歴史に翻弄された「中国残留孤児」とその家族が辿る運命、互いを思う気持ちを、2005年秋の奈良・御所市を舞台に切なくもユーモア豊かに紡いだ映画「再会の奈良」が、日中国交正常化50周年の節目となる2022年に日本公開される。2月4日(金)の全国封切りに先駆けて上映中の奈良では、1月29日(土)にシネマサンシャイン大和郡山で舞台挨拶が行われ、エグゼクティブプロデューサーを務めた映画監督の河瀨直美が登壇。製作の背景や作品への想いを語った。
なら国際映画祭発のプロジェクト
河瀨直美(以下:河瀨)は登壇するや「このご時世の中、足をお運び頂きありがとうございます。最後のテレサ・テンさんの歌にも込められているように、別れながらも同じ道や未来を歩んでいくんだというポンフェイ監督のメッセージや想いを改めて感じました」と会場の客席に向かって感謝を述べた。
「なら国際映画祭で『再会の奈良』が観客賞を受賞したことでポンフェイ監督に就任が決まり、プロジェクトが始まりました。中国と日本の懸け橋になりたいという彼の想いがこの作品には込められていたと思います。30代のポンフェイ監督が奈良県御所市で、沢山の方々の支援によってこの作品を作れたことは、なら国際映画祭としても感無量です。奈良がこんなにも美しく、温かい人々がいる街なんだということが世界に発信されたのではないかと思っています」と挨拶すると、鑑賞後の会場からは大きな拍手が贈られた。
中国のジャ・ジャンクー監督とともにエグゼクティブプロデューサーとして本作に関わったことについて、河瀨は「古くから付き合いがありますが、ジャ・ジャンクー自身も中国国内で小さな映画祭を企画していて、若い監督にチャンスを与える活動をしています。若い監督が映画を作ることやお金を集めることは、とても困難なことです。わたし自身もなら国際映画祭で、将来の映画文化を担う若手育成の取り組みをしていたので、いつか一緒に誰かをプロデュースしたいねと話していました。そうした時にポンフェイ監督が本作で観客賞を受けたことがきっかけで、NARAtive の監督に就任した時、すぐにジャ・ジャンクーに連絡をしました。本作は、ジャ・ジャンクーが中国で資金を集め、日本では私が資金集めをしました。彼はライバルでもあり、親しい友人でもあります」
印象的なエピソードを聞かれた際に、河瀨が、ポンフェイ監督が本作でサプライズ出演していることを明かすと、上映後の会場からは驚きの声があがった。「あのシーンって実は、中国人同士がやりとりしているシーンなんです! 言葉を必要 としないでユーモアのある撮影ができる。それがポンフェイなんです! だから、ある時期から一切撮影には口出しをしないようにしました。私は、國村隼さんのキャスティングをしたり、永瀬くんにも友情出演してもらったりとプロデュース 業に専念させて頂きました」と述べた。
日中国交正常化50周年に届ける
この日、撮影場所にもなった御所市から沢山のお客様が来場されている中、河瀨は「日中国交正常化50周年という節目に残留孤児について描くのはとても繊細なことで、ポンフェイ監督と、奈良に住んでいる残留孤児の方々にたくさん取材しました。少し難しいと感じてしまうテーマですが、歴史的背景をポップなアニメで表現するなど、優れた素晴らしい表現をしてくれました」
NARAtive の次回作について聞かれた河瀨は 「次回は川上村です!」と発表すると客席からは大きな拍手が上がった。「初めて学生部門から20代の監督が決まりました。林業が盛んな山村地域ですが、日本の林業が衰退していく中で、未来へ繋げたい、続けていきたいという切実な想いが込められています」と意気込みを語る。
さらにこの日、ポンフェイ監督からビデオメッセージもあり、メッセージを受けた河瀨は「コロナ禍の時代に生きたみんなと共に、次の人たちに大事なことを渡していきたい。日中国交正常化50年の節目にこの作品を皆様に届けられることは、意味のあることだなと思います」と熱く語り舞台挨拶を締めくくった。
河瀨直美(かわせ なおみ)プロフィール 映画作家。生まれ育った奈良を拠点に映画を創り続ける。一貫した「リアリティ」の追求による作品創りは、カンヌ映画祭をはじめ国内外で高い評価を受ける。代表作は「萌の朱雀」「殯の森」「2つ目の窓」「あん」「光」など。2020年度公開作品「朝が来る」は、第73回カンヌ映画祭公式セレクション、第93回米アカデミー賞国際長編映画賞候補日本代表。第44回日本アカデミー賞7部門優秀賞受賞。DJ、執筆、出演、プロデューサーなど表現活動の場を広げながらも故郷奈良にて「なら国際映画祭」を立ち上げ、後進の育成にも力を入れる。東京2020オリンピック競技大会公式映画総監督、2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサー兼シニアアドバイザー、バスケットボール女子日本リーグ会長、国連教育科学文化機関(ユネスコ)親善大使を務める。プライベートでは野菜やお米も作る一児の母。 |
「再会の奈良」
出演:國村隼、ウー・イエンシュー、イン・ズー、秋山真太郎、永瀬正敏
脚本・監督:ポンフェイ
エグゼクティブプロデューサー:河瀨直美、ジャ・ジャンクー
撮影:リャオ・ペンロン
音楽:鈴木慶一
編集:チェン・ボーウェン
照明:斎藤徹
録音:森英司
美術:塩川節子
共同製作:21インコーポレーション
製作:© 2020 “再会の奈良” Beijing Hengye Herdsman Pictures Co., Ltd, Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)
後援:奈良県御所市
配給:ミモザフィルムズ
中国、日本/2020/99分/カラー/日本語・中国語/DCP/1:1.85/Dolby 5.1
英題:Tracing Her Shadow
中題:又見奈良
【公式サイト】http://saikainonara.com