映画脚本の登竜門!第47回城戸賞発表

 1974年12月1日、「映画の日」に制定された城戸賞が今年、47回目を迎えた。映画製作者として永年にわたり日本映画界の興隆に寄与し、数多くの映画芸術家、技術家等の育成に努めた故・城戸四郎氏の「これからの日本映画の振興には、脚本の受けもつ責任が極めて大きい」との持論に基づき、新しい人材を発掘し、その創作活動を奨励することを目的とした本賞。これまでも「のぼうの城」(11)、「超高速!参勤交代」(14)など受賞作が映画化され大ヒットした例もあることから、本賞への注目度は映画界の中でも圧倒的に高い。ただ、それだけに入選のハードルも高く、今年も7年連続「入選作」が選ばれなかったという現実も。また、昨年に引き続き、コロナ禍で人々の生活が一変するなか、その影響もあってか、選考対象作品は昨年の406篇より少々減少、337篇となったことも、記録に留めておきたい。その中から10篇が最終審査に進み、準入賞を果たしたのは一戸慶乃氏の「寄生虫と残り3分の恋」と生方美久氏の「グレー」の二作品、昨年、「御命頂戴!」で準入賞を果たした島田悠子氏の「薄氷(うすらい)」は佳作を受賞した。準入賞二作品の全篇を別項で紹介するとともに、最終審査に残った10篇の総評と受賞作品の各選評を掲載する。

右から準入賞を果たした一戸慶乃氏、生方美久氏、佳作を受賞した島田悠子氏

選考対象脚本 337篇

日本映画製作者連盟会員会社選考委員の審査による第一次・第二次・予備審査を経て、以下10篇が候補作品として最終審査に残った。

「吉原狂花酔月」 渡辺健太郎 

「ユスティティアの姉妹」 柏谷周希 

「スノーブランド」 菊地勝利 

「寄生虫と残り3分の恋」 一戸慶乃 

「劇団クソババア」 竹上雄介 

「薄氷」 島田悠子 

「グレー」 生方美久 

「FIN」 森野マッシュ

「パパ友はターゲット」 岡本靖正 

「4万Hzの恋人」 キイダタオ

 

受賞作品

入選 該当作無し

準入賞「寄生虫と残り3分の恋」一戸慶乃

準入賞「グレー」生方美久

佳作「薄氷(うすらい)」 島田悠子

 

第47回城戸賞審査委員

島谷能成(城戸賞運営委員会委員長)

岡田惠和

井上由美子

手塚昌明

朝原雄三

富山省吾

臼井 央

明智惠子

会員会社選考委員

(順不同 敬称略)

 

準入賞者のプロフィール&コメント

準入賞者:一戸慶乃(いちのへ・よしの)

プロフィール
高校を卒業後、演劇専門学校に入学し、卒業。その後、一般企業で派遣社員として勤めながら、舞台やテレビの企画・制作を学ぶため吉本クリエイティブカレッジに入学。その授業の一環として、学生舞台の脚本を手掛けたことをきっかけにシナリオ執筆をスタート。伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2020にて、奨励賞を受賞。

受賞によせて

この「寄生虫と残り3分の恋」は、ふたつの恋の終わりと、ひとつの友情の芽生えを描いた作品です。主人公たちが未来で振り返ったとき、カップ麺が出来上がるまでの3分間くらいあっという間だったけれど、あの日々があったから僕は、私はこうして前に進めているんだと思えるような日々を描きました。恋愛をした先にある、おまけのようなほんの少しの時間だったとしても、きっと必要な日々だったと思えるような瞬間を。

この物語は、始まりも終わりもハッピーなシーンとは言えません。ですが、もしかしたら向かいのアパートに住んでいるのかも? と思えるような、彼らの飾らない会話を楽しんでいただけたらと思います。また、平気なふりをしながらも、時に気持ちが溢れ出しながらも、愛おしい日々と愛おしい人とのさよならを、歯を食いしばって決断していく彼らに、何か感じていただけるものがありますと幸いです。

第47回城戸賞にて、準入賞という貴重な賞をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本作にはまだまだ至らぬ点が多くありますし、課題もたくさん見つかりました。改めて身を引き締め、これからも新しい作品を作っていこうと思います。

準入賞者:生方美久(うぶかた・みく)

プロフィール
群馬大学医学部保健学科で看護学を選考、卒業後は大学病院に入職、3年間の勤務ののち、シネマテークたかさきに職を求め、現在はそこを経てクリニックに勤務。伊参スタジオ映画祭シナリオコンクール2019、2020奨励賞を受賞。第46回城戸賞で佳作を受賞する。

受賞によせて
春が桃に、桃が春に救われたように、私自身、書きながら彼らに救われていました。白黒はっきりしていないと、頑張らないと、評価をもらわないと……と思い込んでいた自分のために書いたような気もします。

会話を書くのが好きです。ワードに登場人物の名前と「」を打ち込むと、しゃべらせたいセリフが溢れます。でも、それが作品を通して伝えたい想いの邪魔をしてしまう気がして、セリフ量を控えたものをまず書きました。しかし、できたものを読み返して思ったのは、「誰でも書けるものになった」。自分の好きなように好きなものが書けるのが素人の特権です。狙うのやめよ! 好きに書こ! と、大好きな会話を増やしました。よし、これで評価されなかったら、そのときはそのとき。私が書くものはこれ。私に書けるものはこれ。と思い、応募しました。

結果として入選には届きませんでしたが、賞がいただけたということは、誰かの心には届くものになっているはずです。

これは映画脚本です。映画にするために書いた脚本です。私には、頭の中にある映像を文字に起こす力しかありません。脚本を映画にする力を持っている偉い人たち! 力を貸して下さい!

