2021年春に配信スタートされるや否や190カ国以上で人気視聴ランキングTOP10入りした、Netflixオリジナルアニメ『YASUKE -ヤスケ-』。実在した織田信長の家臣、アフリカ人の侍ヤスケの20年後を舞台にしたファンタジー時代劇を、ハリウッドから来日しているアメリカ人監督ラション・トーマスが、アニメ『進撃の巨人』日本のアニメーションスタジオMAPPAと約2年をかけて製作。監督ラション・トーマスと共に、製作総指揮に名を連ねているのが、今年グラミー賞も受賞したミュージシャン、フライング・ロータスだ。
その『YASUKE -ヤスケ』のサウンドトラックを映画館で大音量で聴け、更に、『アニマトリックス』等の監督を務め、フライング・ロータスとも数々の作品で競演した渡辺信一郎氏、『攻殻機動隊 SAC_2045』等の脚本を務めた佐藤大氏によるトークショー付きという、一夜限りのスペシャルイベントが渋谷ヒューマントラストシネマで開催された。
(左から)佐藤大氏、ラション・トーマス監督、フライング・ロータス(ポスター写真)、渡辺信一郎氏
前夜にアメリカから届いたばかりという、フライング・ロータスからのビデオメッセージでは、侍ヤスケを連想させる刀を片手に持ち『今までの製作の中で、1番楽しかった。超大変な締め切りとも闘ったけど(笑)それさえも、楽しかったよ。この作品を通して、喜び、悲しみ、そして”血”を感じ取ってくれたら嬉しい。」と笑顔で語った。
渡辺信一郎氏にフライング・ロータス本人から個人的に届いたというメッセージでは、「(今回はアメリカ人である監督とフライング・ロータスが日本で製作されるアニメに使われる映画音楽を作るということで)日本のパーカッション(和太鼓)にインスピレーションを受けた。和太鼓とシンセサイザーという組み合わせは、今まで誰もやってなかったんじゃないかと思い、製作した。」と、織田信長時代に日本人の中で、アフリカ人の侍ヤスケがいたという物語にふさわしい、日本文化と異文化の融合を表現すべく、新しい境地にチャレンジしたことが伺えた。
実際に音楽を聞いた佐藤大氏は、「彼の和太鼓やバチの使い方は、(日本人の普通の使い方と違って)すごくグルーヴィ。ケチャ(※)とかバロンダンス(※)の様な響きに近づいていって、すごく不思議なサウンドを出していた。日本人のノリは、”縦ノリ”でそれが良さでもあるけれど、アメリカ人であるフライング・ロータスがそのサウンドを使ってシークエンスを作ると、ちょっとだけこう斜め右、南に下がるというか、ケチャっぽくなり、更にヴァンゲリス(※)っぽくなり(日本の楽器を使って)地球一周してる様な感じで、すごく面白かった。」と語った。
渡辺氏も「映画館で大音量で聞くと、より一層効果的にパーカッションサウンドが、刻まれていくのがわかる。『ブレードランナー ブラックアウト2022』の時は、フライング・ロータスは、シンセサイザーを持っていなかったけど、その後、猛練習してシンセサイザーを使える様になったという、練習ビデオが送られてきてたけど、それが今回生かされてるってことですね。(フライング・ロータスの)初期の音楽と今の音楽が違うのは、常に進化し続けている。色々なものを取り込んで、吸収して、変化し続けていったものが、この『YASUKE- ヤスケ -』。フライング・ロータスは、「どうしてもこのような時代劇でビートミュージックだと、『サムライ・チャンプル』(※)やヌジャベス(※)と比較されてしまうだろう、ということがわかっていたから、それらに似ないように、いかに違うものを作るか、に苦心した。」と言っていた。(音楽性が)整理されてしまって、つまらなくなってしまう人もいるけれど、フライング・ロータスは、決してそうならずに、音楽としてわかりやすくなったけど、いまだに良いサウンドを作り続けている。」
それに対し、佐藤大氏も「今回の『YASUKE- ヤスケ -』では、サウンドトラックの製作だけでなく、エグゼクティブ・プロデューサーとして、映画の企画や製作にも参加しており、”ミュージシャンが、映画そのものを作る”という日本ではあまり見られない新しい例。今回の『YASUKE -ヤスケ-』は、MAPPA(※)とフライング・ロータスの音楽やアイディアのまとめ方がとても素晴らしいバランスだった。今日冒頭で挨拶したラション・トーマス監督は、大変だったと思う。僕は、『ブーンドックス』(※)が大好きだったので、今回の『YASUKE- ヤスケ -』は、監督ラション・トーマス、音楽はフライング・ロータスがアメリカから参加し、製作は日本のアニメスタジオMAPPAというすごい組み合わせだと思った。ただ、侍のアニメと思って見たら、冒頭1秒目から「これは全く違う世界だ」と驚かされた。もちろん途中途中、史実も入ったりして、不思議な面白さがあった」とも。
単純な日米合作というだけでなく、国境や既存の枠組みを超えた新しい境地へのチャレンジが伺えた『YASUKE- ヤスケ -』。今後の彼らの動きにも要注目だ。
制作:キネマ旬報社
※ケチャ:バリ島で行われる呪術的な踊りや男声が織り成す音楽
※バロンダンス:ケチャと同じく、バリ島の伝統舞踊の一つ。
※ヴァンゲリス:ギリシャの作曲家。映画『炎のランナー』や『ブレードランナー』等多数。「ヤマハ・CS-80」や各ポリフォニックシンセサイザーでオーケストラのような厚みや広がりを得ることが得意。
※『ブレードランナー ブラックアウト2022」:渡辺信一郎が監督、フライング・ロータスがサウンドトラックを製作した日米合作短編SFアニメ。2017年製作。
※『サムライ・チャンプルー』:渡辺信一郎監督の日本のテレビアニメ。
※ヌジャベス:渡辺信一郎氏よりラブコールを受け『サムライチャンプルー」に数トラックを提供した日本の音楽プロデューサー。
※MAPPA(マッパ):『YASUKE- ヤスケ -』を製作した日本のアニメスタジオ。アニメ『進撃の巨人』なども製作。
※ブーンドックス:アメリカのテレビアニメ。『YASUKE- ヤスケ -』の監督ラション・トーマスが、キャラクター監修・演出を務めた。
Netflixオリジナルアニメシリーズ『Yasuke- ヤスケ -』Netflixにて全世界配信中
Netflixアニメ『YASUKE- ヤスケ -』のサウンドトラック『YASUKE』(FLYING LOTUS/フライング・ロータス)