【あの頃のロマンポルノ】第9回 1972年内外映画総決算 日本映画編

2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げ る定期連載記事を、キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時配信いたします。キネマ旬報」に過去掲載された、よりすぐりの記事を「キネマ旬報WEB」にて連載していく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。(これまでの掲載記事はコチラから)

連載第9回は、佐藤忠男氏による「1972年内外映画総決算 日本映画編」の記事を「キネマ旬報」1972年2月上旬特別号より該当部分を一部抜粋してお届けいたします。1971年11月20日の『団地妻 昼下りの情事』と『色暦大奥秘話』の公開でスタートした日活ロマンポルノ。本格稼働した1972年の日本映画の総評の中にて、ロマンポルノ作品がまず言及された点において、当時の映画業界の中で注目を集めていたかを知ることができるのではないでしょうか。過去の記事を改めて読める貴重なこの機会を、ぜひお見逃しなく!

沈滞と昂揚が同時に
一部にめざましい昂揚

▲『一条さゆり 濡れた欲情』より


 1972年の日本映画は、総体的には甚だしい沈滞をつづけたが、一部にめざましい昂揚があった。

 めざましく昂揚した部分として、とくに目立ったのは日活のロマンポルノであり、とくに神代辰巳監督の「濡れた唇」、「一条さゆり 濡れた欲情」の二本と、村川透監督の「白い指の戯れ」、それに、藤田敏八監督の「エロスの誘惑」などであった。日活が、71年に、いったん製作の中止を発表したとき、これで日活映画もおしまい、と思われたし、その後、ロマンポルノ路線を発表したときも、それまでの日活の有名監督たちはすべて手をひき、スターたちも他社へ去った状態だったので、直接費700万円とかいう極端な低予算ではたしてどれだけのことができるのか、ほとんど期待できないのではないかと思われたが、目だたない二線級の監督と目されていた神代辰巳がとつぜん見違えるばかりの旺盛な作家精神を燃やして、なるほどポルノにもこういう行き方があったか、と瞠目するような作品を発表したのは嬉しい驚きであった。

▲『一条さゆり 濡れた欲情』より

 そこには、堕ちて、堕ちて、堕ちぬくということの壮烈な快感がうずいており、敗戦直後に坂口安吾が「堕落論」で説いたようなことが、いまようやく、具体的な作品に実ったかのような感慨があった。そう言えば、神代監督は、安吾が「堕落論」を書いた頃に学生だった世代に属している。村川透の「白い指の戯れ」もシナリオに神代辰巳が協力しており、その作中人物の人生に対する捨て身の構えには神代辰巳の人間観が濃密に出ていると思う。それを、若い村川透が、ニューシネマふうのソフトなさわやかな感触に染めあげ、さらに、主役に荒木一郎を起用したことで、その、現代青春風俗の一断面としてのリアリティは確固たるものになった。

▲『濡れた唇』より

 藤田敏八の「エロスの誘惑」は、堕落とか反抗とかいう構えをぬきにした、もっと普通の映画である。松竹蒲田いらいの日本映画の伝統的な下町庶民ものと言ってもいい。人間の生活をリアルに見つめれば、とうぜん、そこにセックスの要素も入ってくる、というように、この映画にもセックスの要素が入ってくる。ポルノ路線を名乗ることによって、却って既成のホームドラマよりも、もっと生活に密着した作品が生まれる可能性がある。その可能性に注目したい。ただし、この作品がそういう作品として充分成功していたかといえば、かなり、もの足りないと言わなければならない。

 ところで、傑出した作品はあったが、日活ロマンポルノの全体が昂揚していたというわけではない。沢田幸弘監督の「濡れた標的」などを見ると、ねらいは分るが、物質的な貧しさと俳優の貧しさとで、ねらいが空まわりしていることは否めないと思う。他にも、調刺的な時代劇などで面白い作品もあったが、安手な作品も少なくはなかった。もちろん、安手な作品が少なくないのは日活だけのことではない。当り前のことであるが。

文・佐藤忠男 「キネマ旬報」1979年4月下旬号より転載

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日活ロマンポルノ
日活ロマンポルノとは、1971~88年に日活により製作・配給された成人映画で17年間の間に約1,100本もの作品が公開された。一定のルールさえ守れば比較的自由に映画を作ることができたため、クリエイターたちは限られた製作費の中で新しい映画作りを模索。あらゆる知恵と技術で「性」に立ち向い、「女性」を美しく描くことを極めていった。そして、成人映画という枠組みを超え、キネマ旬報ベスト・テンをはじめとする映画賞に選出される作品も多く生み出されていった。
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