「花札渡世」(67年)イラストレーション:岡田成生
1|「花札渡世」
(67年、監督・脚本:成澤昌茂)
関係者の尽力で近年劇場で鑑賞可能となり、この時初めて観て驚いた方も多数いたのではないか。私も数十年ぶりに再見し興奮を共有した観客の一人となった。本作は監督としては寡作な成澤昌茂の最高傑作であり、梅宮辰夫にとってもベスト作品。任俠映画全盛の折に作られたため、ある意味セオリー通りのストーリーなのだが、登場人物のキャラクターの多重性を描き込んだ脚本(成澤)と的確な画面構成さらに音にまで拘った演出は確信に満ちている。モノクロのせいか任俠ものというよりフイルムノワールといった方が適切に思えるほど画面が張り詰めている。梅宮は花札博打専門の博徒で天涯孤独の身の上。腕を買われ遠藤辰雄一家の客分となっている。遠藤の養女だが既に彼がモノにしているらしい小林千登勢は、梅宮に岡惚れしているが彼は我関せず。そして夫婦(実は親娘)と称する博徒の伴淳三郎と鰐淵晴子が賭場へ。伴淳は見事なサマ(イカサマ)を見せる。遠藤は鰐淵に好色な視線を送り二人を手元に留める。梅宮は鰐淵に心をくすぐられ先方も憎からず思っている様子。やがて遠藤は鰐淵を賭けて伴淳に花札勝負を挑む。代打ちに立たされた梅宮は秘技〝おかる”のために敗北するが、内心気分は悪くなかった。梅宮と伴淳は父子のように心を通わす。だが遠藤は伴淳を殺害し鰐淵をも手に入れんとしたため、梅宮は遠藤を殺害。梅宮と鰐淵はモーテルで契りを結ぶ。この辺から二人の別れまでは、実に濃やかな演出で二人の心情が画面から染み出すような見事な出来栄え。そして梅宮は自首して五年後出所するが……。結末は避けるが、ある意味梅宮の自ら望んだ地獄巡りとも言えよう。従来は鶴田浩二あたりの役どころなのだが、梅宮の若さと経験が交錯した半熟感と愛に対する一途さは、やはりこの時の梅宮にピッタリはまっている。これ程色気がありカッコいい梅宮辰夫は前代未聞と言っても過言ではないだろう。
2|「不良番長」
彼の代名詞と言ってもいい「不良番長」シリーズの第一作。これは梅宮と共に同シリーズに生涯を賭けた野田幸男の正式デビュー作(先に同年記録映画「プロレスWリーグ 血ぬられた王者」あり)でもあった。当時製作本部長の岡田茂がヘルズ・エンジェルズを題材にしたロジャー・コーマンの「ワイルド・エンジェル」(66年)に刺激を受けて製作。思わぬ大ヒットで72年まで全十六作を数える東映最長の人気シリーズとなった。シリーズ第四作「不良番長 送り狼」(69年、内藤誠監督)より山城新伍が加入し一気におふざけ路線に転換するのだが、それまではシリアスな不良アクションもの。本作も恐喝や婦女暴行を繰り返す梅宮率いるカポネ団の欲望に任せた生態が活写される。この頃はまだ若干スリムだった梅宮のどくろマークを背負った革ジャンスタイルも違和感がない。
3|「ひも」
「夜の青春」シリーズの第一作。梅宮は組の営むバーに素人ホステスを転がすチンピラ。今日も家出娘の緑魔子をコマしてホステスとして仕込む。魔子は梅宮に惚れるが、彼は大幹部の金バッヂをつけることしか頭になく女は道具としてしか見ていない。無表情でクールな梅宮の芝居は、非情な世界に生きる男の心情をよく表していた。
4|「血染の代紋」
(70年、監督・脚本:深作欣二 脚本:内藤誠)
深作欣二監督で主役を張った最後の作品。梅宮はスラム街の立ち退きをめぐり、幼馴じみの組長菅原文太と対立する元ボクサー役。任俠ものと実録ものの狭間のような作品で、梅宮は主役として安定した存在感を示した。
5|「産業スパイ」
タイトル通りの内容で、梅宮は敏腕産業スパイ役を快演。工藤栄一によれば「梅宮の売り方を模索していた時期の企画」だそうな。
6|「夜の歌謡シリーズ 伊勢佐木町ブルース」
「夜の歌謡」シリーズ第四作。青江三奈の同名ヒット曲をモチーフに、梅宮はバーやキャバレーの新規開店の諸準備を請け負う〝オープン屋”に扮する。ホステス宮園純子を巡って対立するのが、伴淳三郎と吉田輝雄というのがいい。
7|「廓育ち」
三田佳子主演の廓もので梅宮は三田と愛し合う医学生役だがつっころばしの二枚目に納まっていないのが梅宮らしい。
8|「未亡人ごろしの帝王」
立派なイチモツを武器に女を渡り歩く現代版『好色一代男』の趣がある「帝王」シリーズ第三作。ラストのお相手が色気年増の宮城千賀子というのがナイス。
9|「不良番長 やらずぶったくり」
「不良番長」シリーズ第十一作。おふざけ度合もピークで梅宮番長も山城新伍もノリノリ。
10|「仁義なき戦い」
菅原文太とムショで意気投合する土居組幹部を怪演。同シリーズには第三作「代理戦争」、第四作「頂上作戦」にも別の役(三、四は同じ役)で出演した。
ダーティ工藤
だーてぃ・くどう/1954年生まれ、北海道出身。監督、緊縛師、映画研究家。共著に『大俳優 丹波哲郎』『光と影――映画監督工藤栄一』、編著に『新東宝1947-1961 創造と冒険の15年間』(すべてワイズ出版)。監督作に「縄文式」(99年)「石井輝男映画魂」(10年)ほか。