような人生の重みと示唆が含まれた映画だった。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
長年のハイスミス・ファンにとってはたまらないドキュメンタリーである。母親との熾烈なまでの確執、同性愛者としての側面が往時の愛人たちによって語られ、その栄光と苦渋に満ちた人生のピースは補完されるも謎は残されたままである。改めて「見知らぬ乗客」を見出したヒッチコックの慧眼に唸るほかない。「めまい」が暴いたようにヒッチコックはオブセッションの作家であり、ハイスミスも、二人をつなぐ「ふくろうの叫び」のクロード・シャブロルも同じ妄執に囚われた精神的血族にほかならない。
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映画批評・編集 渡部幻
「自信満々な人ではなかった。そこに好感を持った」。ハイスミスと暮らしたかつての恋人が振り返る出会いの印象は、即座に「キャロル」のルーニー・マーラを連想させる。この映画の広告、恋人たちの証言、そして若き日の写真もそうだ。かの犯罪小説家のイメージとは異なるが、そこには人間形成の地層があるのだ。母の愛を求めて叶わず、女性たちを愛し、本物の愛を見つけると外国に移住して……。「私は人生のどんな災難も栄養にしてみせる」。この決意と実践なくして作家ハイスミスは生まれなかった。
おしょりん
公開: 2023年11月3日-
文筆家 和泉萌香
当時にタイムスリップする場面での壮大で美しい雪景色の後は、ほとんど人物が配置された室内の画がほとんどになるが、文化財であるという撮影地の家々の内部、登場人物たちの着物の色彩、美しい紅葉、金属や炎の輝きと、細部まで見つめることの楽しみに溢れている。何度も流れる感動的な音楽に少々ムズムズしてしまうものの、北乃きい、森崎ウィン(パッと振り返り目が合う、ベタなのにいい!)はじめ、真の主役である職人たち、共演者たちの表情も生き生きとチャーミング。
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フランス文学者 谷昌親
明治時代に、福井の片田舎でメガネづくりを一から始めた人びとの物語に登場するのは、いずれも誠実でひたむきな人物ばかりで、観ていて清々しい気持ちになれる映画だ。しかし、それぞれの人間にあるはずの多面性が排除されることで、映画そのものが一面的なものに見えてしまう。せめて兄嫁と義理の弟のあいだの許されざる恋をもう少し描いていれば、多少は変わったかもしれない。映画が一面的になるなかで、本来は映画的にはおもしろくなるはずのものづくりの部分も色あせてしまった。
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映画評論家 吉田広明
冒頭に福井の観光CMが流れ、新幹線がトンネルに入って過去=映画本篇となる。狙いが分かりやすくて結構だ。福井でメガネ産業が盛んになった理由を描く地場産業振興物語。詰まる所インバウンドでメガネの福井の観光宣伝。にしても「新しいことに挑戦、苦難を経て成功へ物語」のモデルが大抵明治という明治信仰は何とかならないのか。決して破綻に至らない程度の葛藤をほどよくまぶし、見た後に多幸感以外何も残さない安逸な世界。ロケに使える古い建物が残っているのには感心した。
ドリー・ベルを覚えているかい?
