第45回 城戸賞準入賞作品シナリオ全掲載&受賞作品選評

1974年12月1日、「映画の日」に制定された城戸賞が45回目を迎えた。本賞は映画製作者として永年にわたり日本映画界の興隆に寄与し、数多くの映画芸術家、技術家などの育成に努めた故・城戸四郎氏の「これからの日本映画の振興には、脚本の受けもつ責任が極めて大きい」との持論に基づいたもので、新しい人材を発掘し、その創作活動を奨励することを目的としている。これまでも「のぼうの城」(11)、「超高速!参勤交代」(14)など受賞作が映画化され大ヒットした例もあることから本賞の注目度は高く、今回は史上最多の421篇の応募があった。その中から10篇が最終審査に進み、町田一則氏の「黄昏の虹」が準入賞を受賞した。その全編をご紹介するとともに、最終審査に残った10篇の総評と受賞作品の各選評を掲載する。

 

■応募脚本 421篇

最終選考審査10篇に残り、表彰式に招待された皆さん

 

映連会員会社選考委員の審査による第一次・第二次・予備審査を経て、以下10篇が候補作品として最終審査に残った。

「神さま、このロリコンたちを殺してください!!」土谷洋平

「上辺だけの人」三嶋龍朗

「最果ての景色」遠山絵梨香

「黄昏の虹」町田一則

「まつり」春海戒

「ブンさんの骨」仲村ゆうな

「不眠夜行」前田志門

「PINKちゃん」菊池翔太

「母と息子の13階段」林田麻美

「邪魔者は、去れ」弥重早希子

 

受賞作品

入選 該当作なし

準入賞「黄昏の虹」町田一則

佳作「上辺だけの人」三嶋龍朗

「母と息子の13階段」林田麻美

「邪魔者は、去れ」弥重早希子

 

審査委員(順不同、敬称略)

岡田裕介(城戸賞運営委員会委員長)、岡田惠和、井上由美子、手塚昌明、朝原雄三、野村正昭、富山省吾、椿宜和、会員会社選考委員

 

準入賞者のプロフィール&コメント

「黄昏の虹」(受賞作品全文はこちらからお読みいただけます)

町田一則(まちだ・かずのり)

2009年に旗揚げをした演劇ユニット集団、劇団マニンゲンプロジェクトを主宰。下北沢を中心に行われたすべての公演の脚本と演出を担当する。今後は映像へと活動の場を広げようとしている。日本シナリオ作家協会シナリオ講座・第68期(2017年)研修科修了。

 

コメント

もちろん受賞したい一心で書きます。ネットで過去の傾向を調べてみたり、受賞作を読んで勝手に傾向らしき何かを想定してみたり。でもそんなことしているうちに、自分らしさなんてどんどん消えてしまいます。自分が、審査員が求めている『新鮮で斬新』な才能の持ち主どうかなんて神のみぞ知るで、受賞のためのみに書いていたら、くだらない、誰が書いてても良さそうなものしか書けなくなりました。登場人物は物語の展開のために存在し、どうでも良い台詞を言い、どこかで観たことある脚本を量産しました。もうそういうのはやめにしよう。そう思って書いたのが今回の作品です。それで落ちるならそれでも良い、その現実と向き合えば良いじゃないか、そう思って書きました。自分らしさを出そう、と。なので受賞は驚きました。落ちるものと思っていたので。これからは求められた題材で、どう自分を出していくのか、そしてどう自分を殺すべきところで殺すのか、その闘いだと思っています。

素晴らしい歴史ある賞をいただき、ありがとうございました。城戸賞の名に恥じないよう、これからより一層の努力に励みたいと思います。

選者

富山省吾(日本映画大学理事長)

椿宜和(株式会社KADOKAWA 映像事業局 映画企画部 チーフプロデューサー)

 

