時空を超えて《文様》を辿る旅。茂木綾子監督「フィシスの波文」

 

京都に400年受け継がれる唐紙を起点に、文様にかたどられたフィシス(あるがままの自然)を辿る。「島の色 静かな声」(2008)「幸福は日々の中に。」(2016)の茂木綾子監督によるドキュメンタリー「フィシスの波文」が、4月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。

 

 

和紙に文様を手摺りする唐紙を継承し、今年で創業400年を迎える京都の工房〈唐長〉。その手仕事の現場から映画は始まる。植物文、雲や星を表す天象文、渦巻きや波文などが刻まれた江戸時代の板木に、泥絵具や雲母をのせ、和紙に文様を写していく。そこに現れる、あるがままの自然のかたち、動き、リズム、色合い──。人はなぜ文様を描くのか、いかなる感性や思いが宿っているのか?

葵祭や祇園祭などの祭礼、寺社や茶事の空間に息づく文様。1万年あまり前にイタリアの岩壁に描かれた線刻。古代ローマの聖堂を飾るモザイク。北海道のアイヌの暮らしに受け継がれている文様。それらに導かれ、時空を超えた旅が展開する。

 

 

芸術人類学者の鶴岡真弓は、京都の祭礼にインドやケルトなどユーラシア文明に共通する文様が用いられてきたこと、北と南の文明の出会いから生まれた動物文様の陣羽織を豊臣秀吉が着ていたことなどに触れ、「人々に生命力を与えるのが文様の根源的な使命」と語る。唐長十一代目の千田堅吉は「主役はあくまでも文様。思い入れを入れてはいけない仕事」との姿勢で作業に臨む。唐紙に注目するエルメスのアーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシィ・デュマは「工芸によって形を変える行為は、混沌の中に宇宙を見出すこと」と話し、ミナ ペルホネンのデザイナーである皆川明と造形作家の戸村浩は、模様と空間、自然にインスパイアされた自らの創作を明かす。密やかなアイヌの儀式や山の神への祈りの映像は、人と自然と文様の関係を鮮明に浮き上がらせる。

茂木綾子監督の映像詩と、イギリスの前衛音楽家フレッド・フリスの音が共鳴。東京ドキュメンタリー映画祭2023での上映に続き、いよいよ劇場公開される。

 

 

茂木綾子監督コメント
唐長の唐紙文様はとてもシンプルで洗練され、大変心落ち着くものです。また、世界中の様々な暮らしの中にある文様は、ずっとそこにありながら、実はとても不思議な存在に感じられます。
きっと遠い昔から、人が自然を神々として捉え、その美と力に近づこうと文様の原型が生まれたのではないでしょうか。
私も同様に、自然の完璧な美に常に感動し、太古から続く自然を愛する人々の営みに対する共感とともに、この作品を制作しました。

 

 

「フィシスの波文」

監督・撮影・編集:茂木綾子
出演:千田堅吉(唐長十一代目 唐紙屋長右衛門)、千田郁子(唐長)、鶴岡真弓(芸術人類学者)、ピエール=アレクシィ・デュマ(エルメス アーティスティック・ディレクター)、戸村浩(造形作家)、皆川明(ミナ ペルホネン デザイナー)、門別徳司(アイヌ猟師)、貝澤貢男(アイヌ伝統工芸師)
サウンド:ウエヤマトモコ
音楽:フレッド・フリス
タイトル考案:中沢新一(人類学者)
宣伝美術:須山悠里
プロデューサー:河合早苗
企画・製作・配給:SASSO CO.,LTD.
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会
2023年/85分/日本/カラー・モノクロ/1.90:1/ステレオ
©︎2023 SASSO CO.,LTD.
公式サイト:https://physis-movie.com/