公開: 2023年10月27日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
独特のユーモアや音楽への敏感さなど、のちの作品(「アンダーグラウンド」等)に通じる要素はあるけれど、むしろそれらとのトーンの違いに驚かされる。チェコ・ヌーヴェルヴァーグっぽく感じるのを不思議に思いつつ観たのだが、クストリッツァはFAMU(チェコ・ヌーヴェルヴァーグの拠点となった映画学校)の出身だから、めちゃくちゃ意外なことというわけでもないだろう。話は典型的な成長物語。ドリー・ベルとの恋以上に、父親との関係の描写、および父親の人物像に心を動かされる。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
日本未公開のクストリッツァ監督の長篇デビュー作。旧ユーゴスラヴィアのサラエヴォの少年が、謎の女性ドリー・ベルとの共同生活を始める、クストリッツァ版「青い体験」。思春期の少年の夢や戸惑いが丁寧に描かれ、クストリッツァ流のユーモアや弾け具合も織り交ぜた、地球の辺境の少年の話ながらも誰もが共感できる普遍的青春映画。辺境の地で悶々としつつ大人の世界/大きな世界とつながりたいという少年の思いが、後の爆発的にイマジナブルな「アンダーグラウンド」につながるのがよくわかる。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
クストリッツァのユーゴスラヴィアへの愛と悲しみ、混沌とした世界観は27歳時の初監督作品でも遺憾なく発揮されていた。催眠術に凝る息子と、催眠術なしで共産主義の到達を願う父親の政治談議が微笑ましい。終盤、自己暗示を肯定する父親の意外な言葉に、そこはかとない優しさを感じてホロリとしてしまった。男性陣が囲い、征服し、共有するマドンナ、ドリー・ベルの身の置き場のなさが私には痛いほど胸に突き刺さった。死や性と向き合い成長する少年のほろ苦い青春、唯一無二感。
ドミノ(2023)
公開: 2023年10月27日-
文筆業 奈々村久生
子供が行方不明になった、というシチュエーションはたびたび映画に登場し、しばしば親が妄想や虚言を疑われる。 そうした妄想説の裏をかき、SF的な根拠を与え、さらに転調を繰り返す作りは、このジャンルに新たな鉱脈を与えたはず。他人を騙すには自分から。また、主体が母親ではなく父親であることで、母性愛という思い込みの外にある、親子が能動的に愛を構築する描写が可能に。ロドリゲスのスタジオ設備を写し込む形で撮影されたシーンは、人為的に現実を作り出す映画づくりそのもののメタフィクションになっている。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
娘がらみのトラウマで心を病んだ肉体派はみだし刑事vs超能力で人の認知と「物語」を操る卑劣な強敵のバトルかと思いきや、話の根底がひっくり返る。途中からちがう映画になっちゃう系は嫌いじゃないけど、最後のドンデン返しを謎ときみたいにセリフで説明されて困った。撮影期間が足りなくなったのかな? 全篇がロドリゲス監督の、ハリウッド映画への風刺なのかもと解釈したら腑にはおちたが、ラストで主人公を救うものもまた映画が人心を支配して世に悪影響を与えるド定番の「虚構」かと。
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映画評論家 真魚八重子
架空の世界を創造するという意味では、創作者らは映画内映画的な高揚があったかもしれない。途中までに登場した装置が集合したスタジオのような美術も、そういったイメージに沿わしているのだろう。だが映画は現実を夢見させるものだ。最初から出鱈目な虚構も甚だしい本作の世界観は、砂上の楼閣にすぎない。真実に近づいてからの色褪せたセットはなんと冴えないことか。揃いの赤いジャケットも物真似歌合戦の司会みたいでダサい。メインの人物の生い立ちもすぐに割り出せるだろうに、些末も脆弱。
トンソン荘事件の記録
公開: 2023年10月27日-
映画監督 清原惟
ジャンルとしてはフェイクドキュメンタリーなのだけれど、映像や芝居の質感からはじめ劇映画だと思ってしまった。しかし、ふいに監視カメラや、ペットカメラなどの定点映像が挟み込まれたときにその領域が溶けていく。次々と不可思議なことが起きるその現場に、カメラを持ち潜入するが、その彼らを撮っているカメラがあり、過去のビデオの視点はまるでこちらを見ているよう。現実がどこなのか迷子になるくらい複数の映像のレイヤーが敷かれ、その間をイメージが媒介していくようだった。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
