映画『天気の子』の舞台裏とは? 新海組を支えるスタッフが語る
◎全国にて公開中
(C)2019「天気の子」製作委員会
『雲のむこう、約束の場所』(2004年)以来、撮影や色彩設計として長年にわたり新海ワールドのビジュアルを支えてきたキーパーソン・三木陽子。今作では助監督として新海誠監督を全面的にサポート。さらにデジタル表現面での理想の追求に尽力するとともに、色彩設計として、「作品の世界観にあわせて、カットごとにキャラクターの色彩を決め込む作業」を担当している。セクションをまたいで新海を支える三木に、今作のデジタル表現を中心に話を聞いた。
―助監督としてすぐ傍でサポートされてきた三木さんから見て、今作での新海監督のこだわりはどこでしょうか。
三木 映像面では「曇り」と「雨」の表現が挙げられると思います。基本はこれまでの延長線上ですが、「天候の調和が狂っていく時代」が舞台なため、曇りや雨のシーンがすごく多いんですね。そうした中で、どう映像的に華やかに見せるか、そして降り続ける雨をどう表現するかについては、試行錯誤を繰り返しました。一口に曇りや雨と言っても、時間帯ごとに色合いも変われば降り方も様々です。私も色彩設計として、美術監督の滝口(比呂志)さんと一緒にウンウン唸りながら作っていました。
「曇り」や「雨」の表現へのこだわり
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―曇りや雨の表現というと、『言の葉の庭』(2013年)が思い浮かびます。
三木 そうですね。特に『言の葉の庭』はフィニッシュワークも監督ご自身で手がけられていて、新海さんの映像面でのこだわり、目指す表現が詰め込まれた作品だと思います。今作でも、『言の葉の庭』を意識しながら詰めていったシーンがたくさんあります。
―具体的にはどのようにアプローチしたのですか?
三木 まず雨粒の表現をより魅力的に見せるために専門的に取り組む、李(周美)さんを中心としたVFXチームを立ち上げています。また作画チームとも、雨を表現するうえでどうセル分けするか、どうダブラシ(多重露光)処理をするかといった技術的な相談を事前にさせていただきました。撮影監督の津田(涼介)さんとも、たくさん登場する透明傘の処理のバリエーションを作ったり、水滴も単に青系で塗るのではなく、奥にある背景の色味も反映された表現ができるよう調整を繰り返したりしました。
「監督主導で作るのではなく、スタッフに任せる」
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―新海監督と言えば、アニメ業界では「撮影(デジタルコンポジット)」の作家として知られています。今作は『君の名は。』以上に撮影処理に力が入っているように感じました。
三木 新海さんは今作で、「監督主導で作るのではなく、まずはそれぞれのスタッフにお任せする」という挑戦をしています。その意味で、撮影監督の津田さんの色も強く出ているのかもしれません。
―では三木さんの色はどこに出ているのでしょうか?
三木 色彩設計の部分ですね。これまでの新海さんの作品では、ご自身が配色のベースを決められていたのですが、今作ではビデオコンテをもとに、まずは私に作ってみてほしいと。
なので、美術監督の滝口さんによる背景美術を踏まえつつ、私がキャラクターの配色を決め、その両方を見て撮影監督の津田さんが撮影処理を作り込むという流れで、各スタッフが新海さんの目指す映像を想像しながら制作を進めていきました。なのでキャラクターには私の色が出ていると思います。
新海監督が今、若い人たちに一番伝えたいこと
(C)2019「天気の子」製作委員会
―三木さんから見た、新海さんの目指す映像とはどのようなものでしょうか。
三木 よく写実的と言われると思うのですが、私から見ると、新海さんの主観的な印象を画面に落とし込んだ映像のように感じます。たとえば光の当たり方一つとってもそうです。構図自体は写実的でも、順光のすぐ隣が逆光の色味になっていたりしますからね。だからスタッフにとっては、求める画を読み取るのが大変なんですが(笑)。
―三木さんから見た本作の見どころを教えてください。
三木 まず最近の新海さんの作品は、キャラクターがどんどん魅力的になってきていると思います。特に今作は、登場人物も多く、年代の幅も広いので、これまでの作品とはまた違った魅力を感じていただけるのではないでしょうか。また今作のラストのメッセージは、新海さんが今、若い人たちに一番伝えたいことなんだろうなと感じています。私自身がすごく共感するメッセージでもあるので、みなさんに伝わるといいなと思いますね。
三木陽子(みき・ようこ)/1982年生まれ。CGデザイナーとしてぱちんこメーカー勤務を経て、フリーでゲームのキャラクターデザインや彩色、背景作成などを手掛ける。『雲のむこう、約束の場所』(2004年)以来、新海作品に欠かせないスタッフの1人として活躍。
取材・構成=高瀬康司/制作:キネマ旬報社
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