〈追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭〉開催。メインビジュアルと予告編が解禁

 

「勝手にしやがれ」で世界を驚かせて以降、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手として新作を発表するごとに注目を浴びると同時に、そんなカテゴライズを嘲笑うように観る者を挑発し、煙に巻き、固定観念に唾を吐き続け、2022年9月13日に世を去ったジャン=リュック・ゴダール。そんな巨人の1960・80年代を中心とした9作品を上映する〈追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭〉が、4月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町で開催される。メインビジュアルと予告編が到着した。

 

 

ビビッドな赤が目を引くメインビジュアルには、アンナ・カリーナが初めて出演したゴダール映画「小さな兵隊」や各国で物議を醸した「ゴダールのマリア」はじめ、全作品のスチールが配されている。

 

 

「カルメンという名の女」で使用されたベートーヴェン『弦楽四重奏曲』にのせて始まる予告編は、「小さな兵隊」からダンスシーンが有名な「はなればなれに」、最も美しいゴダール映画の一本と評される「ゴダールの決別」まで、名シーンとともに上映作を紹介していく。

ゴダールの何が革新的で、何が人々を熱狂させたのか。今回の特集は、ゴダールなくして生き続ける「映画」を見つめる好機となる。

 

〈上映作品〉

「小さな兵隊」Le Petit Soldat

1960年/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/音楽:モーリス・ルルー
出演:ミシェル・シュボール、アンナ・カリーナ、ラズロ・サボ

極右のOAS(秘密軍事組織)およびこれと対立する組織FLN(アルジェリア民族解放戦線)の間で翻弄される男女のスパイを描いた長編第2作。60年に完成していたが、アルジェリア戦争を主題とし、両組織による拷問を批判的に描いたことで63年まで公開されなかったいわくつきの作品。アンア・カリーナが初めて出演したゴダール映画でもある。ふたりは本作完成後に結婚した。

 

「カラビニエ」Les Carabiniers

1963年/原作:ベニャミーノ・ヨッポロ/脚本:ゴダール、ジャン・グリュオー、ロベルト・ロッセリーニ/撮影:ラウル・クタール/音楽:フィリップ・アルチュイ
出演:マリノ・マゼ、アルベール・ジュロス、ジュヌヴィエーヴ・ガレア、カトリーヌ・リベイロ

題名は「歩兵たち」の意。イタリア人作家ヨッポロの同名舞台劇に基づく寓話的反戦・反帝国主義風刺劇。前年に同劇を演出したロッセリーニが、脚本家の一人として名を連ねている。架空の国の貧しく学のない若者2人が、世界の富をわがものにできるとの甘言に釣られ、「王様」の徴兵に応じて出征。破壊と略奪の限りを尽くすが……。ジャン・ヴィゴに捧げられている。

 

「はなればなれに」Bande à part

1964年/原作:ドロレス・ヒッチェンズ/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/音楽:ミシェル・ルグラン
出演:クロード・ブラッスール、アンナ・カリーナ、サミー・フレイ

先頃邦訳が刊行されたアメリカ人作家ヒッチェンズの小説に基づく作品。若者2人組とナイーヴな娘が織り成す三角関係および犯罪計画を軸とした、奔放な悲喜劇。物語の内と外を自在に出入りする、ゴダール自身のナレーションもユニーク。タランティーノ、ベルトルッチ、ハートリーら本作への偏愛を隠さない映画作家やミュージシャンは数多い。

 

「ウイークエンド」Week-end

1967年/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/音楽:アントワーヌ・デュアメル
出演:ジャン・ヤンヌ、ミレーユ・ダルク、ジャン=ピエール・カルフォン

各々愛人がいて、密かに互いを殺す機会を窺うプチブル夫婦。ふたりは遺産相続のため妻の実家へ車を走らせるが、この長旅はトラブルや奇妙な人物たちの出現により、混沌とした非現実的なものへ変貌していく……。性と政治の季節に作られたポストモダン的な黒い喜劇。移動撮影で捉えた交通渋滞は、映画史上最も長いシーンの一つとされる。

 

「パッション」Passion

1982年/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/ヴィデオ撮影:ジャン=ベルナール・ムヌー
出演:イザベル・ユペール、ミシェル・ピコリ、ハンナ・シグラ

野心的なポーランド人監督が、欧州古典絵画の数々を活人画として再現する芸術映画製作に取り組む。国際的製作班による「(完成しない)映画作りを描いた映画」としての側面を持つ本作は、夏の陽光に満たされたかつてのゴダール映画「軽蔑」を冬の光の中で再創造する。ここでも物語は芸術(創造行為)と生活(性や金銭をめぐる諸問題)の間を往還するだろう。

 

「カルメンという名の女」Prénom Carmen

1983年/脚本:アンヌ=マリー・ミエヴィル/撮影:ラウル・クタール、ジャン=ベルナール・ムヌー
出演:マルーシュカ・デートメルス、ジャック・ボナフェ、ミリアム・ルーセル

テロリストと思しき集団と共に銀行を襲撃する美貌の娘カルメンと、彼女と恋に落ちた警備員ジョゼフが辿る数奇な運命。そこにカルメンのおじで精神病院に入院中の元映画監督ジャン(ゴダール自身が演じる)およびベートヴェンの弦楽四重奏曲を練習する演奏家集団が交差し、悲喜劇的なラストですべてが合流する、ゴダール流“カルメン映画”。

 

「ゴダールのマリア」Je vous salue, Marie

1985年/脚本:ゴダール/撮影:ジャン=ベルナール・ムヌー/編集:アンヌ=マリー・ミエヴィル
出演:ミリアム・ルーセル、ティエリ・ロード、ジュリエット・ビノシュ

聖母マリアをスイスの女子学生マリーに変換し、イエスの処女生誕を現代に置き換えて語り直した挑発的な作品。カトリック教義への言及、マリー役のルーセルの全裸場面があり、ヨハネ・パウロ2世が批判するとともに大きな物議を醸した。上映禁止となった国、抗議活動や爆破予告の対象となった劇場もある。

 

「ゴダールの探偵」Détective

1985年/脚本:アラン・サルド、フィリップ・セトボン、ゴダール、アンヌ=マリー・ミエヴィル/撮影:ブリュノ・ニュイッテン、ピエール・ノヴィオン、ルイ・ビイ
出演:ジャン=ピエール・レオ、ジョニー・アリディ、ナタリー・バイ

探偵と刑事、ボクシング関係者、飛行士夫妻、老いたマフィアらが滞在中のホテルで交差する姿を、スター俳優を起用して描いた犯罪群像悲喜劇。「マリア」の制作資金を稼ぐためにゴダールが引き受けた企画で、カサヴェテス、イーストウッド、ウルマーに捧げられているのも商業的要請の中で見事な犯罪劇を撮った彼らへのオマージュと受け取れる。

 

「ゴダールの決別」Hélas pour moi

1993年/脚本:ゴダール/撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ロランス・マスリア、ベルナール・ヴェルレー

ある男がスイスの小村で数年前に起きた出来事を調査する。一連の回想から浮上したのは、夫が出張中、妻のもとに夫の姿を借りた神が訪れた、という摩訶不思議な話だった……。ゼウス神が夫に化けて人妻と過ごすギリシャ神話のエピソードに想を得て、人間の欲望、苦悩、歓びをめぐる真実を経験したいという神の願望を描いた物語。シャンプティエの撮影と相まって、最も美しいゴダール映画の一本と評される。

 

〈追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭〉

主催:マーメイドフィルム
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA
公式HP:jlgfilmfes.jp