アイヌ文化の精神を娯楽映画で未来につなぐ「アイヌモシリ」

アイヌ文化の精神を娯楽映画で未来につなぐ「アイヌモシ

人気コミック『ゴールデンカム』や、35年前に撮影された記録映像「チロンヌカムイ イオマンテ」が劇場初公開されロングランするなど、アイヌ文化への関心が高まるなか、北海道出身の福永壮志監督がアイヌ文化の象徴ともいえる“イオマンテ”に向き合い、現代に生きる人々の精神、葛藤を実直に描き出した「アイヌモシ」のDVDが6月15日に発売される。(同日配信開始)

完成まで5年。アイヌ文化に丁寧に向き合う

北海道で約3年間、新聞記者生活を送った経験から言うと、アイヌ文化はおいそれとは手を出しにくいというのが正直なところだ。長い差別と偏見の歴史がある上に、現在ではアイヌの血を引く人たちもほとんどアイヌの言葉を解さないほど、文化の継承には苦労している。木彫りの熊やウポポ(歌)、リムセ(踊り)といった伝統の工芸や芸能も、暮らしに根づいているというよりも観光の側面が大きい。近年、漫画『ゴールデンカムイ』の大ヒットなどで若い人たちにも身近になってきたとは言え、和人が簡単に扱うテーマではない。

長篇第1作の前作「リベリアの白い血」でニューヨークに渡ったアフリカ移民の物語を紡いだ北海道出身の福永壮志監督は、企画からじっくりと5年の歳月をかけて、未来へとつなぐアイヌ文化の精神を娯楽映画に織り上げた。

厳しくも美しい自然のなかで行われるイオマンテ

阿寒湖畔のアイヌコタン(集落)に民芸品店を営む母と2人で暮らす中学生のカント(下倉幹人)は、卒業後はコタンを離れたいと思っていた。そんなある日、亡き父の友人、デボ(秋辺デボ)から2人だけのキャンプに誘われる。死者の国と通じているとされる森の奥の洞窟を見た帰り、カントはデボから、コタン外れで飼われている“ちび”と名付けられた子熊の世話をするように頼まれるが……。

夏から秋、冬と季節ごとに表情を変える阿寒の美しくも厳しい自然を背景に、自らのアイデンティティに悩むカントの思いやコタンの住民の日々の営みが重層的に描かれる。中でも中核をなすのが、熊の姿になってアイヌモシ(人間の住む大地)にやってきた神様の魂をカムイモシ(神々の世界)に送る伝統儀式、イオマンテだ。残酷だとして久しく行われておらず、映画の中でもコタンの人々の間で賛否両論が巻き起こる。かわいがっているちびがイオマンテで送られると知ったときのカントの心の揺れは最大の見どころだろう。

アイヌの人はアイヌが演じ、行き届く敬意とリアリティ

福永監督がこの作品を作る上てで最も気にかけたのは、アイヌの人たちはアイヌ自身が演じるということだ。カント役の下倉幹人をはじめ、中学生たちのアイデンティティの葛藤はそのまま実人生にもつながる。「和人がアイヌを題材にした映画を作るに当たって、どれだけ気をつけてもつけすぎることはない」と福永監督は振り返るが、その気持ちは画面の隅々にまで行き届いている。

DVDには、監督はじめ非アイヌのスタッフとアイヌの出演者らが、撮影に入る前に神への祈り(カムイノミ)を捧げる場面なども特典映像として収められている。映画がもたらす豊かな時間に身を委ねる中で、自然とアイヌ文化が染み込んでくるに違いない。

文=藤井克郎 制作=キネマ旬報社

「アイヌモシ

●6月15日(水)DVDリリース(同日レンタル・配信開始)
DVDや配信の詳細情報はこちら

●DVD:4,950円(税込)
【特典映像】26分
・劇場予告篇
・メイキング オブ アイヌモシ
・プレシューティング(カント&デボ)

●2020年/日本=アメリカ=中国/本編84分
●監督・脚本:福永壮志
●出演:下倉幹人、秋辺デボ、下倉絵美、OKI、結城幸司、三浦透子、リリー・フランキー
●発売・販売元:株式会社ポニーキャニオン 
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