『君の名は。』から3年 新海誠の新たなセカイとは?

『君の名は。』から3年 新海誠の新たなセカイとは?

◎全国にて公開中
(C)2019「天気の子」製作委員会

前作『君の名は。』に続き、『天気の子』のプロデュースを務めたのは、川村元気。いまや日本屈指のヒットメーカーとして押しも押されもしない存在といえる彼が、今作で果たした役割とは? ワールドワイドな展開を目指して再びタッグを組んだ新海誠監督との共同作業、そして一筋縄ではいかない新海作品の魅力について、たっぷりと話を聞いた。

王道のエンタテインメントを入り口に

(C)2019「天気の子」製作委員会

―はじめに企画の経緯からうかがえるでしょうか。

川村元気(以下、川村) 『君の名は。』(2016年)が公開されて、僕らの想像をはるかに超えた世界的なヒットになり、各国の映画祭でも賞をいただいたりしていく中で、「次に何を作ろうか」という話はずっとしていたんです。宮崎駿監督作品で言えば、『もののけ姫』(1997年) のようなことが起きてしまったわけだから、次に狙うのは『千と千尋の神隠し』(2001年)。だとすると、次は新海誠の作家性が爆発したものだろうか、と個人的には思っていました。でも新海さんから出てきたのは、「王道のエンタテインメントをやってみたい」という言葉だったんです。

―その後、プロットをまず新海監督が書かれた?

川村 はい、今のストーリーの原案のようなものを最初にいただきました。ただ、「王道のエンタテインメント」を入り口としながらも、結論としては「賛否両論」を呼ぶものになっているなと感じました。

―製作報告会見でも、新海監督は「意見が分かれる映画」とコメントされていましたね。

川村 ただ、昨年末の制作発表会見ではまだ「ド真ん中のエンタテインメントをやる」と宣言していたんですよ。だから新海さんの中にも矛盾のある作品なんだと思います。ド真ん中の泣いて笑えて楽しい感動エンタテインメントも本音、結論が賛否分かれるだろうというのも本音。そうした二律背反した感情を不思議なバランスで保ち続けているところが、新海誠という人物の作家性なのかなと思っています。

最近は監督とプロデューサーとが逆転している

(C)2019「天気の子」製作委員会

―前作『君の名は。』をめぐっては、川村さんのプロデュース力が、個性的な作家である新海監督をメジャーに導いた、と語られがちでした。その噂のいくつかはすでに否定されていますが……。

川村 よく誤解した噂が流れていましたよね。『君の名は。』のラストは、もともと『秒速5センチメートル』(2007年)的なすれ違いだったのを川村が変えさせたものだ、みたいな(笑)。あれは新海さんが最初から決めていた展開です。むしろ最近は、新海さんのほうがエンタテイナーで、僕が小難しいことをやらせようとする側、つまり監督とプロデューサーとが逆転していると感じることが多いくらいです。

―ただ川村さんが刺激を与えられた点というのも多々あったと思うのですが。

川村 そうかもしれません。ただ、『君の名は。』の取材のときに新海さんが「ここは川村さんが考えたアイディアです」と何度か仰ってましたが、僕自身は全然覚えていなくて(笑)。全員のアイディアが、スムージーのような状態になっているんですよ。ずっと一緒に考えてきたので、どれが誰の意見かはもうわからない。だから僕がやったとはっきり言える大きなことといえば、RADWIMPSと新海さんを出会わせたことくらいでしょうね。

変更の可能性も考えていた!? RADWIMPSの音楽

(C)2019「天気の子」製作委員会

―今作も、RADWIMPSさんが、劇中歌と劇伴を含む全ての音楽を担当されています。

川村 もともとは変更の可能性も考えていました。けれども新海さんが(RADWIMPSの野田)洋次郎さんに、依頼ではなく感想を求める意味で脚本の初稿を送ったところ、返事として書き下ろしの曲が送られてきて(笑)。そうして届いた曲の一つが主題歌となった〈愛にできることはまだあるかい〉なんですが、それを聴いたとき、「これでこの映画は大丈夫だな」と感じました。タイトルからして驚きました。ずっとラブストーリーを描いてきた映画監督に対して、その言葉を投げかけるのかと。そこもまた矛盾があって面白いなと思いました。

またRADWIMPSの曲が上がると、それに触発される形で、主人公たちのセリフも変わっていきました。ミュージカル的な、面白いシナジーが働いたと思いますね。

―新海監督、川村さん、RADWIMPSさんのほかに、今作のキーパーソンとなった方はいるのでしょうか?

川村 キャストの2人、醍醐虎汰朗くんと森七菜さんに救われたところがありますね。近年の大規模公開のアニメ映画では、有名俳優を主演に起用し宣伝効果を高めるのが一般的ですが、今作ではより役に合うことを重視したいと、2000人規模のオーディションから醍醐くんと森さんに決めました。結果的に、20代の俳優が演じる10代の安定感とは違う、ちょうど天気のようにコロコロと変わる不安定な、しかし実際の10代だからこそ出せる生々しい演技を録ることができました。

『天気の子』というタイトルについて

(C)2019「天気の子」製作委員会

―ちなみに『天気の子』というタイトルはどうやって決めましたか?

川村 新海さんと飲みながら決めました(笑)。はじめから「天気」は入れたいと、「天気雨の君」や「天気予報の恋人」などが候補にあがっていたんですが、「この作品は単純なラブストーリーなのか?」と考えたときに、そうではない気がしたんです。

まず『君の名は。』がヒットした結果、この映画は幸か不幸か、全世界へ向けて作らなければいけなくなった。そうなった以上、全世界の人にとって共通の切実なテーマを選ぼう、という中で新海さんから出てきたのが「天気」だった。天気は地球規模の巨大な現象で、これだけ科学技術が進んでも、人は天気に振り回されて生きている。それどころか、未だに天気予報すらろくに当てられないでいる。

だからそうしたユニバーサルなテーマに臨む以上、タイトルも「天気雨の君」や「天気予報の恋人」といった単にヒロインである(天野)陽菜を表すだけでなく、同時に、天気に振り回されながら、そこで生きるしかないわれわれ人類というものも示唆する、象徴性を持ったものにするべきだろうと。そうして新海さんと相談する中で出てきたのが『天気の子』でした。

記事の続きは『キネマ旬報』8月上旬号に掲載。今号では「新海誠の新たなセカイ『天気の子』」という巻頭特集をおこなった。本作で声優を務めた醍醐虎汰朗と森七菜の対談や新海監督を支えたスタッフ陣、RADWIMPS[音楽]、川村元気[プロデューサー]らに取材をおこなった。(敬称略)


川村元気(かわむら・げんき)/1979年生まれ。26歳で手掛けた『電車男』(2005年)を皮切りに、映画プロデューサーとして『告白』(2010年)、『モテキ』(2011年)など数々のヒット作を放つ。その傍ら、2012年に「世界から猫が消えたなら」で小説家デビュー。『ドラえもん のび太の宝島』(2018年)では脚本を務める。公開待機中の作品として『空の青さを知る人よ』『Last Letter』、脚本担当作『ドラえもん のび太の新恐竜』など。

取材・文=高瀬康司/制作:キネマ旬報社

『キネマ旬報』8月上旬号の詳細はこちらから↓

最新映画カテゴリの最新記事