こんなおじさんになりたいか? 40代男が過去の自分と向き合う旅―映画「追想ジャーニー」

人間誰しも、ああ、あのときこっちの道を選んでおけばよかったのに、と後悔するような分岐点があるに違いない。中年の売れない役者にとっては、それが一度や二度ではなかった。若かりしころの自分に会って、たびたび訪れた人生の岐路で正しい判断を迫ることができたなら。そんな切実だけど滑稽な夢想をファンタジー色たっぷりに描いた映画が、11月11日(金)公開の「追想ジャーニー」(谷健二監督)だ。舞台劇のスタイルで繰り広げられる悲喜こもごもを目の当たりにして、あなたも自らの分岐点を追想してみてはいかがだろう?

「正念場」の意味も知らない未熟な自分にお説教

物語の主人公は、48歳の俳優、文也。とは言っても、もらえる役はほとんどエキストラに毛の生えたようなもので、何とかアルバイトで食いつなぐ生活を送っていた。

ある日、音信不通だった母親から入院しているという知らせが届き、病院に見舞いにいったものの、ひどい言葉を投げかけてしまう。帰り道、文也は見知らぬ人物からメモを渡される。それは過去の自分に向き合って追想の旅をするという睡眠療法の案内だった。こうして文也は、スターを夢見ていたころの18歳の自分に会いにいく……。

という過去の自分との出会いのほぼすべてを、劇場の舞台上で見せるという演出がユニークだ。人生を芝居になぞらえて、何度か訪れるターニングポイントを、その当時に関わった人物と絡ませて再現していく、例えば18歳の文也は、幼なじみのくるみと高校のクラスメイトのゆりえという2人の女性のどちらと付き合うか、選択を迫られていた。48歳の文也はその後の顛末を知っているから、18歳の文也に「ここが正念場だ」と諭す。でも18歳の文也は「正念場」という言葉さえ知らない未熟者で、ふらふらと適当な決断をしてしまう。

演劇風の表現で出演者の演技と表情が試される

18歳の文也を演じるのは、これが映画初主演となる藤原大祐だ。アミューズ所属の期待の新星で、2019年に栄光ゼミナールのテレビCMでデビューして以来、テレビドラマに映画に舞台にと活動の場を広げてきた。

藤原は、スターになることを目指していることからさまざまなトラブルが巻き起こるという文也という役について「どうも今の自分と重なってしまって、これは僕の将来を予言しているんじゃないかと(笑)。自分もこうならないように頑張ろうと思えました」とコメントを発表している。

一方、48歳の文也は、1988年にロックバンド「男闘呼組」のメンバーとしてデビューして以来、音楽から芝居から幅広い活動で、今や映画にテレビに舞台にと引っ張りだこの存在の高橋和也が熱演している。長い役者人生で、わずか3日間で劇場用映画を撮影したのは初めてだったと振り返るが、「それでも出演したのは脚本が面白かったからだ。僕の演じた役は人生に失望している。自分の人生をもう一度やり直したいと思っている。最近は、役が『俺を演じろ!』と向こうからやってくる気がする」とコメントしている。

ほかにも、NHKの連続テレビ小説「ちむどんどん」で強烈な印象を残すなど、このところ目覚ましい活躍ぶりの佐津川愛美をはじめ、真凛、高石あかり、岡本莉音、伊礼姫奈、外山誠二といった新鋭、ベテランが入り交じって脇を固める。ほとんどの場面が舞台上という演劇風の作品だけに、ノーカットの演技やアップの表情もこなさなければならず、役者の真の実力が試されるわけだが、それぞれ見事に応えていた。

過去を追想することで未来への展望が広がることも

メガホンを取った谷健二監督は、1976年生まれの46歳。つまり現在の文也に近い年齢というわけだ。

京都出身の谷監督は、大学でデザインを専攻した後、上京して自主映画の制作に携わる。その後、広告代理店に勤め、自動車会社のウェブマーケティングを約9年間にわたって担当。2014年、長編映画「リュウセイ」を監督したのを機に独立し、現在は映画だけでなくテレビドラマやCM、舞台の演出、映画本の出版と多方面で活躍中だ。

前作の映画「一人の息子」(2018年)では父親との関係について描いた谷監督だが、今回は母親との関係を主軸に据えた。母親の見舞いに病院に行った文也は、病室でひどい言葉を投げかけてしまうが、18歳のときも「あんたを大学に行かせるためにパートをしているんだから」と話す母親に「自分が勝手に俺を生んだんだから、それくらい当たり前だろ」ときつく言い放っていた。

過去の自分に説教しようとしていた文也は、結局は過去の自分から現在の立ち位置を気づかされ、未来への生き方について考えることになる。人は現在だけを生きているわけではない。過去を追想することで未来への展望が広がることもある、という真理を鮮やかに見せてくれているような気がする。

谷監督は「自身を投影している部分ももちろんあるが、同年代の男性には少なからず共感してもらえるのではないかと思う。男と同じ40代、しかるべきタイミングで出会えた作品で、たくさんの方に見ていただきたい」と語っている。上映時間は66分とコンパクトな中に、ユーモアあり、人生訓ありと、いろんな要素がぎゅっと詰まっていて、40代男性に限らず、幅広い層が見て楽しめる作品になっている。

「追想ジャーニー」は11月11日(金)から東京・池袋シネマ・ロサ、京都シネマ、12日(土)から大阪・第七藝術劇場、名古屋・シネマスコーレで公開。

文=藤井克郎 制作=キネマ旬報社

 

 

「追想ジャーニー」

11月11日(金)より池袋シネマ・ロサほかにてロードショー

公式サイト:https://www.journey-movie.net/
Twitter:https://twitter.com/journey22_movie

上映劇場
(東京)池袋シネマ・ロサ 11月11日(金)~
(京都)京都シネマ 11月11日(金)~
(大阪)第七藝術劇場 11月12日(土)~
(愛知)シネマスコーレ 11月12日(土)~

2022/日本/66分
監督:谷健二 脚本:竹田新
出演:藤原大祐、高橋和也、佐津川愛美、真凛、髙石あかり、岡本莉音、伊礼姫奈、外山誠二
配給:セブンフィルム
©『追想ジャーニー』製作委員会