全国高校演劇大会 最優秀賞の戯曲を映画化「アルプススタンドのはしの方」
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- 2021年01月20日
舞台版の良さを生かしつつ、追求した映画ならではの表現
城定秀夫[監督]、小野莉奈、中村守里 インタビュー
第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた戯曲を、小誌星取評でもおなじみの城定秀夫監督が映画化した「アルプススタンドのはしの方」は、昨年公開されるやいなや幅広い年齢層から反響を呼び、第12回TAMA映画賞特別賞、第42回ヨコハマ映画祭監督賞など複数の映画賞も受賞。そんな、昨年最も愛された青春映画の一つである本作のBD発売を記念し、城定監督、小野莉奈さん、中村守里さんにお話を伺った。
映画として作品を残せるという歓び
城定 この作品、もともと高校演劇版を舞台(浅草演劇版)にする企画を進めていくうちに「映画もやってみようか?」というところから僕が相談を受けまして、お引き受けした頃には既にキャストは決まっていました。
小野 でも私たちは、舞台千秋楽のときに初めて映画化の話を聞かされたんですよ!?
中村 もう本当にびっくりでした! どうして話が通ってなかったんでしょうか?
城定 サプライズだったのかな?(笑)もっとも、僕もずっとキャストのみんなは知ってるとばかり思いこんでたんだけど。
小野 でもそれまでずっと一緒にやってきたメンバーと、また別の形で作品を残せるという歓びがありました。舞台をやってるとき、私たちは作品自体は見られないわけなので、映画として作品を残せて、自分たちの演技を見直すこともできるのは良い機会だなとも。
中村 舞台と違って映画は本当の場所での撮影になるので、そこもすごく大事だと思いました。球場だと目の前でやってなくても試合の状況を想像しやすいし、その場に立ってみるといろいろ思い浮かべられるものなんだなと。また私が演じた宮下は、舞台版にはなかった吹奏楽部部員3名との直接の絡みのシーンなどもあったので、実際の方々がいらっしゃることで「あ、みんな私が思っていたよりも怖い!」とか(笑)、イメージがつきやすかったです。
小野 逆に私が演じたあすはは吹奏楽の子たちとの絡みが全くなかったので、舞台と映画とでさほどお芝居的な違いはなかったのですが、ただやはり空間は大きく影響したというか、球場の応援席にはエキストラの方々がいて、空は大きく広がって……などと、あすはたちが体感していることを私たちもじかに味わいながらお芝居することができましたね。
城定 彼女たちは舞台の稽古の頃からずっと役を演じてきていますので、僕はそれを映画の芝居にどう転換するかをメインに指導していきました。ただ、舞台芝居から映像芝居に代えたらどうなるかを一回稽古してみたら、ちょっと見ただけでこれは問題ないなと。
学校みたいな現場
小野 現場での城定監督はカメラワークの指示とかがすごくスムーズで、てきぱき作業が進んでいたイメージがあります。段取りもすごく早くて、その分私たちもお芝居に集中することができました。
中村 撮影前と後とで、監督の印象はかなり変わりましたね。最初は怖いのかな? って思ってたんですけど(笑)、撮影していく中で物事をすごく冷静に見てらっしゃる方なんだと。私たちに何気なく、何も発さないけど気遣ってくださってることを感じることが多くて、すごくありがたかったです。
城定 お芝居は彼女たちに任せる分、立ち位置や動きの変化など映画ならではの表現が上手くできたら良い映画になると思っていました。と同時に舞台の雰囲気も残しつつ、どうやって最終的にみんなを並んで立たせられるかがキモでもありましたね。
小野 私と守里ちゃんと西本まりんちゃんの3人は、舞台版のときから良い意味で脱力できるような、リラックスした状態でいましたね(笑)。キャピキャピもしてないし、だからといって全然話さないという関係でもない。
中村 うんうん(笑)。
小野 学校で一緒にいてもなじめそうな、そのとき思ったことを何でも話しながら、とても居易いコンビネーションで、バランスも良かったなと思ってます。
城定 藤野役は新たに平井亜門君を迎えました。