昔、映画批評においても疑似ドキュメンタリー・タッチの功罪が俎上に載せられたことがあるが、この映画は既存のフェイクドキュメンタリーの手法を駆使したホラーの欠点が露わにされている印象が否めない。おどろおどろしいナレーション、呪いのビデオテープ、そして謎めいた祈?師の出現と加害者に憑依し狂っていくヒロイン。手持ちカメラのぶれた映像と主観ショットの濫用etc。いずれも迫真的なリアリティを出そうとして、かえって喪失させてしまっているように思えてならないのである。
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映画批評・編集 渡部幻
この星取りレビューでは依頼された作品を見るので、ほぼ予備知識なく向き合うのだが、これは殺人現場もの、呪われた事件の調査・考察もののフェイクドキュメンタリーであった。余程のアイデアでもない限り、この手はしばらくもういいのではないかと感じているが、しかし、パターンの中の違いを楽しむジャンル映画なので、門外漢にとやかく言われる筋合いはないともいえる。映像は洗練されているが、その分だけ“フェイク”としてはありきたりなのであって、何よりそれほど怖くはないのである。
愛にイナズマ
公開: 2023年10月27日-
ライター、編集 岡本敦史
映画公開の頃にはコロナ禍も終わるだろうと考えた楽観性(あるいは希望)は否定するまい。とはいえ先日発症済みの身としては、感染者が1人も登場しないのに「今の世界を描いた」ような態度はいかにも視野が狭い。そして中盤以降の家族のドラマとも無関係すぎる。主人公の新人監督が悪辣なプロデューサーに「人間をもっとよく見て」と再三言われるのは、作り手の実体験か、恨み節まじりの自虐か。物語が進むにつれ「俺もそう思う」と頷いてしまうのは、敵役に同調するようで悔しい。
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映画評論家 北川れい子
“映画の映画”も時と場合で進化(異化?)する。愛にイナズマなら、カメラは雷鳴? いや、雷鳴は大袈裟だが、連作短篇ふうな章立ての進行と、ベースの映像に主人公たちが手にするカメラの映像を交えた演出は、余裕とユーモアがあり、章ごとの切り上げかたも小気味いい。オリジナル脚本で監督デビューするはずだった花子の無念の頓挫。調子のいいプロデューサーや、鼻持ちならない助監督はパターンだが、実家に戻っての後半は花子のキャラも一転、カメラももう嘘は許さない!
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映画評論家 吉田伊知郎
過剰な設定と、カリカチュアされたキャラクターに乗れるかどうかに尽きる石井作品。若手女性監督が自作を奪われる過程が、これでは監督交代もやむなしに見えてしまう(嫌な助監督の三浦貴大が絶品)。粗雑で語彙もないが、それでも映画が撮りたいが見えてこない。主人公が周辺にカメラを向けるときの暴力性に無頓着なのも引っかかる。生き別れの母の?末を携帯で聞くだけで済ませてしまうのは、糸電話や日記を駆使する「アナログ」と続けて観たこともあり、思うところ多し。
SISU シス 不死身の男
公開: 2023年10月27日-
文筆業 奈々村久生
タイトルがすべてを物語っている潔いほどのネタバレ全開。元軍人にして、たった一人で荒野をサヴァイヴするアアタミは、最小限の武器とその場にあるものや状況を味方につける戦法が、野蛮な「MASTERキートン」といったところ。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)よろしく女性陣の反乱あり、「ミッション・インポッシブル」シリーズばりのアクションあり、そのすべてを泥臭さで互換。アアタミが超人すぎて、相手がナチスであることや善悪の区別すらつかなくなってくるのが、強みでもあり弱点でもあり。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
SISU道とは、私は死なないと決めることだと見つけたり。もっと徹底的にやってほしかった場面とか主人公が戦闘訓練うけてないただの人のほうが更に荒唐無稽でよかったのではとか、いくつか疑問はあったんだけど終わったら忘れちゃった。むしろ終わってから、「あきらめない」と心に決めるとはどういう精神状態なのかとか、悪役のほうが生に執着していたけど「執着する」と「心に決める」は何が違うのかとか、哲学的な問いで頭がいっぱいになった。鑑賞後に哲学的になれる映画は、いい映画。
