日本でも原爆開発の事実があった。柳楽優弥、有村架純、三浦春馬が「太陽の子」に込めた思い
被爆国の日本が、戦争で原子爆弾を初めて使う側になっていたかもしれなかった……。そんな太平洋戦争末期の日本の原爆開発の史実を基に、その研究に没頭する若き科学者、彼の弟の軍人、兄弟の幼馴染女性の3人を中心に、時代に翻弄された若者たちの等身大の姿を描いた青春群像「映画 太陽の子」。そのBlu-ray&DVDが1月7日にリリースされる。
日本でも研究されていた原爆開発の事実
太平洋戦争末期、日本の原爆開発は「F研究」と呼ばれており、脚本・監督を務めた黒崎博は、この研究に従事した若き科学者の日記の断片を偶然に目にしたことから、10年以上今回の企画を温め続けた。その日記には大きな任務に携わる傍らで、日々の食事や恋愛など等身大の学生の日常が書き記されていたそうで、実在の人物および事実をリサーチした上で、それらを基にフィクションとして本作の物語を書き上げたという。
1945年の夏、京都帝国大学・物理学研究室の大学院生である若き科学者・石村修(柳楽優弥)と研究員たちは、軍の密命を受けて原子核爆弾の研究開発を進めていた。その頃、幼馴染の朝倉世津(有村架純)が、建物疎開で家を失ったため、修の家に居候することに。時を同じくして、修の弟・裕之(三浦春馬)が、戦地から一時帰郷。3人は久しぶりの再会を喜び、ひと時の幸せな時間を過ごす。しかし、裕之は戦地で深い心の傷を負っており、物理学に魅了されて研究に没頭する修も、その裏にある破壊の恐ろしさに葛藤を抱えていた。裕之が再び戦地に赴く中、修と研究チームは開発を急ぐが、運命の8月6日、広島への原爆投下の日が訪れてしまう……。
科学者の葛藤と狂気
研究に没頭する主人公の科学者・石村修を演じるのは柳楽優弥。修の弟で戦地に向かう志願兵の石村裕之を三浦春馬。その幼馴染の二人を包み込む朝倉世津を有村架純がそれぞれ演じている。
修と研究チームの科学者たちは、原子核爆弾の開発が日本を救うためのものであると信じながらも、大量殺戮兵器であるということも認識はしている。科学者が兵器開発に関わること、研究のために兵役を免れていることなど、それぞれが個々に異なる葛藤や苦悩を抱えながら研究に参加していたことが丁寧に描かれる。現実的には物資の不足していた当時の日本では難しかったのかもしれないが、もしも開発に成功していたらと思うと恐ろしい。そんな科学者の葛藤を描く一方、純粋に未知のものを作りたいという科学者としての本能や興味につき動かされ、兵器研究に没頭していく主人公・修の姿は、狂気的にも映る。非常に複雑なこの人物を、柳楽は朴訥そうな中にも情熱と信念を持つ人物として力強く演じている。
修の弟・裕之を演じた三浦は、普段は気丈に明るく振舞いながらも、実は戦地で負った深い心の傷を抱えた特攻隊員役を繊細に表現。国や家族を守るため、先に逝った戦友たちのように闘い抜きたいと思いながらも、死への恐怖と生き残ってしまった苦悩の間で苛まれている。三浦ならではの豊かな表現力で、兄と世津にだけ見せる笑顔や弱さは見る者の心に深い印象を残す。母や兄に見送られながら二度と帰れない戦地に向かう後ろ姿には、様々な思いがこみ上げてしまう。
修と裕之がほのかに想いを寄せる幼馴染の世津は、母とはまた違った立場で二人を包み込む存在。ただ一人、戦争が終わった後の世界を見据えている希望のような存在でもある。有村はそんな世津役を柔らかさと芯の強さの双方を醸し出して見事に表現。柳楽、三浦、有村の3人が、強い責任感や使命感を持ち、この作品に並々ならぬ思いで取り組んでいたことは、豪華版のDVDとブルーレイに収録された各種の映像特典で見ることができる。
語り継ぐべき戦争体験
