「あなたはこんなにも魅力的です、ずっと愛していました」…松本花奈監督から主演の橋本愛へ、そして映画から観客へ、そのメッセージを伝えるためのラブレターのような、わずか8分の作品『愛はどこにも消えない』。『21世紀の女の子』のうちの一篇である。この映画は、80年代後半~90年代生まれの監督15人が集結、“自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること”を共通のテーマに8分以内の短篇で表現するオムニバス作品。
女優陣を代表して橋本愛にこの作品について質問した。聞き手は、『21世紀の女の子』のうちの一篇『恋愛乾燥剤』にも出演しているゆっきゅん。橋本愛が〈この映画について考えていること〉に迫る。
ある意味、劇薬だし、武器でもある映画
―橋本さんは『21世紀の女の子』全篇を観て、どんな感想を持ちましたか?
橋本愛(以下、橋本) まず『21世紀の女の子』という言葉にゾッとしました。中心になった山戸結希監督が、当たり前すぎてみんなが見ないでる言葉に目を向けて、それを発信している、ということに。そして、観終わった後に〈世界の見え方が変わる〉ってこういうことなんだな、と思いました。そう思えるのは〈世界の変革〉だと思うし。世界が変わるとしても一人一人が変わっていくしかないと思うので、『21世紀の女の子』は〈鑑賞した一人一人が変わってしまう映画〉だと思うんです。ある意味、劇薬だし、武器でもある映画じゃないかって。
―「21世紀の女の子の、女の子による、女の子のための、とびっきりの映画たち」というコンセプトに関しては、どんな思いがありますか?
橋本 確かに映画の現場はスタッフも監督も男性ばっかりなんですけど「女性監督」という言葉も好きではないんです。自分のことでも「女優」という言葉は好きではなくて、「役者」「俳優」と言っていたんです。でも、最近は照れずに「女優」と言えるようになってきました。人間としての上下ではなく、各々の性質として男と女は同じであることは絶対にないという感覚があって、女であることを剣にも盾にもして、振りかざして生きようと思っています。〈女であることの強さ〉がもっと認知されたらいいなと思います。
そして、女性が作った本や漫画や音楽と同じシンパシーが、映画を観る、という体験で、ここまでグッときたことは今までなかったですね。「映画は、撮り尽くされた」とか言うじゃないですか。でもまだこんなに、新しい視点もあるし、新しい景色もあるし、新しい思想もあるんだって思いました。本や漫画や音楽では当たり前のことなのに!
山戸監督の〈映画を信じる力〉に圧倒された
―小説や漫画や音楽みたいに個人や少人数で作れるものでなく、大人数の集団で作らなければならない映画では、なかなかこういうものが現れづらかったのかもしれないですね。その『21世紀の女の子』を企画/プロデュースした山戸結希監督について、どんな思いを持っていますか?
橋本 『おとぎ話みたい』(2014年)を拝見して、本当に凄い映画だと思って、ずっと山戸監督と仕事をしたいなと思ってきました。〈映画でしかできないこと〉を実現するために戦っている人だと思うし、山戸監督の〈映画を信じる力〉に圧倒されて、私も姿勢を正しています。
―橋本さんは松本花奈監督が監督されたパート、『愛はどこにも消えない』に主演されました。脚本を読んで「演じてみたい!」と思った決め手はどこでしたか?
橋本 主人公が大人にはなりきれず、子供の領分に片足を突っ込んだまま、曖昧に青春を生きているところが今の自分とすごく重なりました。こんなに自分とリンクするって、なかなかないことなんです。
でも私と違うところもあって、主人公は向こうからの「好き」があると自分も「好き」になるんですけど、私は向こうの気持ちは関係なく自分から「好き」になるんです。そして私なら「好き」になったら「好きを返してほしい」ではなくて「幸せになってほしい」と思うんですけど、彼女は「私を幸せにしてほしい」という思いが強い。その心理を摑むのはなかなか大変でした。けれど、実は私が格好つけているだけで、本心では彼女と一緒かもしれないと思ったりして(笑)。たった8分の短篇ですけど、とても濃密な作品だと感じました。
インタビューの続きは『キネマ旬報』2月上旬号に掲載。今号では『21世紀の女の子』の特集をおこなった。橋本愛、山戸結希(監督/企画・プロデュース)のインタビューや戸田真琴による作品評を掲載している。(敬称略)
聞き手:ゆっきゅん/撮影:金子山/構成・制作:キネマ旬報社