キネ旬ベスト・テン第4位「こちらあみ子」 高感度な少女・あみ子の視点で見る不思議な世界線

2月3日に発表された「第96回キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画 第4位に選出されるなど、各所から高い評価を受けている「こちらあみ子」のBlu-ray&DVDが2月10日にリリースされた。芥川賞受賞作家、今村夏子の原作を映画化した本作。ちょっと風変わりな女の子 “あみ子” の純粋無垢な行動は周囲の人たちを変えていく――。

“森井汁” は純度100%!新藤兼人賞金賞を受賞した監督デビュー作

森井勇佑監督、破格のデビュー作。1985年生まれ。大森立嗣監督作を中心に、長年助監督を務めてきた彼が、並々ならぬ愛情を抱く今村夏子の同名小説を映画化。それが「こちらあみ子」だ(ちなみに大森組では今村原作「星の子」(20)の現場にもついていた)。本作で期待の新人監督に贈られる新藤兼人賞の金賞を受賞。原作について「まるで自分事のよう」「文章から何から全部 “知ってる” と思えた」と某インタビュー(筆者によるもの)でも語っていたように、 “森井汁” は純度100%。同時に対象への距離感など、映画に必要な批評性や図像学のすべてが美しくデザインされた傑作となった。

舞台は広島。豊かな海と山に囲まれた土地で、原作から飛び出してきたような勇猛果敢な小学生、あみ子が元気に大暴れする。演じるのはオーディションで発見された大沢一菜(2011年生まれ)。当時は演技未経験。天然素材の活用はブレッソン的でもあるが、森井はもっと弾力性を備えた手つきで物語をパワフルに転がしていく。

そして、青葉市子の音楽が素晴らしい。広島の風景とも呼応しながら、あみ子の世界と同期するサウンドスケープが広がる。シンガーソングライターである青葉にとって、映画の劇伴はこれが初めて。森井も大沢も新人だし、思えば原作も今村のデビュー作である。

やがて精霊とまで交信するあみ子と現実社会のギャップ

あみ子はとにかく落ち着きがない。ずっと動いている。だからお母さんによく怒られる。そのご懐妊中の母さゆり(尾野真千子)が破水する大雨の日、あみ子は自宅のテレビで「フランケンシュタイン」(31)を視聴している。なるほど、同作が引用される「ミツバチのささやき」(73)の高感度な少女アナと、あみ子は同じ世界線にいる存在なのか。あみ子はさまざまな生き物とばかりか、やがて精霊とまで交信する。だがそのぶん、現実社会との軋轢や不協和音はどんどん大きくなっていく。

ベランダに幽霊がおるんじゃけど……というホラーな事件をきっかけに、〈オバケなんてないさ〉を絶唱するあみ子。そこから生と死の境界を越えるように、音楽室の肖像画から飛び出たバッハやモーツァルト、歴代の校長先生(皆故人)とあみ子の行進が始まる。さらに河でボートをこぐ。この仰天のミュージカル演出は、リヴェットの「セリーヌとジュリーは舟でゆく」(74)がヒントになったらしい。同作を森井に薦めたのは他ならぬ兄貴分の大森立嗣だ。

2021年夏の現場の鮮やかな記録 「こちらあみ子撮影日誌」

Blu-ray&DVD特典映像の「こちらあみ子撮影日誌」(約27分のメイキング)では、麦わら帽子を被った森井監督率いる2021年夏の現場が鮮やかに記録されている。また完成披露上映の舞台挨拶(MC:奥浜レイラ)、あみ子=大沢一菜主演による青葉市子の〈もしもし〉MVも漏れなく必見。

文=森直人 制作=キネマ旬報社

 

「こちらあみ子」

●2月10日(金)Blu-ray&DVDリリース
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,620円(税込)
【映像特典】(57分)
・メイキング映像(再編集版)
・完成披露舞台挨拶
・PV『もしもし』(森井勇佑監督)

【封入特典】
・解説リーフレット(児玉美月)
・ポストカード

●2022年/日本/本編104分
●出演:大沢一菜、井浦新、尾野真千子、奥村天晴、大関悠士、橘高亨牧、播田美保、黒木詔子、一木良彦
●監督・脚本:森井勇佑
●原作:今村夏子(ちくま文庫)
●音楽:青葉市子

●発売元:2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ 販売元:TCエンタテインメント
©2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