「死ぬまでにこれは観ろ!2020」 松崎健夫(映画評論家)×三宅隆太(映画監督・スクリプトドクター)【前編】

「死ぬまでにこれは観ろ!2020」 松崎健夫(映画評論家)×三宅隆太(映画監督・スクリプトドクター)【前編】

ジャンル映画ファンにとっては、もはや夏の花火大会のごとく盛大に〝ぶち上げられる〟恒例行事、キングレコードのDVDキャンペーン「死ぬまでにこれは観ろ!」シリーズ。今年は、名作・快/怪作・珍作、ブルーレイ&DVD全210タイトル(122作品)がリリースされる。昨年に続き、すでに多くを購入済みだけど廉価版にはやはり手が伸びてしまう痛し痒し嬉し恥ずかしの映画評論家・松崎健夫と、ラジオ番組『アフター6ジャンクション』でもおなじみ、映画監督・スクリプトドクターの三宅隆太の二人が、目の前に並ぶパッケージに嬉々としながら、「これは観ろ!」という作品を挙げだすと話は尽きず……。

普通なら廉価版にならない!

三宅 このシリーズはすごく好きで、発売されるたびにチェックしてはいるんですが、実は買ったことがないんです。廉価版になる前に買っちゃっているから(笑)。

松崎 僕は「イカリエ-XB1」(63)がそれですね。4800円がほぼ半額になっちゃうんだぁ、と。それよりも初リリース時に買いたくなるような作品が早くもラインアップされているんだと驚く。

三宅 そう! そこが凄い。「イカリエ-XB1」とか「SF核戦争後の未来・スレッズ」(84)って発売されること自体凄いのに、廉価版には普通しないですよね(笑)。だから自分用に買ったことはないけど、プレゼント用に買うことはあるんです。もらう側も負担を感じにくい値段設定だし。

松崎 素晴らしいコンセプトです。布教するために、下々の者まで手を出しやすくするんだという(笑)。

三宅 廉価版になることでメジャーフィールドに再浮上できる点もいい。例えば、家電量販店はこのシリーズを壁一面に陳列するじゃないですか。すると、アニメや乃木坂46のDVDを買いに来た人たちの目に触れる。「悪魔のいけにえ2」(86)とか「クロールスペース」(86)とか、そういうコアな作品のタイトルがバーンと目に入って、若い世代に新しい呪いを生んでいくという……あ、褒めてますからね(笑)。

松崎 (笑)。三宅さんは東京藝術大学大学院などで講師をされていますが、学生さんに薦めてます?

三宅 強制はしないけれど、興味をもった子に「観てみたら?」と言う時に、廉価版だと薦めやすいですね。オーディオコメンタリーなどの映像特典から作品の文脈も読み取れるし、映画作りを志す学生たちにとってもいい機会だな思います。松崎さんはいかがですか?

松崎 映画一本観て、パンフレットも買えば同じくらいの価格ですから、やはり薦めやすいですね。特に僕が好きなマニアックな作品というのはなかなか廉価版にならないんですが、このシリーズではちゃんと押さえられているし、三宅さんが仰る文脈みたいなものが語りやすいラインアップなんですよね。例えば、「戦闘機対戦車」(73)はロイド・ブリッジスがドイツの将校に扮していますが、翌年、子役から脱皮し青春スターとなった息子のジェフ・ブリッジスが「サンダーボルト」(74)に出演。さらに「パニック・イン・スタジアム」(76)に兄のボーが出演していて、「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」(89)では、ボーとジェフが兄弟共演している。点で見るより線で観た方がいいし、これを観たら次にこれを観るといい、と薦められるのもすごくいい。

点がつながって線になる

三宅 学生は担当教員の目線を通して、映画を知ることになるんですね。ただそれって良くも悪くもで、バイアスが掛かるリスクもある。でも、僕の脳みその何割かがこのシリーズのラインアップからできているのは事実で(笑)。であれば、せっかくなので三宅隆太という教師がどういうものから影響を受けたのかを生徒に知ってもらうのも悪くない。消費者だった頃にはどういう作品にワクワクして、生産者になった今はどのようにクリエイティブの肥やしになっているのか理解できるはずだから。それを学生たちは自分の立場に置き換えて想像してみてほしい。いま彼らが消費している作品群をどうやって自分の血肉に変換できるかを想像しやすくなるんじゃないかと思うんです。もう一つは松崎さんが仰っていることにも通じますが、作品の背景が、線として非常に語りやすいものが揃っているのもいいですよね。

松崎 例えば?