総評

今年も入選作のない年となりました。

岡田選考委員長の総評「今回はシナリオとして読ませる作品と、企画・発想で勝負する作品に分かれた。娯楽映画を目指す方法として良いこととは思う。残念ながらアイデアで勝負する作品には内容への知識と調査が不足していて物足りず、シナリオとして良く書けている作品は娯楽要素が乏しく入選に届かなかった」。

詰まるところ、着想の良さと良質な脚本内容の両方を満たす作品こそが城戸賞入選作となる、と言うことです。

選外の6作品には企画・発想に止まった作品が並んだように思います。人物・事件・ストーリー構成・最終テーマが不十分でこのままでは評価を得ることは困難。とは言え、それでも6作品が最終選考に残ったのは、評価に値する発想を提示した書き手への一次二次選考委員からの期待が大きい故と受け止めました。6人には改めて岡田会長の「知識と調査の不足」という言葉を噛みしめ、次回作へ向けた精進を期待します。(富山)

過去最高の応募総数421篇の中から各社映画プロデューサーが10篇を選びました。準入賞1篇、佳作3篇で今年も入選作品がなく残念でした。

今年度の傾向としては、企画(アイデア)勝負の作品が多く、一次二次選考では各社のカラーによって評価が大きく分かれた結果になりました。最終選考では特に劇場公開用の脚本というところに重きを置き、映画化できる構成・台詞の脚本という点を重視しました。しかし、パンチの効いた脚本は見つけられませんでした。全体的に企画や発想は面白いが、ストーリー構成や台詞が不十分であり、かつ誤字が多かった脚本があったように思えました。しかし、20代の若手ライターが最終選考に残ったことは喜ばしく、来年こそは入選作品が生まれることに期待したいと思います。(椿)

 

■受賞作品選評

「黄昏の虹」(受賞作品全文はこちらからお読みいただけます)

認知症の兆候が出始めた75才の冬彦が東京の娘に会いに行く。ユーモラスな語り口で旅の中で起きるささやかな驚きをドラマに仕立てて行く。心に残る場面やセリフが多く、「老人を、私を、愚かに見せる」という冬彦の独白に老齢に向かうこれからの世代の共感が宿り、今日の映画としての存在感が示せると感じました。冬彦に相応しいキャステイングを得て「シニア層の人生肯定映画」として映画化に向かって欲しいと願っています。(富山)

認知症、オレオレ詐欺、死といった現代的な題材を扱いながらも、台詞の応酬と練られた構成で、深みがあるドラマに仕上がっている。(椿)

「上辺だけの人」  

夫の昔の恩人の看病をする中で、夫婦が互いを見つめ直す。選考委員「展開がありふれている」「夫婦の協力が都合良過ぎる」。(富山)

地味になりそうなストーリーのところ会話が軽やかであたたかく、好感を持てるように描かれていた。「劇中脚本」が、もう少しストーリーと絡んでいたらエンタメ性の高い作品になったと思う。(椿)

「母と息子の13階段」

母の息子への妄愛というモチーフ。選考委員「信じている世界を描き切ろうとするのは良いが、読んで疑問がたくさん生まれた」「こだわりは良いがリアリティーに欠ける」。(富山)

息子を溺愛する母親が、自らの自立欲求との矛盾に悩む姿がよく描かれている。一方、父親の人物造形が薄く、リアリティーに欠ける。(椿)

「邪魔者は、去れ」  

長男がシリアで過激派に拘束された麻生家の長女と母。選考委員「登場人物の感情、理解できた」「入り口は感じるものがあったたが展開しなかった」。(富山)

実弟のシリア拘束、世間からのバッシングという現代的な事件による巻き込まれ型のストーリーありながら、家族の自発的行動よる展開が面白い。現代人の心に潜む空虚さを人物で描き分けながら炙り出した部分を評価する。(椿)

(左より)準入賞を果たした町田一則氏、佳作の三嶋龍朗氏、弥重早希子氏、林田麻美氏