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映画評論家 真魚八重子
少し古臭い印象を受けてしまった。ゼロ年代によくあった、ロバート・ロドリゲスやザック・スナイダーの世界観や映像に非常に似ている。物語はないに等しく、箇条書きで「死なない男が次々と襲ってくる奴らを返り討ちにする」。これは箇条書きなら良いにしても、脚本とは呼べないので、殺され方に創意工夫を凝らしていても飽きてくる。銃を抱えた女たちが横並びで歩いてくる演出も、じつは実戦的でないあたりが華を持たせた域を出ない。発想は面白そうでも、座持ちしない映画というのもあるのだ。
唄う六人の女
公開: 2023年10月27日-
文筆家 和泉萌香
飲み込まれそうに鮮やかな緑色が犇いて、突如出現した謎めいた女が虫をぱくり……<禁断の地>へ誘われて監禁される男たちの物語、へ抱く予想と期待にそって、映画は恐ろしくスリリングな快走スタートをきる。和服姿もいればワンピース姿の者もいて、だがカラコンはお揃いの女たちは、自然界とはまた別の裂け目からやってきたような妖しい存在感をそれぞれ発揮。そんな彼女たちと、びくびくしながらもどこかおっとりとした風の竹野内豊演じる主人公が与える安心感のバランスが面白い。
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フランス文学者 谷昌親
現代社会に対して重要なメッセージを突きつけつつ、エンタテインメント性を置き去りにしていない映画ではある。だが、結果的にはどっちつかずの作品になってしまったという印象は否めない。物語としての構築性はそれなりにしっかりとしている。だが、6人の女がそれぞれただの象徴にとどまり、俳優の演技とは裏腹に、薄っぺらな存在に見えてしまうのだ。そもそも、森にいるのがなぜ「女」でなければいけないのか? そうした発想もただ古めかしく感じられてくるばかりだ。
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映画評論家 吉田広明
山奥の屋敷周辺の森が二人の男を閉じ込める迷路と化す。そのカギを握るらしき六人の女。狂気の父の遺した写真や、過去とも未来ともつかないイメージ、女たちの不思議な生態など、森の謎と女たちを描く映像美。しかし映像美なんて胡散臭いと思っていると案の定、謎が割れると神秘のポテンシャルが尽き、急に環境保護の社会批判となって底が見えてくる(そういうことなら何故そもそも女性しかおらず、父親が運動を息子に隠す必要があるのか)。やはり映像美など映画にとってただの逃避だ。
極限境界線 救出までの18日間
公開: 2023年10月20日-
映画監督 清原惟
9.11から数年経ったアフガニスタンを舞台にした、テロ組織と韓国政府の取引を描くサスペンス。実現するのが難しいだろう設定なのにもかかわらず、無理を感じない撮り方がされていることに驚く。凄腕の工作員役は、『愛の不時着』のヒョンビンなのだが、あくまでスターとしてではなく泥臭い人間としてそこにいる。私はなんと途中までヒョンビンだと気がつかなかった。わかりやすい損得を用いた論理的な交渉ではなく、もっと複雑な心理戦としての戦いが描かれていることに痺れた。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
辣腕ネゴシエーターの丁々発止の暗躍を描く映画は少なくないが、2007年にアフガニスタンで起きたタリバンによる韓国人23名拉致事件をヨルダン・オールロケで撮ってしまう今の韓国映画界の胃袋の大きさにはいささかたじろいでしまう。人質が2名射殺とほぼ史実通りのプロット、そしてタイムリミットの設定による緊迫感の醸成。イデオロギーを脱色させ、タリバンの酷薄さを露わにさせつつ、エリート外交官とはぐれ者の工作員のバディ・ムーヴィーとして成立させる王道の語り口には感心する。
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映画批評・編集 渡部幻
2007年のアフガニスタンでイスラム過激派が韓国人キリスト教宣教師グループを誘拐、この人質事件をめぐる外交官と諜報員の奮闘を描いた社会派娯楽作。センセーショナルな題材だが、タリバンと拉致被害者への洞察に欠け、すぐに古めかしいパターンを踏襲したヒーロー物語に変わる。アクションスリラーに新たな個性を加える演出の飛躍もないし、カン・ギヨンとヒョンビンの熱演にしても後半に進むほど平板なものとなる。堅いことを言わずに楽しめる場合もあるが、ぼくは興醒めしていた。
私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?