さらに、修と裕之の母・フミ役に田中裕子、実在した日本の原子物理学の第一人者・荒勝文策役に國村隼、若き研究者たちに尾上寛之、渡辺大知、葉山将之、奥野瑛太がそれぞれ扮するほか、イッセー尾形、山本晋也、三浦誠己、宇野祥平、土居志央梨らも共演。ベテラン俳優から若手俳優まで、芝居の上手いキャストが揃っている。監督・脚本の黒崎博は、連続テレビ小説『ひよっこ』(17)や大河ドラマ『青天を衝け』(21)の演出のほか、ドラマ『帽子』(08)『火の魚』(09)の演出でも高い評価を受けており、自ら書き上げた今回の脚本でサンダンス・インスティチュート/NHK賞2015でスペシャル・メンション賞(特別賞)を受賞。声の出演のピーター・ストーメアのほか、音楽のニコ・ミューリーなど、海外の一流スタッフが参加した日米合作映画でもある。なお、本作は研究過程や結末の描写が違うテレビ版も存在。映画とは視点を変えて短くまとめられたパイロット版的な約80分の作品だが、こちらも2020年8月度のギャラクシー賞月間賞を受賞する高評価を受けた。
戦時中にもあった日常や青春を描きながら、原爆の被害者である日本がもしかしたら加害者になっていたかもしれないという知られざる事実と、その兵器開発競争に従事した科学者の葛藤、そして愛する者が奪われる戦争の過酷さなどを描いた本作。等身大の若者たちを描くことで、わずか80年近く年前まで日本が戦争の当事者だった現実を身近に感じさせる。戦争体験者がいなくなりつつある現在、語り継ぐべき貴重な戦争映画の一つといえる。
柳楽、有村、三浦らの込めた思いの深さが伝わる映像特典
セル版DVDとブルーレイの各豪華版には、メイキング、イベント映像集(完成披露試写会、初日舞台挨拶)、劇場公開時の本編後に上映されたメイキング映像、長崎出身の福山雅治による主題歌『彼方で』を使ったInspire Movieなどの映像特典を収録。
2019年8月下旬~10月下旬まで行われた撮影の様子が収められたメイキングでは、柳楽、有村、三浦らが撮影中の思いを語っているほか、三浦が世津の祖父役の山本晋也と日本酒について語り合うような撮影合間の素顔も収録。修、裕之、世津の三人が本音の気持ちを共有しあう海辺のシーンでは、一発本番の緊張感の中で鬼気迫る熱演を見せるキャスト3人の姿が特に印象深い。しばらく役が抜けきれない様子の三浦の様子には、このシーンに込めた思いの深さが感じとれる。さらに、柳楽たち研究者役のキャストたちが撮影前に物理学の講義を受けている姿や、柳楽が原爆資料館を訪れた様子なども収められており、皆が真摯な姿勢で本作に取り組んでいたことがわかる。また、イベント映像集では、柳楽、有村、黒崎監督らが自らの本作に込めた様々な思いと共に三浦への思いを語っていることも興味深い。
文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社
「映画 太陽の子」
●1月7日(金)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray豪華版:7,480円(税込) DVD豪華版:6,380円(税込)
●特典(Blu-ray豪華版、DVD豪華版共通)
【仕様・封入特典】
・三方背ケース
・ブックレット(20P)
【映像特典】※特典ディスクはDVDとなります
・メイキング
・イベント映像集
・劇場公開時 本編後付けメイキング映像
・『映画 太陽の子』×福山雅治「彼方で」Inspire Movie
・予告集
●Blu-ray通常版:5,280円(税込) DVD通常版:4,290円(税込)
●特典(Blu-ray通常版、DVD通常版共通)
【映像特典】
・予告集
●2021年/日本・アメリカ/本編111分
●監督・脚本:黒崎博
●出演:柳楽優弥、有村架純、三浦春馬、イッセー尾形、山本晋也、ピーター・ストーメア、國村隼、田中裕子
●発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