第46回城戸賞決定!準入賞受賞作、最終選考作選評

1974年12月1日、「映画の日」に制定された城戸賞が46回目を迎えた。本賞は映画製作者として永年にわたり日本映画界の興隆に寄与し、数多くの映画芸術家、技術家などの育成に努めた故・城戸四郎氏の「これからの日本映画の振興には、脚本の受けもつ責任が極めて大きい」との持論に基づいたもので、新しい人材を発掘し、その創作活動を奨励することを目的としている。これまでも「のぼうの城」(11)、「超高速!参勤交代」(14)など受賞作が映画化され大ヒットした例もあることから本賞の注目度は高く、今回は未曾有のコロナ禍に見舞われた特別の一年ではあったが選考対象作品は406篇。本賞への高い意欲がうかがわれた。その中から10篇が最終審査に進み、島田悠子氏の「御命頂戴!」が準入賞を受賞した。その全篇を別項でご紹介するとともに、最終審査に残った10篇の総評と受賞作品の各選評を掲載する。

選考対象脚本  406篇

日本映画製作者連盟会員会社選考委員の審査による第一次・第二次・予備審査を経て、以下10篇が候補作品として最終審査に残った。

「BAD HERO」金田靖

「赤いキャベツを抱きしめて」五島さや香

「君に触れると」仲村ゆうな

「ベランダから」生方美久

「産んだ私の責任です」竹嶋和江

「出戻りサト子」岡田鉄兵

「御命頂戴!」島田悠子

「アラサン(傘寿)女子はティファニーがお好き!」立石えり子

「テレポテーションと海」伊吹一

「高く、もっと高く」村崎雄大

受賞作品

入選 該当作なし

準入賞 「御命頂戴!」島田悠子

佳作  「出戻りサト子」岡田鉄兵、「ベランダから」生方美久

第46回城戸賞審査委員

岡田裕介(城戸賞運営委員会委員長)

井上由美子

手塚昌明

朝原雄三

富山省吾

古久保宏子

明智惠子

会員各社選考委員

(順不同 敬称略)

準入賞者のプロフィール&コメント
島田悠子(しまだ・ゆうこ)

東京都出身。シナリオ・センター卒業。2009年に『婆娑羅』で第2回WOWOW シナリオ大賞優秀賞、2017年には『大江戸ぴーちくぱーちく』で第42回城戸賞佳作受賞の実績を持つ。現在、株式会社リイド社発行の『月刊コミック乱』にて池波正太郎原作『剣客商売』の脚本をチームで担当する。

コメント
「スタイリッシュで新味のあるアクション時代劇を、新世代の客層にも」。本作はこのような願いから生まれました。私の思う時代劇のカッコよさを前面に押し出し、出だしからラストまで一気に駆け抜け、持てる情熱を尽くして書き上げました。そうして完成した本作『御命頂戴!』が第46回城戸賞にて準入賞をいただくこととなり、感激とともに大変名誉なことと身が引き締まる思いでいます。ここまで作品を押し上げてくださったたくさんの審査員の方々や、いつも私の創作活動を温かく見守ってくれた大切な家族、多くの刺激をくれるかけがえのない友人たちに、深く心からの感謝の気持ちを伝えたいと思います。これからも引き続き、時代劇はもちろん、現代劇でも、よりいっそうパワフルで魅力的な作品を書いていけるよう精進していく所存です。はじめましての方、まずは受賞作『御命頂戴!』をご一読ください。なによりの自己紹介になると思います。私の「らしさ」があふれている作品です。楽しんでいただければ幸いです!

選者

富山省吾(日本映画大学理事長)

古久保宏子(松竹株式会社 映画企画室 室長)

総評

■11月17日の選考会で今年も入選作品がないことを残念がられた岡田会長が、翌18日突然逝去されました。応募作品への厳しくも愛情溢れるアドバイスで入選作品を心待ちにされていた岡田会長が挙げられた「新たな時代の城戸賞選考基準」を改めてここに提示します。

①オリジナル企画提案者としてのプロデューサー視点 ②題材の徹底的調査取材 ③新しさの創造 ④娯楽映画を書けるメジャー性 ⑤魅力的登場人物の創造。

コロナ禍で配信サービスによる映画鑑賞が進む中、城戸賞の応募脚本は大きなスクリーンと良質な音響の完備した映画館での鑑賞を目的として欲しいと思います。その意識で10編の最終選考作を見渡した時、どうしても映画館で観たい、と思わせる作品が有ったか。人波を抜けて辿り着いた劇場で、多くの観客と一緒に観て楽しむ。映画というものについて、もう一度想いを巡らし深く考え直さなければいけない。岡田会長の5つの基準を反芻しながらそう実感しています。(富山)