公開: 2023年10月20日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
事態がどんどんと混沌としていく序盤と、主人公の自作自演をこちらも疑ってしまいそうになる事件後の悪夢的展開を観ていると、たぶんユペール様が主演しているせいなのだけど、クロード・シャブロルだったらこれをどんなスリラーに仕立てていただろうかとも想像してしまう。それはともかく、ゴリゴリの政治サスペンスとして展開されるかと思いきや、最終的には女性の立場の弱さが印象に残る。「過去に性暴力を受けた、あるいは精神的に不安定である女の弱み」が狙われたという卑劣さ。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
名優イザベル・ユペールが仏原子力企業の労働組合代表を演じる、実話を基にした社会派ドラマ。内部告発者となった彼女が自宅でレイプされるという事件を自作自演と扱われ、圧力に屈することなく無罪を勝ち取るまでの話を描く。原発問題という日本人にとって他人事でない題材を、映画は精緻なリアリズムで描く。ただし事実に寄り過ぎて、映画はあまり起伏ない展開に終始する。ユペールの演技は卓越の極みで、映画祭で本作が上映されれば、間違いなく主演女優賞に推すだろう。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
労働者の雇用を守るため奮闘するバリバリキャリアウーマンのモーリーンが、自身のレイプ事件には戦力を失う姿にリアリティを感じた。この手の社会派となると熱演を期待してしまうが、脱力気味に淡々と演じるイザベル・ユペールが新鮮。裁判官に矛盾を指摘され、反論する気力もなくただ涙を流すしかない彼女の、やり場のない思いがじわじわと伝わってくる。奪われた言葉を最終的に取り戻す復活劇に静かな感動を覚える。派手な盛り上がりはないけれど、地に足がついた良作。
カンダハル 突破せよ
公開: 2023年10月20日-
文筆業 奈々村久生
ジェラルド・バトラーといえばアクション。「300〈スリーハンドレッド〉」(07)で演じたスパルタ王が強烈すぎていまだに引きずってしまう。それほどハマり役だった反面、俳優のイメージが特定のジャンルに直結するのは一長一短。本作では複雑に絡み合うアメリカと現地勢力との関係を反映した、アフガニスタン人通訳との愛憎入り交じる人間ドラマも描かれるが、バトラーのあまりにもマッチョな存在感が、その機微をブルドーザーのように薙ぎ倒している感は否めない。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
単純に西側を正義とする国際紛争アクション娯楽大作かと思いきや、頭を空っぽにして楽しんではいられないハードさだった。死体とかをリアルに描いて「戦争はよくないです」ってあたりまえのことだけ言って終わる予定調和の映画でもなかった。もうちょっと複雑なことを考えざるをえなくなる映画だった。主人公は生き延びる技術は超人的だけどヒーローではなく、冒険の依存症患者だった。作中で「神よ、死ぬ者も生き残る者も赦したまえ」と、ある人がつぶやいた。まったくだよ、と思った。
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映画評論家 真魚八重子
中東の砂漠を群雄割拠というより、魑魅魍魎が生きながら互いを喰い合っているような込み入った景色。CIA工作員のG・バトラーが、イランの核開発施設を破壊したことが漏洩して追われる身となり、アフガニスタン南部のカンダハルにあるCIA基地へ逃亡する。しかしイランに加えタリバン、パキスタンなど、政治に疎いとパッと見、どの集団か理解しづらい四つ巴の戦いとなり、もはや何がなんだか。ただクールな演出だし、夜間の戦闘で暗視カメラと発砲炎しか映らない、真っ暗闇な映像は素晴らしい。
ザ・クリエイター 創造者
公開: 2023年10月20日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
