タブー視されがちな障がい者の性にも踏み込んだ作品「37セカンズ」

タブー視されがちな障がい者の性にも踏み込んだ作品「37セカンズ」

新型コロナウイルスの感染拡大によって、劇場公開が見送られたり、公開したものの思うように観客動員できずに沈んでしまった映画は少なくない。2020年2月に劇場公開が始まった「37セカンズ」もコロナ禍の影響を受けたものの、強い生命力を宿していた。口コミで話題が広まり、ネットフリックスによる世界配信もあり、広く愛される作品へと育った。(現在Blu-ray&DVDリリース中)

障がいを持つ主人公が繰り広げる刺激に満ちた冒険

23歳になるユマ(佳山明)は、生まれてくる時に37秒間息ができなかったために足に障がいが残り、車椅子が欠かせない生活を送っている。シングルマザーである恭子(神野三鈴)から深い愛情を注がれているが、いつまでも子ども扱いされていることがユマには我慢できない。娘を愛するがゆえに毒親となる恭子、本音を口にできないユマ、ドメスティックな母娘関係を描いた冒頭のシークエンスから、引き込まれていく。

ユマは妄想力を活かした創作漫画が得意だ。エロ漫画誌の編集部に自作の漫画を売り込みに行くが、編集長(板谷由夏)からは「リアルさに欠けるのよね」と厳しい評価を下されてしまう。「(セックス)経験したら、また連絡して」と編集長に言われ、ユマの刺激たっぷりな冒険が始まる。

障がい者の性問題はタブー視されがちであり、女性障がい者の性に踏み込んだ作品は非常に珍しい。米国在住のHIKARI監督にとって、本作は長篇デビュー作。ユマと同じ障がいを持つ佳山をオーディションで選び、生々しい大人の世界に足を踏み入れる姿をドキュメンタリーさながらの臨場感で映し出している。

主演の佳山はまったくの新人ながら、HIKARI監督の演出に応え、果敢な演技に挑んでみせた。佳山自身にとっても、本作への出演は大冒険だったに違いない。佳山は熱演ぶりを評価され、毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞。HIKARI監督も新藤兼人賞金賞に選ばれるなど、多くの映画賞に輝いた。

ユマの冒険の先に見えたもの

冒険の数々によって、ユマはさまざまな人たちと出会い、幼い頃に離れ離れになった双子の姉・由香(芋生悠)の存在を知る。父親に引き取られた由香は、障がいを持たずに成長していた。もしも自分が先に生まれていたら、もしも自分が父親と一緒だったら……。もうひとつの異なる人生を夢想するユマだったが、現実の世界に触れたことで、ユマの想像力は以前よりも地に足の着いたものとなる。ユマが冒険によって見た現実世界は、ユマの想像よりもずっとシビアで、そしてずっと美しく輝いていた。

ユマの冒険はやがて終わりを迎える。ユマと恭子との生活は、これからも苦労の連続だろう。でも順撮りで撮影された本作の最後に見せる主人公の明るい表情は、周囲にも大きな変化をもたらすことになる。この母娘の関係性は、これまでよりもずっと開かれたものになるに違いない。

文=長野辰次/制作=キネマ旬報社

「37セカンズ

●Blu-ray&DVDリリース中
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:¥5,280(税込)DVD:¥4,180(税込)
●2020年/日本/カラー/本編115分
●監督・脚本:HIKARI
●出演:佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、芋生悠、渋川清彦、宇野祥平、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり、板谷由夏
●発売元:ラビットハウス・ノックオンウッド 販売元:ポニーキャニオン
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