三宅 お金がない学生たちが、どうやって企画を通すかと考えた時、「戦闘機対戦車」の例を出すんです。これ、元はテレビ映画で、飛べなくなった戦闘機が砂漠の中をズルズル走りながら戦車から一生懸命逃げる話。このワンアイデアで押し切って収録時間も73分とタイト。昨今の娯楽大作は、悩める主人公の描写がどんどん増え、135分がデフォルトになって久しいですが、僕らはこんなタイトなエンタメが映画館にかかり、テレビやビデオなどいろんなサイクルを経てきた作品を経験してきた世代。大作ではあるけれど「パニック・イン・スタジアム」も基本はワンアイデア。この文脈から語れば、源泉ともいえる「殺人者はライフルを持っている!」(68)の話題に持っていくこともできる。

松崎 ピーター・ボグダノヴィッチの監督デビュー作ですね。

三宅 ロジャー・コーマンがプロデュースし、テキサス大学ライフル魔事件がベースの、こちらもワンアイデアで勝負した映画。もちろん「パニック〜」には、予算を掛けて拡大した分の迫力があります。パニック映画ブームの中で生まれた作品で、その要素も入ってる。

松崎 ジャンルものはブームを考えるきっかけにもなりますよね。

三宅 作り手を目指す学生が〝ブーム〟について考えることは大切です。例えば、Jホラーブームがなぜ20年も続き、突如終わったのか。やはり世の中が本当に怖い、テラーな状況になると、ホラーはエンタメにならなくなってしまう。ということはホラーがヒットしているうちは世の中が平和で安全ともいえる。個別の作品だけでなく、映画を取り巻く環境から近過去の歴史や、エンタメの潮流を語れるのはこのシリーズの良いところでもありますね。

松崎 「戦闘機対戦車」は戦車1台、戦闘機2機しか出ないのかよってつっこむこともできるけど、主たることを描くためにテーマを決めて逆算し、低予算でやれることを選び、そういうやり方があるのかってところに行き着くところが素晴らしい。作品を観ると「眼下の敵」(57)みたいで、敵にも人間らしい考え方の人がいるということをちゃんと描いている。73年製作だから、ヴェトナム戦争の只中に第二次世界大戦を描いていて、当時の反戦映画になっていたということも、掘り起こしてみると分かる。

三宅 敵について考える設定に無理がないんですよね。戦闘機と戦車って普通、相手の顔が見えずに闘うものだけど、設定上、互いが目に入る近距離にいるから、敵の匂い、相手の匂いを感じやすい。他者に想いを馳せざるを得ない状況が互いの動向に影響し合うのがスリリングで。しかもそれを74分の中で描ききる。箱庭的な設定が効いてる証拠ですよね。

松崎 そうなんです! 限定空間というか、ミニ四駆的な発想というか。舞台は広大な砂漠のはずだけど。

三宅 「アベンジャーズ」(12〜)シリーズを観て育ってきた世代は、トッピング全部乗せのメガ盛りみたいなものを求めがちだけど、それがエンタメの全てではない。

松崎 70〜80年代ってそういう時代だったんだと、つくづく思います。ある種、場末の二番館三番館の匂いがする。パッケージを並べ、僕だったらこの二本立てにするな、とか考えますね。

三宅 (笑)。名画座親父ごっこですね、楽しい。セットでプレゼントするなら、これを先に観せて次はこれとか……超おせっかい(笑)。

松崎 カッコよく言うと、キュレーションです。

三宅 思い入れのある作品も多いですね。中でも「ミディアン」(90)は大好きで、毎回同じところで泣く。ジャンルとしてはホラーだけど、他民族同士の差別の話で、完全に今の時代とリンクしています。連ドラにすれば、最高の企画になるでしょう。