「GODZILLA ゴジラ」で渡辺謙に広島の惨禍を語らせたG・エドワーズは、今度はいきなりLAを被爆都市にしてみせるのだった。太平洋戦争の影もちらつくが、それ以上にヴェトナム戦争のイメージが強烈に引用され、観客を「ニューアジア」の側につかせる。わたし好みの要素の多いストーリーなのに、繰り出されるアジア的意匠(ブレラン的渋谷もあり)の大量さが物語るとおり、一本の映画にこれは盛りこみすぎだろうという感じで、ダイジェスト版みたいにせわしなく見えるのがもったいない。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
人類とAIが戦争を繰り広げる未来を舞台に、AIの中心にいる「クリエイター」の暗殺を命じられた主人公と「クリエイター」と称される少女の形をしたAIとに芽生える絆を軸に物語はダイナミックに展開する。監督ギャレス・エドワーズのオリジナル脚本で彼が愛するさまざまな映画――「AKIRA」「地獄の黙示録」「スター・ウォーズ」――の要素をふんだんにちりばめながらもパロディではなく格調高い仕上がりで、新しい世界観を提示しているのが素晴らしい。映画史に残る新たな傑作の誕生だ。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
昨今頻出している、ありがちなAIものかと思って見ていると、別次元にいざなわれる。「ブレードランナー」に「ポネット」的世界観が滲出したような。AI版ポネットともいえる少女役に本作で俳優デビューを果たしたというマデリン・ユナ・ヴォイルズを配役した時点で優勝。ラストのあの神がかった表情、その示唆に触れるだけでも一見の価値がある。AI対人間の対立が次第に、人間対人間あるいはAI対AIに展開するにつれ、「AIも人間も結局は同じ」という台詞を反芻することに。
おまえの罪を自白しろ
公開: 2023年10月20日-
ライター、編集 岡本敦史
この題名なので、J社の自浄努力も大したものだと思ったら、そういう話じゃなかった。誘拐犯に脅迫された大物政治家が己の罪を告白するという内容だが、現実のドス黒い醜聞を考えると、罪の中身が弱い。それよりも、人質救助よりスリリングに描かれる免罪工作、当然のように行われる世襲政治、警察やマスコミと結託した情報操作、不正取引の情報提供者への暴力的恫喝、そして弱者を加害者に設定する無神経さに対し、さして問題視しない作りに背筋が凍った。実に現政権らしい一作。
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映画評論家 北川れい子
政治家の因果が家族に報い! 孫を誘拐された国会議員を巡るサスペンスで、背景には過去の利権絡みの裏取引などがあり、保身と打算に走る政治家たちの醜いエピソードも。むろん警察もマスコミも役に立たない。そんな中、僕らは望んで国会議員の子どもに生まれたわけではない、という次男役の中島健人が、誘拐された姪っ子のために走り出すのだが、そのわりに緊張感が希薄なのは、誘拐事件より、政治家情報が多過ぎるからか。とはいえ伏線はあるにはあるが、犯人は確かに予想外。
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映画評論家 吉田伊知郎
「悪い奴ほどよく眠る」+「天国と地獄」を思わせるポリティカル幼児誘拐サスペンス。犯人側を終盤まで一切見せず、正義と倫理で要求を突きつけてくる無機質な存在にしたのは現代に相応しいが、古典的な犯人像に収拾されていったのは不満。重要な役どころが、配役の比重によっておおよその見当がついてしまうものの、しっかり者のようで抜けたキャラを演じさせれば右に出る者がいない中島歩が今回も良い味を出していたり、報道記者役の美波が意外な存在感を出すなど配役の妙が際立つ。
メドゥーサ デラックス
公開: 2023年10月14日-
文筆業 奈々村久生
全篇ワンショットで構成された映像マジック。めくるめく撮影のイリュージョン。まさに「蛇が這うような」視線とシームレスな動きを体現したカメラワークは、ロビー・ライアンの天才的な手腕が成し遂げた最高傑作と言っても異存はないだろう。それはリアルであることによる臨場感とはまた別の、計算され尽くされた映像美がもたらす没入感の極み。ユージン・スレイマンのメアメイクは人体と芸術作品と凶器をほとんど同義にした。長篇第一作目にしてこの境地に到達した監督トーマス・ハーディマンの行く末が恐ろしい。
