アートの香りあふれる官能の世界に浸る! 日本・台湾合作「ホテルアイリス」

アートの香りあふれる官能の世界に浸る! 日本・台湾合作「ホテルアイリス」

芥川賞作家が描く禁断のエロティシズム文学が、極上のアートフィルムになった。「ホテルアイリス」(奥原浩志監督)は、小川洋子の小説「ホテル・アイリス」を基に、圧倒的な映像美で織り上げた意欲作だ。原作では具体的にどことも書かれていない海沿いの寂れたリゾート地を台湾の金門島に想定し、れんが造りの美しい街並みと吹きさらしの寒々とした砂浜を背景に、めくるめく官能の世界が繰り広げられる。8月3日(水)発売のブルーレイ&DVDには、出演者やロケ地の魅力に触れる映像特典も付いていて、作品世界の裏側も堪能できる。

両手両足を縛られたまま全裸で男の靴下を履かせる

「ホテルアイリス」は、日本と台湾の名優、新鋭の競演も見どころの1つだ。母親が経営するホテル「アイリス」で働くマリは嵐の夜、悲鳴を上げて逃げ惑う女性客に罵声を浴びせる男を目にし、なぜか心ひかれるものを感じる。街で男を見かけたマリは、こっそり彼の後をつけるが……。男を永瀬正敏、マリを台湾の陸夏(ルシア)が演じるほか、台湾からはリー・カンション(李康生)、マー・ジーシアン(馬志翔)ら、日本側は菜葉菜、寛一郎らが出演し、日本語と中国語のせりふが絡み合う。

物語は、沖合の小さな島に住むロシア語の翻訳家だというこの中年男と、台湾人の父と日本人の母を持つ若いマリとの奇妙な愛の形を中心に展開する。男は妻を亡くしていて、マリも父親がいない。男に父親の幻影を重ね合わせるマリは、島に一人で暮らす男の家をたびたび訪ねるようになり、合わせ鏡の部屋で自分のあられもない姿をさらされる。全裸で両手両足を縛られたまま、男の靴下を履かせる描写など、エロティシズムの極致とも言えるショットが連続する。

マリを演じる陸夏は台湾でモデルとして活躍している注目の新星で、この作品が映画初出演となる。射抜くような鋭いまなざしと肉感的な厚い唇が印象的で、マリのいたいけな、でもどこかそそるような人物像を巧みに表現。日本語は全くしゃべれなかったが、奥原監督の根気強い指導の賜物でまるで違和感なくせりふを操り、日台混血のマリを体現する。

小川洋子作品のエロティシズムに異国情緒が加わると……

対する永瀬は、ジム・ジャームッシュ監督の「ミステリー・トレイン」はじめ、海外での撮影も数多くこなす国際派。台湾でも、「ホテルアイリス」に出演しているマーの監督作品「KANO 1931海の向こうの甲子園」で主役を務めるなどおなじみで、異国情緒あふれる街の風景に自然と溶け込んでいる。

このほか、渡し船の船頭役を演じるリーは、台湾を代表するアート系映画作家、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督作品には欠かすことのできない名優で、映像特典には「ホテルアイリス」のロケに見学に訪れたツァイ監督の姿もばっちり映っている。オールロケが行われた金門島の人々がエキストラとして作品を彩る中、日本人キャストの菜 葉 菜、寛 一 郎の個性あふれる存在感も見逃せない。スタッフも、「少年の君」(デレク・ツァン監督)のユー・ジンピン(余靜萍)撮影監督をはじめとした台湾クルーに、美術は「感染列島」(瀬々敬久監督)などの金勝浩一、音楽はポーランド出身のスワベック・コバレフスキと、国際色豊かな顔触れがそろった。

原作の小川は、1991年に「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞した人気作家で、本屋大賞受賞作のベストセラー「博士の愛した数式」が2006年に小泉堯史監督によって映画になっているものの、映像化された作品は多くない。「ホテル・アイリス」は、初老の男と17歳の少女とのとある恋の形を描いた官能小説で、1996年に発表された。

奥原監督は刊行時に読んでいたが、プライベートで金門島を訪れたときに、この小説の世界観にぴったりだと感じ、映画化を思いつく。ちなみに原作者の小川は、フランスのモンサンミッシェルをイメージして書いたということだった。

特典には楽しそうに思い出を語る台湾の新星、陸夏の素顔も

自主映画出身の奥原監督は1999年、「タイムレスメロディ」が釜山国際映画祭でグランプリに選ばれ、一躍脚光を浴びる。2008年には文化庁の新進芸術家海外研修制度を利用して中国の北京に留学。その後も北京にとどまり、2012年には中国で撮影した日中合作映画「黒四角」を監督するなど、ワールドワイドな活動を続けている。

日台合作となった「ホテルアイリス」では、原作の世界観を大胆に膨らませ、エロティシズムはそのままに、過去と現在、幻想と現実を行き来するような作品に仕上げた。中でも芸術性に花を添えるのが、赤れんが造りの家並みが美しい金門島の風景だ。

台湾本島よりも中国大陸の廈門(アモイ)の目と鼻の先に位置する金門島は、かつては軍の島として映画の撮影などは許されなかった。現在は観光地として大勢の旅行客が訪れるが、映像特典には海岸線に戦車がずらりと並んだ風景なども映っている。

インタビューに答える出演者の1人、パオ・ジョンファン(鮑正芳)は、40年前に歌手として金門島を慰問に訪れたことがあるが、その頃とは風景が全く変わっていて驚いたと語る。マリの父親役を演じたマーは、かつてこの島は兵士が最も配属されたくない戦地だったと証言する。

そんなロケ地情報に加え、映画の裏話も映像特典にはたっぷり入っている。陸夏が最も過酷に感じた撮影はさて、どのシーンだったのか。いかにも楽しそうに思い出を語る彼女の素顔が味わえるのも、ブルーレイ&DVDならではのお楽しみだろう。

文=藤井克郎 制作=キネマ旬報社

「ホテルアイリス」

●8月3日(水)Blu-ray&DVDリリース(同日DVDレンタル開始)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込) 
●映像特典(セルのみ)
・インタビュー&ビハインド・ザ・シーン
・予告集

●2021年/日本・台湾/本編100分
●監督・脚本:奥原浩志、原作:小川洋子(「ホテル・アイリス」幻冬舎文庫)
●出演:永瀬正敏、陸夏(ルシア)、菜 葉 菜、寛 一 郎、マー・ジーシアン(馬志翔)、パオ・ジョンファン(鮑正芳)、大島葉子、リー・カンション(李康生)
●発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 
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