人間の心の深い闇を覗き込むような感覚。衝撃の事件を描く「ファーストラヴ」
島本理生の直木賞受賞作を映画化
トイレに横たわった死体……画面が変わると、血まみれの包丁を持ったリクルートスーツ姿の女子大生が川沿いの道を歩いていく……。そんなショッキングな冒頭から始まるサスペンス・ミステリー映画「ファーストラヴ」(8月13日Blu-ray&DVDリリース)。『ナラタージュ』『Red』などの著書もある島本理生が第159回直木三十五賞を受賞した累計発行部数41万部超えの同名ベストセラー小説を、「TRICK」「20世紀少年」「SPEC」各シリーズなどの堤幸彦監督が映画化している。
主人公は、北川景子が演じる公認心理師の真壁由紀。彼女は著書執筆のため、世間を賑わせていたアナウンサー志望の女子大生・聖山環菜(芳根京子)が就職面接後に父親を殺害した事件を取材することになる。由紀は「動機はそちらで見つけてください」と供述した環菜と面会を重ねるが、環菜の話す内容は二転三転。感情の起伏も激しく、真実の見えない環菜に由紀は翻弄されるが、夫・真壁我聞(窪塚洋介)の義弟で、環菜の国選弁護人を務める庵野迦葉(中村倫也)と共に、彼女の本当の動機を探ろうとする……。環菜の過去を探るうち、彼女と共に由紀の心の奥に潜む闇も解き明かされ、それが事件の真相をも導き出していく。その展開が見事なだけでなく、様々な現代社会の問題も絡めた人間の心の深い闇を覗き込むような事件の真相と結末には心を揺さぶられるものがあり、静かな深い感動に包まれる。また、Uruが本作のために書き下した主題歌と挿入歌の美しい歌声も、感動の余韻をさらに深めてくれる。
全身全霊でぶつかり合う俳優たちの熱演
今回の映画は、原作よりも登場人物などを整理し、主人公の公認心理師の真壁由紀(北川景子)、父親を殺した女子大生の聖山環菜(芳根京子)、環菜の国選弁護人の庵野迦葉(中村倫也)、迦葉の義兄で由紀の夫の真壁(窪塚洋介)という4人を中心に描かれている。そして、それを演じた4人の俳優たちが、皆それぞれに並々ならぬ熱意をもって演じている。
特に北川と芳根が全力でぶつかり合う面会室のシーンは、本作の大きな見所の一つ。取材に訪れた由紀がガラスを挟んで環菜と対峙することになる面会室は、一方にカメラが向いている時にも、ガラスに反射したもう一方が映りこむように撮られており、二人の関係性や心情を映し出す。由紀と環菜の心の闇が同化(リンク)し、鏡のようにお互いを投影しあう様子が二人の白熱した芝居と共に表現されている。このシーンに限らず二人の芝居は圧倒的で、原作の設定にあわせてショートカットにした北川は、ぐしゃぐしゃに崩した表情も交えて心の底から溢れ出す感情を全身で表現し、芳根も激しい感情の起伏をケガも恐れない全力の動きで表現してみせている。また、焦点のあわなかった環菜の目の変化など、本作はそれぞれの役者の「目」や「視線」を特徴的に描いていることも注目すべきポイントだ。
そして由紀に深く関わる二人を演じた、一見クールに見える弁護士・迦葉役の中村、写真家で由紀を優しく支える夫・我聞役の窪塚という男優陣の好演も見逃せない。陰のある二枚目と包容力に満ちた二枚目という女性人気も高そうな役柄だが、確かな演技力を持つ中村と窪塚だからこそ、ただのイケメンでなくリアルな存在感を持って演じている。特に誰もが憧れるような理想の男を演じている窪塚は、10数年ぶりに組んだ堤監督から「何もしない」ことを厳命されたらしいが、その静かに妻や義弟を信じて見守る姿が、大人のセクシーさを醸し出している。
堤監督の演出術を垣間見ることができるメイキング
8月13日発売のブルーレイとDVDの各豪華版に収録されている特典ディスクも見所が満載。数々のメイキングを手掛けている志子田勇演出の『making of ファーストラヴ【mirrors】』では、2019年10~11月に行われた撮影現場の様子から、堤監督の演出術を垣間見ることができる。なるべく劇中の時系列に沿った撮影を行うほか、編集スタッフが同行しているため、ラフに繋いだ撮影済の映像を現場で演者に見せ、完成イメージを皆が共有しながら撮影が進められていたり、リハーサルで俳優の芝居を見た堤監督が、事前に考えていた細かなカット割のプランを捨てて、臨機応変に長回しの撮影に変更する様子などが収録されている。他にも、北川が念願だった堤組に参加できた喜びや新しい自分に出会わせてもらえた作品だったと涙で語るクランクアップの模様など、キャストや監督のコメントも随所に収録。「ファーストラヴ」がどのようにして撮られたかが、解説も交えて立体的に1本の作品として構成されている。
他にも、キャストや監督が登壇した5種類の舞台挨拶などを収録したイベント映像集や、WEB特番集なども収録。ここでも様々な形でメインキャストや堤監督が本作に込めた熱い思いや、撮影時のエピソードなどを明かしている。また、通常版にも、劇場公開時に副音声上映された、北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、堤幸彦監督の5人によるオーディオコメンタリーを音声特典として収録。撮影時の裏話や、感動のあまり泣き出す芳根の様子などが収められている。これら充実の特典は本編をより深く楽しむために役立つことはもちろんだが、キャストや監督たちが本作に深い愛情を注いだことも実感できるはずだ。
文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社
『ファーストラヴ』
●8月13日(金)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray豪華版:7,480円(税込) DVD豪華版:6,380円(税込) Blu-ray通常版:5,280円(税込) DVD通常版:4,290円(税込)
●Blu-ray豪華版・DVD豪華版 共通特典
【仕様・封入特典】
・三方背ケース
・フォトブックレット(16P)
【音声・映像特典】
[本編ディスク]
・オーディオコメンタリー(北川景子/中村倫也/芳根京子/窪塚洋介/堤幸彦監督)
・予告集
[特典ディスク]
・making of ファーストラヴ【 mirrors 】
・イベント映像集
(完成報告イベント/公開直前“除災招福”イベント/初日舞台挨拶/大ヒット御礼舞台挨拶)
・WEB特番集
(映画『ファーストラヴ』徹底解説/映画『ファーストラヴ』スペシャル座談会【Part.1/Part.2】)
・ミュージックビデオ集
(主題歌「ファーストラヴ」映画特別映像ShortVer./挿入歌「無機質」本編クリップ)
※オーディオコメンタリーは劇場公開時、副音声として上映したものと同じです
※特典ディスクはDVDとなります
●Blu-ray通常版・DVD通常版 共通特典
【音声・映像特典】
・オーディオコメンタリー(北川景子/中村倫也/芳根京子/窪塚洋介/堤幸彦監督)
・予告集
※オーディオコメンタリーは劇場公開時、副音声として上映したものと同じです
●2021年/日本/本編119分
●監督:堤幸彦 出演:北川景子、中村倫也、芳根京子、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃、窪塚洋介
●発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2021『ファーストラヴ』製作委員会