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アダルトビデオ監督 二村ヒトシ
ワンカット(に見せかけた数カットの)長篇映画はすでに一つのジャンル。傑作「ボイリング・ポイント」でも思ったけど、ある職能集団のエグさを描くのに向いてる。「ソフト/クワイエット」でも思ったけどカット割られるより緊張感の中でカメラが寄ってくるほうが役者のテンションが上がるのか顔芸にも向いてる。「バードマン」でも「カメ止め」でもやってた、人の背中を追う場面移動、本作は鮮やかな後頭部と音楽がいい。撮影は超絶技巧。ミステリとしては普通だけど幕の閉じかたがチャーミング。
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映画評論家 真魚八重子
ヘアコンテスト会場で、頭皮を?がされたカリスマ美容師の遺体が発見される。しかし意図的に被害者は一度も写されない。カメラはライバル美容師やモデルたちの噂話に居合わせ、誰かの行動と共に建物を縦横無尽に動いていく。全篇(疑似)長回しで感心するが、中だるみや遅々とした展開は避け難く、意欲の先走りを感じる。まるで初期アルモドバルのような、全俳優による群舞はキッチュでグラマラスだし、意外なオチも悪くない。ただ特に佳境以降の演出が衒いすぎて、犯人探しに戸惑う観客を生むだろう。
宇宙探索編集部
公開: 2023年10月13日-
映画監督 清原惟
まるでYouTube動画のような、同ポジのまま短くつまむ独特の撮り方、編集に、はじめ戸惑った。しかし、宇宙人の手がかりを探す旅が始まると、一気に世界が広がっていく感覚があって、あの編集は日々の閉塞感を表していたのかもしれないと思った。設定も現実感がないし、旅の中で人間関係が深まるわけでもなく、それぞれの人物のこともあまりわからないままなのに、なぜだか写っている人々の皆に切実さが感じられる。YouTube的表現と映画的抒情が混ざって生まれた、現代のSF。
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編集者、映画批評家 高崎俊夫
『三体』以後、中国産SFがブームだが、こんな愛すべきSF映画の珍品がつくられていたとは驚きだ。あまりに低予算の素朴な手づくり感、巧まざるすっ惚けた笑いは「不思議惑星キン・ザ・ザ」を彷彿させる。メランコリックなUFOオタクの主人公の怪しい磁力に引き寄せられるように旅の途上で奇人・変人がゾロゾロ登場してくる。中国辺境最深部の鄙びた景観が次第に〈異界〉の様相を呈してくるのも見所である。高度経済成長とは無縁な敗残者たちが抱いた夢想の?末はなかなかにほろ苦い。
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映画批評・編集 渡部幻
「トンソン荘」とともにフェイクドキュメンタリー風だが、目撃者たるカメラの位置付けは厳密ではない。宇宙への幻想が失われた21世紀を生きる心優しき宇宙オタクのオヤジが未知との遭遇を求める旅を追う。謎解きの情熱もまたひとつの愛のかたちだから、夢見心地の狂気に誘われもするし、時には実存的な不安を伴う。合理的な時代性に反した情熱との折り合いは面白いテーマだが、中年男の夢の珍道中に付き合う仲間たちの悲喜こもごもは、演出と演技に退屈して、ぼくには間が持てなかった。
死霊館のシスター 呪いの秘密
公開: 2023年10月13日-
翻訳者、映画批評 篠儀直子
特殊能力を持つシスターが、神を信じない米国出身の黒人シスターをバディにして、悪魔の居場所と目的を探る前半はミステリ映画のような面白さ。中盤からは魅力的な女たちと少女が力を合わせ、勇敢に悪魔と闘う。人物設定は観てればわかるので前作を知らなくても大丈夫。完全にアクション映画と化す、やり過ぎ気味のクライマックスも面白いが、この映画はファーストショットをはじめとして俄然気合の入っている画面が多く、とりわけ、夜の雑誌スタンド前のシーンが異様に素晴らしい。
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編集者/東北芸術工科大学教授 菅付雅信
