世界のアニエス・ベーも絶賛! 20年を経ても色褪せることのない鮮烈な青春映画「19(ナインティーン)」
世界のアニエス・ベーも絶賛! 20年を経ても色褪せることのない鮮烈な青春映画
映画「19(ナインティーン)」
アニエス・ベー氏との運命的な出会い
渡辺:「アニエス・ベーさんと出会ったのは、サラエヴォ映画祭に出品した時です。上映後、僕に声を掛けてきた女性がいました。褒められているのは分かりましたが、通訳の方がいなかったので、その時はなんとなく話が終わって。後で聞いたら、それが審査員を務めるアニエスさんでした」
―こう語るのは、製作20周年記念でブルーレイがリリースされる「19(ナインティーン)」の渡辺一志監督。商業映画デビューとなった本作が海外の映画祭で注目を集めた後、「キャプテントキオ」(07)「サムライせんせい」(17)などを手掛け、俳優としても活動中。その発端を振り返ったのが、冒頭の言葉だ。「アニエス・ベーさん」とは、言うまでもなく、かの世界的ファッションデザイナー。映画に対する造詣は深く、今では監督作もある。その絶賛を受け、サラエヴォ映画祭では新人監督特別賞に輝く。だが、この運命の出会いはここで終わらなかった。
渡辺:「帰国後、アニエスさんから改めて連絡があり、フランスに招待されました。行ってみたら、とても温かいもてなしを受けた上に、映画も有名なポンピドゥー・センターで上映してくれて。さらに公開権まで買って、色々な国でも上映してくれました。今でもアニエスさんが来日する時は連絡が来て、食事に招かれます」
―アニエス・ベーが惚れ込んだ本作は、三人の若者と彼らに拉致された大学生の奇妙な旅の行方と衝撃の結末を描いた物語。色調を寒色系に統一した映像と乾いたタッチの演出が醸し出す緊張感は、今見ても鮮烈だ。その誕生の経緯を、渡辺監督は次のように語る。
渡辺:「この映画の元になったのは、僕が大学生の時に撮った短篇(映像特典として収録)です。高校の同級生から聞いた『スクーターに乗っていたら、三人組の男に声を掛けられ、車に引きずり込まれて半日連れまわされた挙句、一人で置き去りにされた』という体験談をヒントに物語を創作。それを、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)に応募したところ、準グランプリを受賞しました」
―PFFと言えば、第一線で活躍する映画監督を多数送り出してきたインディーズ映画の登竜門。そこでの受賞は順調な滑り出しに見えるが、これが即、長篇化につながったわけではなかった。
渡辺:「最初は、PFFの入選者を対象に脚本を募集するスカラシップに挑戦しました。でも、自信があったにもかかわらず、面接で酷評され……(苦笑)。そこで、別のアプローチ方法を探そうと、名古屋の大学を休学して上京しました。東京では、脚本を書きながらレンタルビデオ店で自分の映画の方向性に近い作品を探し、そのメーカーに『脚本を見てほしい』と片っ端から電話しました。大半は断られる中で、会ってくれたのがギャガさんです。そのギャガのプロデューサーから紹介された制作会社と準備を進め、半年ほどで撮影に入ることができました」
―こうして映画は完成するが、無名の新人監督の作品をいきなり公開するのではなく、まずは箔を付けようと、海外の映画祭に出品することに。アニエス・ベーと出会ったのも、この時だった。
野沢那智さんとの思い出と、貴重な出演となった経緯
―なお本作には、アニメや洋画の日本語吹替えなどで有名な野沢那智が警察官役で出演している。
渡辺:「野沢さんの出演は、演出の狙いで『声で印象に残る人』を探した結果です。一度オファーを断られましたが、その後ご本人から直々に電話があり、『顔出しの芝居は自信がない……』とのことでした。僕の初監督作品で出演も兼ねると話したところ、翻意してくれて、出演してくれることになりました」
―さらに渡辺監督は、野沢の人柄が伝わるこんなエピソードも明かしてくれた。
渡辺:「撮影中、色々と質問していたら、ブルース・ウィリスやアラン・ドロンの吹替えを、目の前で実演してくれたんです。公開時には舞台挨拶に登壇、公開後も長いお手紙をいただくなど、ものすごくよくしていただきました。その後、改めて野沢さんをメインキャストに据えた映画を企画したことがあります。野沢さんからも出演を快諾いただいていたのですが、結局実現せず、その翌年、野沢さんは亡くなりました。今振り返っても残念ですね」
―結果的に本作は、顔出しの出演が極めて少ない野沢の生前の姿を記録した貴重な作品となった。以後、SFやゾンビものといったジャンル映画を数多く手掛けてきた渡辺監督。そのフィルモグラフィーの中で、ストレートなドラマである本作は、やや異色にも思える。だが、本人は自信を持ってこう語る。
渡辺:「この作品は『雰囲気が違う』とよく言われます。でも、23歳の自分だったからできた尖った映画だと思っています。万人向けではないかもしれませんが、刺さる人には強烈に刺さるものがある。最近も、『この映画が好き』というドイツの若い監督からオファーを受け、役者として映画に出演しました。20年経ってもそんな風に受け入れられていることは、とても嬉しいですね」
―その魅力は、目の肥えた映画ファンにも必ず届くはず。ぜひ一度、プレーヤーにディスクをセットし、再生ボタンを押してみて欲しい。
渡辺一志
わたなべ かずし:1976年生まれ。愛知県出身。1996年ぴあフィルムフェスティバルでPFFアワード準グランプリを受賞した中篇を基に、23歳の時に脚本・編集・出演を兼ねて制作した本作で、商業映画デビュー。サラエヴォ国際映画祭では新人監督特別賞を受賞するなど海外の映画祭でも高い評価を得た。監督作に「キャプテントキオ」(07)、「サムライせんせい」(17)など。俳優としても三池崇史、林海象らの作品に出演する。
文=井上健一/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報1月上・下旬合併号より転載)
「19(ナインティーン)」
●2020年1月9日発売
●BD 4800円+税
●監督・脚本・編集・出演/渡辺一志
●出演/川岡大次郎、野呂武夫、新名涼、遠藤雅、野沢那智
●2000年・日本・カラー・16:9(ビスタサイズ)1080p High Definition・音声1・日本語(ドルビーTrueHD 2.0chステレオ)・音声2・オーディオ・コメンタリー(ドルビーTrueHD 2.0chステレオ)・本篇82分
●音声&映像特典(76分)/【音声特典】製作20周年記念 川岡大次郎、渡辺一志によるオーディオ・コメンタリー【映像特典】「19」(ナインティーン)1996年作品 第19回 PFFアワード 準グランプリ(本篇50分)/メイキング/スライドショウ/予告篇
●発売・販売元/ギャガ
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