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「映画が1時間半であるべきだなんて誰が言ったんだ?! そんなものは“ファッ〇・オフ!”だ!」――タル・ベーラ監督インタビュー

「映画が1時間半であるべきだなんて誰が言ったんだ?! そんなものは“ファッ〇・オフ!”だ!」―タル・ベーラ監督インタビュー

タル・ベーラ監督

ニーチェの馬』(2011年)で映画監督からの引退を表明しながらも、いまだ世界中からリスペクトされ続けるハンガリーの巨匠、タル・ベーラ監督(64歳)。1994年に手がけた伝説の作品『サタンタンゴ』(4Kデジタル・レストア版)公開に併せて、8年ぶりに来日を果たした。7時間18分、驚異的な長回しで描かれるモノクロ―ムの世界は、25年の時を経てなお、鮮烈な光で現代を射る。

「キネマ旬報」(11月上旬号)ではそんな彼に単独インタビューを敢行。悪魔的な引力で我々を惹きつけてやまない監督は、救世主なのか、それとも―?

取材・文:中村千晶

サタンタンゴ』が7時間18分あるのは、つまり人生と同じだからだ

映画『サタンタンゴ』

―『サタンタンゴ』は25年の間、世界中で上映され、受け入れられていますね。

奇妙なことだが、国、宗教、言語―あらゆる違いを持つ人々に、この作品は同じように受け入れられている。理由はわからない。ただ、この作品から根本的な「何か」を感じてもらっているのもしれない。この作品で描こうとしたのは、人間の存在や人間の関係についての本質的な問いかけだ。25歳になるこの“クソみたいな(Shit)”作品を、みなさんが受け入れてくれることが嬉しいよ。

―監督はご自身を“ワーカー=労働者”だとおっしゃっています。その意味は?

そう、私はアーティストではなく“パブリック・ワーカー”だ。収益のためではなく、人々のために行動する労働者で、自分が見ているものを人と分かち合うべきだと考えている。作品を作るときには、人間の存在やこの世界がいかに複雑であるか、その全体像をできるだけ見せたい。そのためには時間や自然、空間をそのままに捉える必要がある。雨が降ろうと、道がぬかるもうと、ある地点からある地点へ行くためには、人間は歩き続けなければならない。人生も同じだ。結果、7時間18分の作品になったんだ。映画が1時間半であるべきだなどと誰が言ったんだ?! そんなものは“ファッ〇・オフ!”だね。

私は常に役者を信頼し、自由にしてもらっている

◎シアター・イメージフォーラムほか全国にて公開中

―中盤の山場となる酒場でのダンスシーンですが、あの振り付けはどうしたのですか?

彼らには実際にお酒を飲んでもらったんだ。彼らは完璧に酔っぱらいに近い状態になり、それで十分だった。ワンテイクで撮れて自分でもびっくりしたよ。唯一、セリフがあったのはイリミアーシュの演説シーンだ。ほかはその状況に身を置いた人々から、自然に立ち上がってきたものを撮った。私は常に役者を信頼し、自由にしてもらっているんだ。

―今回、初めて4Kデジタルリマスター版に挑戦されましたね。

全て一コマ一コマ、自分でグレーティングをチェックした結果、かなりフィルムに近いベストなものが出来たと思う。でもやっぱり私は35ミリのフィルムが好きだ。私はデジタルの登場以来、誰かがそれを活用した新たな言語を生み出してくれるだろうと信じていた。ナム・ジュン・パイク(註)の作品に出合ったときは「ああ! 新しい言語だ」と希望を感じた。しかし、いまの多くのデジタル作品は“フェイクのフィルム作品”を撮っているように感じる。

監督業からの引退は覆らない?

―『ニーチェの馬』で監督業を引退されました。もう決心は覆らない?

理解してもらいたいのだが、私は22歳からもう40年近く映画を作ってきた。1作ごとに新しい問いが生まれ、より深く掘り下げ、自分の“映画言語”を見つけることができた。『倫敦から来た男』(2007年)の撮影時に「あと1本にしよう」と考えて、それが『ニーチェの馬』になったんだ。

なぜかといえば、言いたいことはすべて言い尽くしたから。自らをコピーしてそれを繰り返す理由はない。そうやって創作を続ける人もいるだろうが、私にはできない。自分自身が退屈してしまうのを見たくなかったんだ。監督としてゴージャスなホテルに泊まったり、レッドカーペットを歩いたりすることにも興味がないしね。

監督は辞めたけれど、クリエイティビティを諦めたわけじゃない。映画学校で若い世代を育てているし、彼らを「毒」しようとしてるよ(笑)。アムステルダムやウィーンで大がかりなエキシビションも行った。ただ、物語性のある創作は終わったんだ。

―後進の育成に力を入れていらっしゃいます。教え子たちに、一番に伝えていることはありますか。

大事なことは“自分自身がありのままであること”だ。私は“教える”のではなく、そのためにみんなを“開放”しようとしている。彼らには自分自身のスタイル、自分の道を見つけてほしい。そして勇敢であってほしい。他者の模倣をすることなどクソだからね。

 

全体に穏やかトーンながら、ときより放送禁止用語も交え(!)過激な創作者としての一面ものぞかせてくれたタル監督。

「キネマ旬報」11月上旬号(10月20日発売)では、本インタビューの全長版を掲載。『サタンタンゴ』の話題をはじめ、映画を志した理由や創作の源、さらには世界中で活躍する“教え子”たちへの思いも語る。そちらもぜひチェックしてほしい。

 

 

タル・ベーラ/Tarr Bela
1955年生まれ、ハンガリー、ペーチ出身。ブダペストの映画芸術アカデミーで学ぶ。大作『サタンタンゴ』(1994年)でベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞を受賞。以後、『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000年)、『倫敦から来た男』(2007年)、『ニーチェの馬』(2011年)など、圧倒的なビジョンで世界中の映画作家や批評家、観客を魅了し続ける、ヨーロッパ屈指の異才。『ニーチェの馬』を最後に映画監督からの引退を表明、現在は世界各国で映画づくりをめぐる講義を行うなど、後進の育成に力を注いでいる。

サタンタンゴ(Satantango)
1994年・ハンガリー=ドイツ=スイス・7時間18分 監・脚:タル・ベーラ 共同監督:フラニツキー・アーグネシュ 原・脚:クラスナホルカイ・ラースロー 撮:メドヴィジ・ガーボル 音:ヴィーグ・ミハーイ 出:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ、ペーター・ベルリング 配:ビターズ・エンド
◎シアター・イメージフォーラムほか全国にて公開中。

(註)ナム・ジュン・パイク…1932年韓国生まれの現代芸術家。1960年代からアメリカの前衛芸術運動「フルクサス」に参加するなど多彩に活動。新しいメディア、テクノロジーを用いた表現を模索し、「ビデオアートの父」として名高い。2006年没。

制作:キネマ旬報社

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