前作「死霊館のシスター」の続篇で、仏女子寄宿学校を舞台にした善と悪のシスターの対決を描く。ほとんどが不気味な寄宿学校での夜のシーンとなり、何が起きなくても怖い設定の中、ジェットコースター的に恐ろしいことが次々と起きる。エクソシスト系ホラー映画ジャンルを徹底的にディープラーニングさせて生成AIで作ったかのようなマーケティング的/優等生的ホラー。つまり、そつがなく、映像お化け屋敷としての完成度は高いが、作家主義的な美学やエモーションがない。
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俳優、映画監督、プロデューサー 杉野希妃
1950年代のフランスで繰り広げられる、シスター・アイリーンの悪魔退治。アイリーンとデブラ、女性二人の共闘には勇気づけられるし、安易にラブストーリーに落とし込まず、モーリスとはプラトニックな友情で結びついているのにも好感。ステンドグラスの羊の目が聖ルチアの目を探し当てたり、その羊が飛び出して暴走したり、ビジュアルで圧倒しようという気迫は存分に感じられるものの、モチーフが多すぎる上にそれらが有機的につながっておらず、もやもやが募ってしまった。
スケジュールSCHEDULE
映画公開スケジュール
- 2023年12月8日 公開予定
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マリの話
濱口竜介作品などの助監督を務めてきた高野徹による初長編監督作。スランプ中の映画監督・杉田は、偶然出会ったマリという若い女性に、映画出演を依頼する。情熱的な杉田に戸惑いながらも恋心を抱くマリは、映画づくりを始めるが、突如杉田が失踪してしまう。出演は「キャメラを止めるな!」の成田結美、「福田村事件」のピエール瀧、「ドライブ・マイ・カー」の松田弘子。 -
映画 窓ぎわのトットちゃん
1981年に発売され、今なお世界中で愛される黒柳徹子の幼少期を綴った自伝的小説『窓ぎわのトットちゃん』をアニメ化。落ち着きがないことを理由に、小学校を退学になってしまったトットちゃんは、子どもの自主性を重んじる学校・トモエ学園に通い始めるのだが……。トットちゃんの声を担当するのは、オーディションを勝ち抜き抜擢された7歳の大野りりあな。共演は「罪の声」の小栗旬、「オケ老人!」の杏、「君たちはどう生きるか」の滝沢カレン、「すばらしき世界」の役所広司。監督は「映画ドラえもん」シリーズの八鍬新之介。 -
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
汐見夏衛の同名ベストセラー小説を映画化。母親と喧嘩して近所の防空壕跡に家出した高校生の百合。目覚めると、そこは戦時中の日本だった。その世界で日々を過ごすうち、百合は助けてくれた青年・彰に惹かれていく。だが彰は、出撃を控えた特攻隊員だった。出演は「かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~」の福原遥、「死刑にいたる病」の水上恒司。
今日は映画何の日?
今日誕生日の映画人 12/8
- 和久井映見(1970)
- 稲垣吾郎(1973)
- リック・ベイカー(1950)
- キム・ベイシンガー(1953)
- カリーナ・ラウ(1965)
- TAKAHIRO(1984)
- ケイティ・スティーブンス(1992)
- トニー・グリフィン(1959)
- 吉田聡(1960)
- 吉村彩子(1959)
- 青柳拓次(1971)
- 安田顕(1973)
- 赤城(1967)
- 麻倉みな(1989)
- 加納亮治(1978)
- イ・ウィジョン(1975)
- パク・チヨン(1968)
- パク・キョンニム(1978)
- 瀬戸準(1984)
- ガストン・ドゥプラット(1969)
- ユーリー・ボリソフ(1992)
- YUKINO(1997)
- 中岡創一(1977)
- 拓羊(2003)
- 梅津瑞樹(1992)
今日命日の映画人 12/8
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