タル・ベーラ「ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版」、冒頭10分の長回し&著名人コメント公開

 

ハンガリーの荒涼とした田舎町で、闖入者が破壊と暴力を呼び起こしていく──。「ニーチェの馬」を最後に56歳の若さで映画監督を引退した鬼才タル・ベーラが、2000年に発表した一大叙事詩「ヴェルクマイスター・ハーモニー」が、4Kレストア版で、2月24日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。冒頭10分間の長回しシーン映像、著名人のコメントが到着した。

 

 

〈コメント〉

暴力はどこから来てどこへ向かうのか。それを時間をかけて追い続けるカメラと狂ったように繰り返される音楽。現代における行進曲の様な役割をする音楽は一体どんな音楽なのだろうと銃を片手にハンナシグラと踊る警視長を観ながら考えた。ありとあらゆるものを麻痺させる音楽。多様化の中で生まれたヴェルクマイスターハーモニー。平均化、多様化の中で破壊と思考停止は進む一方だ。ただはみ出すだけでは、それは相対的なものになるのでそれもまた平均化され思考停止への一途を辿るだけになってしまう。
多様性という名のレッテル貼り。監視する社会で全体主義は進む。
本物の多様性は際限なく違いを認識し続けるしんどいものだ。常に移ろい続ける人や事象との対話の中でわかっていないかもしれない、と思い続ける事は冒頭の天体の話、永遠についての話とも繋がってくる。しかし永遠は冷たく、共感とは程遠い。
すがるように映画の中のノイズにひたすら耳を傾けた。
──石橋英子(ミュージシャン)

うっとりするほど幽玄で、それでいて荒々しさのある長回しのカットに何度も声を漏らした。だが終始緊張は解けず、思いもよらない出来事が身に降りかかるまでの想像力を試されていたと気づく。
この映画に充満する負荷に思いを巡らせれば、日本で生きる私たちの生活、2024年の世界に降りかかっている出来事に符合する。
私たちが日々、画面越しに見ているものは映画ではない。
そう言われているような、張り詰めた夢だった。
──君島大空(ソングライター/ギタリスト)

普段、みんなが信じているものは穴だらけでその穴はクジラが入るほどデカイんだよ
──しりあがり寿(漫画家)

多分、人間が死んだ直後、この世に少し留まる時間があるのなら、この映画の目線のように、人間達の葛藤と愚かさを空中に浮きながら観るのかもしれない。全体が長回しの映画。全ての絵の構図が展覧会にあるような名画のよう。それが動いている、ゆっくりと、ふわふわと浮きながら。目の前で静かに、熱く、破滅に向かってのドラマが行われている。観ている僕らは冷静に、浮きながら眺めている。それでいてこの映画はSF映画だと思う。
──藤倉大(作曲家)

『ヴェルクマイスター・ハーモニー』は、忘れられない素晴らしい体験だ。
催眠術のように染みわたり、“夢”へと導いてくれる。  
──ジム・ジャームッシュ(映画監督)

 

 

Story
ハンガリーの荒涼とした田舎町。天文学が趣味のヤーノシュは老音楽家エステルの身の回りを世話している。エステルはヴェルクマイスター音律を批判しているようだ。
彼らの日常に、不穏な“石”が投げ込まれる。広場に忽然と現れた見世物の“クジラ”と、扇動者“プリンス”の声。群がり始めた人々は、やがて不満を沸騰させ、破壊とヴァイオレンスに向かう……。

 

「ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版」

監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ラルス・ルドルフ、ペーター・フィッツ、ハンナ・シグラ、デルジ・ヤーノシュ
2000年/ハンガリー=ドイツ=フランス/モノクロ/146分/配給:ビターズ・エンド
© Göess Film, Von Vietinghoff Filmproduktion, 13 Production
公式サイト:www.bitters.co.jp/werckmeister

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