“友達以上恋人未満” きれいごとだけじゃない、等身大の“愛の形”を描いた映画「パリ13区」

パリ13区を舞台に、ミレニアル世代の4人の男女が織り成す恋愛群像劇「パリ13区」のBlu-ray&DVDが、11月2日(水)にリリースとなった。今年70歳を迎えたジャック・オディアール監督が鮮烈なモノクロ映像の中に刻みつけた“新しいパリの物語”とは?

フランスの鬼才×気鋭の女性監督2人がコラボレーション

事故で両足を失った女性の葛藤を描いた「君と歩く世界」(’12)や第68回カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作「ディーパンの闘い」(’15)。第75回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた「ゴールデン・リバー」(’18)などで知られるジャック・オディアール監督。人間の不完全さと希望、強さを描いてきた監督が次なるテーマに選んだのは、パリ13区で暮らす男1人女3人の群像劇だった。

共同脚本を務めるのは、「燃ゆる女の肖像」(’19)で第72回カンヌ国際映画祭の脚本賞&クィア・パルム賞ほか各国の映画祭を総なめにしたセリーヌ・シアマと、「アヴァ」(’17)のレア・ミシウス。映像作家として注目を浴びている2人の女性が、オディアールの世界に新鮮な息を吹き込んでいる。

コールセンターのオペレーターをする台湾系フランス人のエミリーに、本作がスクリーンデビューとなった新鋭ルーシー・チャン、エミリーとルームシェアする高校教師カミーユにマキタ・サンバ。「燃ゆる女の肖像」で数々の主演女優賞を獲得したノエミ・メルランが大学に復帰したノラを、彼女が間違われるポルノスターのアンバー・スウィートをミュージシャンとしても活躍するジェニー・ベスが演じている。

それでも人は人を想う。男女のままならない愛をモノクロ映像で描く

老人ホームにいる祖母の家で悠々自適な生活を送るエミリーのもとに、ルームシェアを希望するアフリカ系フランス人のカミーユが訪ねてくる。すぐに肌を重ね合わせた2人は同居生活を開始するが、“友達以上恋人未満”の関係が崩れることはなかった。

一方、法律を学ぶためにソルボンヌ大学に復学したノラは、年下のクラスメイトたちに馴染もうと、金髪のウィッグを付けてパーティに繰り出す。しかし、そこで彼女と瓜二つのポルノスター、アンバー・スウィートと勘違いされ、校内の注目の的となってしまう。大学を追われたノラは、職を求めて訪れた不動産会社で、高校教師を辞め友人が経営するその会社を手伝っていたカミーユと出会う。

ベースとなっているのは、エイドリアン・トミネによる3つの短編。全く関係のないところで生活していた男女の人生が少しずつ絡み合い、パリ13区を彩る景色のひとつになっていく。素直になれない、本音が言えない、愛しているのに傷つけてしまう、自分がわからない。恋愛をするうえで、きっと誰もが感じたことがあるはずの感情が時に大胆に、時に繊細に綴られている本作。

「パリの人ってこんなに性に対してオープンなのか」と、その奔放さに驚かされつつ、もしかしたら世界中のどこかで今日もこんな“愛”が生まれているのかも…と、身近にも感じる。彼らの情事がモノクロ映像の中に俯瞰した目線で描かれているからこそ、人間の不器用さや滑稽さが愛おしくてたまらなくなる。SNSで簡単につながれてしまう現代は、“本物の関係”を築くのは難しい。でも、人はきっと誰かを想うことをやめられない。そんなもどかしさがたっぷり詰まった人生賛歌となっている。

もうひとつの主人公は“誰も見たことのないパリ”

本作の舞台となる「パリ13区」は、高層住宅が連なる再開発地区で、エミリーのようなアジア系移民も多く暮らしている。エッフェル塔や凱旋門など、「パリ」と聞いてイメージする古都のイメージとはまた一風違った、現代のパリを象徴するようなエリアだ。

エミリーの住居や、エミリーがカミーユと歩くシャッター商店街があるのは、「レ・ゾランピアード」。映画の原題にもなっているこのエリアは、劇中にも度々登場している。彼女が務める中華レストランは「アジア人街」に。“休憩時間”から戻ったエミリーが客席の合間をぬって舞い踊るシーンが印象的だ。

他にも、アニエスベー財団・基金が運営する文化複合施設「ラ・ファブ」や1994年に開館した「フランス国立図書館」、起業家1,000人以上が集まる世界最大級のスタートアップ・キャンバス「スタシオン・エフ」など、人々の感性を刺激するスポットが数多く点在するパリ13区。

多様性と勢いにあふれた街の瑞々しいパワーは、そのまま映画の中にも映し出されている。登場人物たちの“愛の在り方”に思いを巡らせながら、つかの間のパリ散策気分を味わってみるのもいいだろう。

文=原 真利子 制作=キネマ旬報社

 

 

「パリ13区」

●11月2日(水)Blu-ray(同日DVDレンタル開始)
※セルR-18+、レンタルR-15+作品となります。
▶Blu-rayの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込)
●Blu-ray映像特典
・オリジナル予告
・日本版予告

●2021年/フランス/本編105分
●監督:ジャック・オディアール 脚本:ジャック・オディアール、セリーヌ・シアマ、レア・ミシウス、原作:「アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」「バカンスはハワイへ」エイドリアン・トミネ著(「キリング・アンド・ダイング」「サマーブロンド」収録:国書刊行会刊)
●出演:ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン、ジェニー・ベス
●提供:松竹、ロングライド 発売元:松竹株式会社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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