アラブ楽曲の映像解禁! 紛争の痛みを見つめた名匠ロージの新作

 「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」でベルリン国際映画祭金熊賞を、「海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島~」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、両映画祭をドキュメンタリー映画で初めて制する偉業を成し遂げた名匠ジャンフランコ・ロージ監督。その最新作にして第77回ヴェネチア国際映画祭で3冠(ユニセフ賞/ヤング・シネマ賞 最優秀イタリア映画賞/ソッリーゾ・ディベルソ賞 最優秀イタリア映画賞)に輝いた「国境の夜想曲」が、2月11日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開される。

 

 


 本作は3年以上の歳月をかけて、イラク、クルディスタン、シリア、レバノンの国境地帯で撮影された。そこは2001年の9.11アメリカ同時多発テロ、2010年のアラブの春に始まり、2021年8月のアメリカのアフガニスタン撤退に至るまでの世界情勢と地続きで、侵略、圧政、テロリズムが数多くの悲劇を生んできた。そんな痛みに満ちた地をロージ監督は通訳を伴わずにひとりで訪れ、残された者たちの声に耳を傾け続ける。

「我が祖国」が流れる本編映像が解禁

©︎ 21 UNO FILM / STEMAL ENTERTAINMENT / LES FILMS D’ICI / ARTE FRANCE CINÉMA / Notturno NATION FILMS GмвH / MIZZI STOCK ENTERTAINMENT GвR

 アラブで歌い継がれる楽曲で、本作ではエンドロールと本編の途中で印象的に流れる「我が祖国(Mawtini)」。作詞を手掛けたイブラヒム・トゥーカンはパレスチナの著名な詩人で、作曲のムハンマド・フリーフィルはレバノンの作曲家であり、現在のシリア国歌の作曲も手掛けている。

 「我が祖国」は1934年にパレスチナで詩が書かれ、パレスチナ民族解放の象徴のように語られてきた。パレスチナはその後いくつかの曲が国歌として制定されたが、人々は「我が祖国」を愛唱し続け、パレスチナの実質的国歌ともいわれている。また、イラクでも1924年にイギリス人将校が作曲した国歌に始まり、いくつもの曲が国歌とされてきたが、2004年のサダム・フセイン政権崩壊後は連合国暫定当局代表が「我が祖国」を国歌と定め、現在に至る(法的な根拠はないとされる)。サッカーのワールドカップなどでも、イラク国歌として選手たちが「我が祖国」を歌っている。さらにシリアとアルジェリアでも、パレスチナを支持するために国歌に準じるものとして扱われていた。アラブ全域で高い人気を誇り、数多くのミュージシャンがカバー、Youtubeで「Mawtini」と曲名を検索すればカバーアーティストと再生回数の多さは一目瞭然だ。本作ではヨルダンの歌唱コンテストで優勝したSaja Al-Maghasbaという女性ミュージシャンが2012年に発表したカバーバージョンを使用している。

 

「♪♪我が祖国よ 栄光と美しさ、崇高さと壮麗さ それがあなた(祖国)の丘にある 生命と解放、歓喜と希望 それがあなたの空にある」「私たちは決して望まない 永遠に続く屈辱も みすぼらしい人生も だから取り戻す」

 

 ロージ監督は、政治風刺劇が演じられ、紛争で傷ついた人々が身を寄せる精神病院の場面で、紛争のニュース映像とそこに入院する患者たちのクローズアップとともにこの歌を流している。それはまるで、紛争に明け暮れるアラブの悲しみに寄り添い、未来への希望を歌に託しているかのようだ。

 

      

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「国境の夜想曲」

監督・撮影・音響:ジャンフランコ・ロージ
配給:ビターズ・エンド
イタリア・フランス・ドイツ/2020年/104分/1:1.85/アラビア語・クルド語/原題:NOTTURNO
bitters.co.jp/yasokyoku