小野 私たちは現場で初めて会ったんですけど、大らかな人柄ですぐに仲良くなれました。特にあすはは藤野君との会話が多かったのですが、舞台と映画で藤野君を演じる人が違う分、お芝居の体感も違ってくるので、自分も自然と接し方も違ってくるのがやってて面白かったです。
中村 亜門君は舞台を見てなかったので、変に縛られず、亜門君らしい映画版ならではの藤野君になってたなと思いました。
城定 はたから見ていても現場は学校みたいな空間で、その意味では自分が先生で生徒を指導しているという、そんな錯覚はありましたね。「悪口言われてないかな?」とか(笑)。
小野・中村 言ってないですよ!(笑)
奇しくも、甲子園が中止になった2020年に公開されて
城定 完成した作品は正直手応えがありましたが、いつもはなかなか多くの人に見てもらえないことが多い中、今回はたくさんの応援もいただいて、すごく広がりを見せてくれて嬉しかったですね。甲子園が中止になったことで、嫌なことを思い出させてしまうのではないかという複雑な想いもありましたので、なおさら多くの人に見ていただけてありがたかったです。
小野 映画賞をいただけたのも、みんなが一緒になって作ったものが評価されたという感覚でとても嬉しいですし、運命の導きでいろいろな人々が交わりながらこの作品に携わった結果、さまざまな反響もあったのかなとも。それこそコロナ禍と公開が重なったのも、今では何か数奇な運命だったのかなという気もしています……。
城定 もともとそういう想いで作った映画ではなかったけど、やがてコロナがすっかり過去のものとなったときに「高校野球が中止になった年に、この映画は公開されたんだよね」って思い出していただけたらいいかなと。また、早くそういう世の中になってほしいですね。
小野 みなさん「30回見た」とかものすごい数を見られていて、そこまで深く愛してもらえている作品ですから、次はブルーレイで何回もご覧になっていただいて、またいろいろな気持ちを思い出したり、共感してもらえたり、元気を出していただけたら嬉しく思います。
中村 今では私よりも深く作品に詳しい方がたくさんいらっしゃいますので、今度はぜひお家で気軽に、見たいと思ったときに見ていただきたいですね。
城定 ちなみに今回のBDの特典として、3つのスピンオフ・ドラマの脚本を収録したブックレットが封入されてます。今後それを撮る予定があるかどうかはわからないけど(笑)。
小野&中村 撮りたい撮りたい!
城定 僕も撮りたい(笑)。
取材・文=増當竜也/撮影=近藤みどり/制作=キネマ旬報社(キネマ旬報2月上旬号より転載)
TOP写真左:城定秀夫(じょうじょう・ひでお)/1975年生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学卒業後、フリーの助監督としてキャリアを積む。2003年「味見したい人妻たち」で映画監督デビュー。その後、Vシネマ、ピンク映画、劇場用映画など100を超える作品を監督している。近作に「性の劇薬」「アルプススタンドのはしの方」「花と沼」など。
TOP写真中央:小野莉奈(おの・りな)/2000年生まれ、東京都出身。出演作にTBSドラマ「中学聖日記」、映画「テロルンとルンルン」(18)「リビングの女王」(20)などがある。本作は2019年の浅草九劇で上演された舞台版からの続投。
TOP写真右:中村守里(なかむら・しゅり)/2003年生まれ、東京都出身。2018年に「書くが、まま」で映画初出演を果たし、MOOSIC LAB2018にて史上最年少で最優秀女優賞を受賞。本作は小野と同じく、舞台版からの続投。

●1月20日ブルーレイ発売 ¥5,800(本体)+税
●2020年・日本・カラー・本編76分
●監督/城定秀夫 脚本/奥村徹也 原作/籔博晶・兵庫県立東播磨高等学校演劇部 撮影/村橋佳伸 録音/飴田秀彦 編集/城定秀夫
●出演/小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、目次立樹
●封入特典/特製16Pブックレット(書き下ろし新作スピンオフ短編収録)
●音声&映像特典/メイキング映像「アルプススタンドのはしの方のうらの方」(約30分)、予告編、スタッフ&キャストによる本編コメンタリー
●発売・販売元/ポニーキャニオン
©2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会