■選考対象作品数406篇の中から各社映画プロデューサーが10篇を選びました。準入賞1篇、佳作2篇と、残念ながら今年も入選作品はありませんでした。

今年度の傾向ですが、主に、1.設定で勝負する作品、2.感性で走る作品、3.安定的な作品がありました。1、2の作品に関しては、アイデアや感性そのものは斬新さがあるのですが、取材や緻密性にやや欠ける面があり、脚本としての完成度が不足していたように思えます。一方、3の安定的な作品は、脚本としての骨格はしっかりしているものの、今映画化するためのエッセンス、例えば、時代性や独自性にやや欠けていたように思えました。

また、描く世界が私小説的な視野にとどまっている作品が多い印象も受けました。コロナ禍で、人々の価値観や社会構造が大きな転換期を迎えているこの時代を反映するようなエッセンスが、もう少しあってもよかったかと思います。

しかし、最終選考に残った10篇に20代の作品が4篇あったことは喜ばしく、来年度は入選作品が生まれることを期待したいと思います。(古久保)

受賞作品選評

準入賞「御命頂戴!」 (受賞作全文はこちらからお読みいただけます)
仇討ち御免状を持つ藍九郎が仇討ち相手と見られた浪人と組んで、真犯人を見つけて本懐を遂げる。キャラクターが楽しく、ユーモアとアクションを交え謎解きが進む展開も快調。但し、新味がないとの指摘から入賞に至らず。(富山)

剣はダメだが知恵がある主人公のキャラクターが愛らしく、共感できた。登場人物のバリエーションや、映像的な迫力もある。仇討ちと思っていた男との友情や淡い恋など、幅広く支持される可能性を感じたものの、やや既視感があった。(古久保)

佳作「出戻りサト子」
お笑い芸人サト子の再出発を笑いと家族愛を込めて描く。パワフルな会話劇だが、筆者の過去応募作との対比から、なぜ今この内容なのか、これまでと変わり映えがしないなどの声から佳作に留まる。(富山)

関西弁の毒舌で軽妙な台詞のやりとりに、家族の愛情が感じられた。人情味あふれる話で、キャラクター造形が魅力的な作品。構成もしっかりしており、脚本の完成度は高い。今後は、時代性も加味した発展的な作品を望みたい。(古久保)

佳作「ベランダから」
余命宣告を受けた大学生優也と失恋から自殺を図る春子が、アパートの隣り合わせのベランダで顔を合わす。脚本初執筆ながら、セリフの力、ラストまで引き込まれたという筆力への期待が評価される。(富山)

ベランダ越しに会話する年の差男女のあたたかい恋。イマドキの20代らしいセリフと二人の距離感、少しずつ変化していく関係性がやさしい視線で描かれており好感が持てた。周辺キャラクターは少々類型的で改善の余地があるか。(古久保)

最終選考作品

「BAD HERO」
世界一になる夢を叶えるために故障した脚を切断して車いすテニスに転向する主人公の格闘。きれい事で終わらない毒のある設定が魅力という一方、主人公の造形甘い、身体欠損の痛みに関心がないのは問題との指摘。(富山)

「赤いキャベツを抱きしめて」
子供の時に不注意から妹を死なせた主人公の、母・義妹・妻・愛人の間を行き来する25才の現在。今日的愛憎を描いて個性的との評価に対し、題材が解決に向かっていない、登場人物が作者の都合で動くなど。(富山)

「君に触れると」
セリフの掛け合いに瑞々しい感性を感じた。「体温のない人」という設定も斬新で、この枷が登場人物の切なさをより際立たせ、かつコロナ禍世界とも繋がっている。体温がないことの映像表現について補足があればなおよかったか。(古久保)

「産んだ私の責任です」
「出生前診断」は、近年現実的になってきているテーマであり、着眼点が評価できる。また、診断に対する逡巡や母子の葛藤も読ませる脚本。意外なストーリー展開も楽しめたが、終盤、サスペンスがメインになったのが残念。(古久保)

「アラサン(傘寿)女子はティファニーがお好き!」
過疎化、独り暮らしの高齢者と交通事情をモチーフに、奮闘する79才のヒロインをコメディタッチで描く。生き生き活劇、調べ上げた面白さがある、に対して、予定調和、映画として観たいかの指摘も。(富山)

「テレポーテーションと海」
生きる目的を持てない若い男女が、寄り添い心を開いていくストーリー。二人の活き活きした会話劇には、新鮮さ、イマドキ感がある。作品には、二人に寄りそう優しさと彼らの希望を感じた。もう少し世界の拡がりがあってもよいか。(古久保)

「高く、もっと高く」
番組のヤラセをバラすと脅す少女と一緒に、少女の母親捜しを手伝うテレビプロデューサー。会話鮮やか、観たい映画に対し、YouTubeを扱うも中身が古く見える、中盤長過ぎ、キャラクターが雑な印象など。(富山)