フィンランドが生んだ世界的建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルト(1898-1976)。不朽の名作〈スツール 60〉、アイコン的なアイテム〈アアルトベース〉、そして自然との調和が見事な〈ルイ・カレ邸〉などで知られる。その創造を支えたのは、同じく建築家である最初の妻、アイノだった──。アイノとの手紙のやりとりを中心に、アアルトの知られざる素顔を綴ったドキュメンタリー「アアルト」が、10月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほかで全国順次公開。アアルトがラジオインタビューでデザインを語るシーンの映像、ならびに建築家の隈研吾ら著名人のコメントが到着した。
映像からは「いま身の回りにあるものの90%は機能主義が生んだ粗悪品だ」「機能は大事だがまずは発想から始める。機能と連携して考えるわけだ」など、アアルトの思想が明らかに。
なお10月5日(木)には、アイノとアルヴァの絆を二人の手紙から紐解く書籍『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』(草思社)が発売される。
〈コメント〉(敬称略・50音順)
私は56年前、初めての海外旅行でアルヴァ・アアルトの建築を見るためにヘルシンキやユヴァスキュラを訪れた。美しい森林の中から出現するアアルトの作品は、雲のように私を柔らかく包み込んでくれた。
二人の妻との生活を通して浮かび上がってくるアルヴァの人間としての優しさや温かさが、彼の作品を生む源泉であることをこの映画は美しく描いている。
──伊東豊雄(建築家)
アアルトデザインのパイミオを初めてみた時の衝撃は忘れない。唯一無二の有機的な曲線、合板で作られ、病を癒す患者の為と知り感動を覚えた記憶がある。この映画は、空撮によるダイナミックな建築の姿、それを取り巻く森も映し出し、建築とは人と自然の間で育まれるものと教えてくれる。家具も同じアプローチだ。妻アイノとの手紙のやり取りは、アルテックのアートディレクターである前に妻という人間味溢れる感情のほとばしりを垣間見ることができる。
──石井佳苗(インテリアスタイリスト)
なにより最近の建築ドキュメンタリーがいいのは、ドローンをつかった空撮で、思わぬ角度から名作を味わうことができる点だろう。パイミオのサナトリウム、ムーラッツァロの実験住宅など、フィンランドの美しい環境との調和が素晴らしい。有名なタイルを使ったプレキャストコンクリート板の製造シーンなども貴重!
──乾久美子(建築家)
アルヴァ・アアルトの椅子の想い出
私が初めてアアルトの椅子を目の当たりにしたのは18歳の時。高知県の片田舎から都会に出てきて、父親を輸入家具店〈湯川ヨーロッパランド〉に案内した際でした。バーゲンセールをしていたコーナーでアアルトの肘に籐を巻いたアームチェア、そしてジョージ・ナカシマのコノイドチェアが、それぞれ3万円の札が付いていたのです。当時、両親からの毎月の仕送りが7千円か1万円だったことを考えれば、その価格は信じられない高額でした。アアルトやナカシマの名前は全く知らなかったものの、そのプロポーションの美しさに感動したことは昨日の様に鮮明に覚えています。
──織田憲嗣 (椅子研究家、東海大学名誉教授)
モダニズム建築の巨匠と呼ばれるコルビュジエ、ミース、ライトと、アアルトの一番の違いは女性に対するスタンスではないかと、僕はうすうすと感じていた。コルビュジエ達は、一言でいえばマッチョであり、女性に対して抑圧的である。それが原因になって様々のトラブルもかかえた。しかしアアルトのその妻アイノに対する尊敬、やさしさを、この映画で思い知った。それが、彼のデザインのやさしさとつながっているのである。
──隈研吾(建築家)
小さな人間という視点から設計し、それが街になり、社会の発展につながるという哲学に触れ、アアルト建築の魅力がすとんと腑に落ちました。また、生涯をかけた仕事は、時を超えて語り継がれる壮大なプロジェクトであり、アイノとエリッサの存在が必要不可欠でした。アアルト建築が今までと少し違って見えるような気がします。
──島塚絵里(テキスタイルデザイナー)
朝食にアイノの器を使い、庭の花をアアルトベースに生ける、今の自分の暮らしの中で、デザインから伝わってくるこの「優しさ」はなんだろうといつも思っていた。
映画の中にその答えがあった。アルヴァとアイノとエリッサと。「アアルト」というブランドは、誰が欠けては成り立たなかった。 仕事への愛、家族への愛、相手への愛──これは、3人の3つの愛の物語だ。
──下田結花(モダンリビング・ブランドディレクター)
建築家もひとりの人間であり、ある時代を生き抜いた人間としてのアアルト。この映画では、深い森のフィンランドからアメリカで脚光を浴び、好奇心、才能、挑戦、理想、信仰、苦悩までのアアルトの旅路を描き、アアルトとアイノとの深い愛と情と慈しみの言葉は、冬の温かな暖炉のように心の奥に大切な火を灯してくれる。
──田根剛(建築家)
映画『アアルト』が、頭のなかにあった情報に沢山の背景を加えて物語のようにつなげてくれた。アアルトのいた時代を覗き見しているようで楽しかったし、いくつか謎も解けたし、いくつか僕のなかに残っている言葉がある。でもそれは少しぼんやりしているから、もう一度見直して正しく覚えておきたい。
──平井千里馬(SCOPE代表)
©Aalto Family ©FI 2020 - Euphoria Film
配給:ドマ