松崎 今のダイバーシティの考え方に置き換えて観たら最高。自分たちと違うものは排除しようという今の社会風潮をまさに描いていて。それが戦いになると、凄く先駆的になる。当時そこまで意識したかどうか分からないけど、今ならではの観方もできる。ところで、どのシーンで泣いてしまうんですか。

三宅 主人公が妖怪に仲間入りする話なんですが、最初は人間だからとあしらわれる。溝があるんですよ。でも非業の死をきっかけに溝を乗り越え、認められる。その瞬間、妖怪たちがみんなでワッと拍手する。東京国際ファンタスティック映画祭に初めて行った時に味わった感覚にそっくりなんです。

松崎 仲間だって言わなくても分かっているよ、という雰囲気。

三宅 嗚呼、ここは「悪魔のいけにえ」の話をしてもいい場所なんだ! と。そういう文脈で観ていくと、今の若い子にも響くはず。合成だとか、特撮だとか、映像技術が古くて観られないと言うのとは別の話。キャラクターの考え方、主人公の在り方には、時代を越えた普遍性がある。「未来世界」(76)にもそういうところがありますね。

松崎 今でこそCG全盛ですが、「未来世界」にはその原点が映っていると言われている。「めまい」(58)のオープニングなどもありますが、劇中に3DCGに近い原型が映った最初の作品。そのルーツとして観ることができる。

三宅 映画史的には前作「ウエストワールド」(73)がフィーチャーされがちだけど、続篇の「未来世界」が発売されたことは重要だと思います。ピーター・フォンダが主演を務め、グウィネス・パルトロウの母、ブライス・ダナーがとてもかわいいヒロインを演じている。

松崎 今ちょうど連ドラ『ウエストワールド』が人気を集めているので、振り返って観るにはいいタイミングだと思います。

三宅 「ヤングガン2」(90)も印象に残っていますね。西部劇って父親もしくはもう少し上の世代がドンピシャで、世代的にはちょっと気後れがあった。そういう〝ジャンルとしての敷居の高さ〟を僕らの世代のものにしようとアプローチしたのが「ヤングガン」(88)シリーズ。往時のファンからすると気になるところは多々あると思いますが、僕らはこれを観て西部劇はそんなに難しくないかもしれない、よし、じゃあ過去の作品も観てみよう! っていうふうに考えられるようになった。昔は今より映画を観るには不便でしたが、映画をたくさん観られる今の方が豊かじゃない気がする。だからこそ、こういったジャンルの話をきっかけに古い作品も観てほしい。「ザ・クレイジーズ」(73)なんて、もろじゃないですか。

松崎 今に置き換えて観られます。

(目の前にパッケージを並べながら、お二人の話は止まらない! 後編に続く…)

㊧松崎健夫(まつざき・たけお)/1970年生まれ、兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ、映画の現場を経て、映画専門の執筆業に転向。数多くのテレビ、ラジオ、ネット配信の情報番組に出演。本誌ほか、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。キネマ旬報ベスト・テン選考委員、田辺・弁慶映画祭審査員、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門審査員などを務める。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社刊)ほか。

㊨三宅隆太(みやけ・りゅうた)/1972年生まれ、東京都出身。若松プロダクションの助監督を経て、フリーの撮影・照明助手となり、その後脚本家・映画監督に。スクリプトドクターとして、国内外の映画企画に参加するほか、東京藝術大学大学院やシナリオ教室等で講師を務めている。著書に『スクリプトドクターの脚本教室』シリーズなどがある。映画「クロユリ団地」(13)「ホワイトリリー」(15)、21年公開予定のアニメ「神在月のこども」などで脚本を担当。

文=岡﨑優子/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報8月下旬号より転載)

「死ぬまでにこれは観ろ!2020」キング洋画210連発!
<観て損なし!ぜんぶ凄く面白い!>8月5日発売
ブルーレイ:各2500円+税 DVD:各1900円+税
発売・販売元/キングレコード
© 2020 KING RECORD CO., LTD.ALL RIGHTS RESERVED.
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