選者

富山省吾(日本映画大学理事長)

臼井 央(東宝株式会社 映像本部映画企画部長)

総評

■島谷映連新会長のご発声で前岡田会長への黙祷を捧げた後、選考会を始めました。結果として今回も入選作品を選び出せず、第40回(2014)から7回続けて入選作のない城戸賞となりました。近来の傾向として身近なモチーフや個人的視点からの自分発見や成長物語が数多く見られます。脚本家登竜門である城戸賞の題材として相応しいと思われますが、希望としてそこに社会への主張を加えて欲しい。そして応募作のジャンルとしての時代劇。こちらは時代を借りて自由に描く創作時代劇、あるいは空想時代劇と呼べるものが多く、本来の時代の束縛や限界を題材とする時代劇は見られません。オリジナル脚本ならではの今日的課題の発見と、時代と社会への強い主張。この二つを娯楽映画に仕立てることで観客にアピールする脚本、例えばダイオキシン・PCB・産廃処理を物語の発端とし、加熱マスコミ報道の視点を盛り込んで誘拐捜査を描いた第21回「誘拐」のような腹に響く社会ドラマを待望します。(富山)

■城戸賞の審査に携わるのは数年ぶりになります。最終の10本のみ拝読させてもらいましたが、時代劇、コメディ、ラブストーリー、法廷ドラマ、青春ドラマなど様々なジャンル、切り口での作品群と出会えました。相対評価するのは中々に難しい作業でしたが、力作揃いだったと思います。キャラクター、構成、セリフ、オリジナリティなど脚本を評価するにあたって要素を分けて分析をすることがありますが、キャラクターに好感が持てる作品、構成が上手くいっている作品、セリフにリアリティを感じる作品はあれど、オリジナリティが突き抜けていた作品には出会えなかったという印象でした。日々映画企画に向き合って凝り固まってしまっている我々が、「新しい」と感じる脚本に出会えるのを来年以降もお待ちしています。(臼井)

受賞作品選評

選評

準入賞「寄生虫と残り3分の恋」(受賞作全文はこちらからお読みいただけます)

桜介と同棲して怠惰に暮らす奈留が別れ話を告げられる。そこに現れる桜介の同僚の岩瀬。自己欺瞞・モラトリアムなどから覚醒する三人三様をLGBTを絡ませて描く。「なぜ奈留は寄生虫になったのか」をわからせて欲しかった。(富山)

特異な設定や大事件は無いが、両親の離婚話が出てきた頃から展開が読めなくなり、キャラクターのリアリティや葛藤に没入。引っ越しの日に再会したメイン3人のシーンにはグッときた。物語全体の完成度も他に比して高かった。(臼井)

準入賞「グレー」(受賞作全文はこちらからお読みいただけます)

春26才と桃17才。ダンスとピアノ。トランスジェンダーとパニック障害。二つの出会いが生む物語。ピアノとダンスのデュオシーンがクライマックスのはずだがシーンの描き方が淡泊で残念極まりない。昨年の佳作から進境見える。(富山)

メイン2人のリアリティは積み上げられていたが、今触れることが多くなってきたジェンダー題材の中で、強いオリジナリティは欲しくなる。共にグレーの衣装に身を包んだ春のラストダンス、桃のラストプレイはとても映画的で印象に残った。(臼井)

佳作「薄氷」

時代劇に拘る作者の姿勢に好感し、ミステリーとして評価する声複数。但し昨年度準入賞「御命頂戴!」との比較ではストーリーが一筋で物足りないとの意見も。人物キャラクターや会話がアニメ的なのは功罪相半ば。(富山)

5人の跡取り問題、誰の策略か、という仕掛けは面白い。最終的に真犯人の心の闇に主人公が影響しないまま終幕するのが惜しい。この作品ならではの主人公像がもっと掘れていればより高い評価になったのではないか。(臼井)

最終選考作品選評

「吉原狂花酔月」 

吉原大火事を生き残った双子の姉妹。一人は用心棒となって吉原に舞い戻リ、妹を捜す。ポップでエグいという高評価の一方、主人公が魅力不足、推敲足りない、テーマが響かないとの声。(富山)

「ユスティティアの姉妹」

リーガルミステリー。裁判官・検事・弁護士を対比して見せるディテールが評価される一方、犯行動機にリアリティ感じない、読み物として知ること多かったが映画で見る意味を見付けられなかったという意見も。(富山)

「スノーブランド」

競走馬の復活に賭ける人々。解らないこと多いが応援したくなる話という評価に対し、王道過ぎて惹かれない、もっとレース内容を見たい、ワンアイデアではこの話はもたない、研究不足の声。(富山)

「劇団クソババア」

とにかく主人公・妙子のキャラが抜群。既視感あるようにも思うし、評価がはっきりと割れたが、セリフが面白くテンポも良かった。(臼井)

「FIN」

新スポーツで世界に羽ばたく少女。一人よがりだが読後感良い、表現が明確で映画として観たい、に対して肝心の水中表現が足りない、読んでいて男女の違いが不明、メッセージが伝わって来ない。(富山)

「パパ友はターゲット」

フィクション設定とリアルとの整合性には甘さがあるものの、有りそうで無かった主人公のキャラクター設定は良いアイデア。展開もキャラクターに紐づくもので面白く、最後まで読ませた。(臼井)

「4万Hzの恋」

声の出ない主人公につきものだが、モノローグの応酬のような時間が続いて中だるみするものの、この設定にしか作れない出会いのシーンは名シーンになり得る。(臼井)