秋の夜長に観たい10月の「誰かに教えたくなるシネマ」
- 誰かに教えたくなるシネマ
- 2019年09月30日
毎月リリースされる未公開、単館系作品の中から、「観たら必ず誰かに教えたくなる」作品を厳選してご紹介。劇場で見逃した作品や隠れた名作が多く並ぶレンタル店だからこそ出会える良作、小規模公開でありながら傑作といった、様々な掘り出し映画との出会いを映画専門家レビューと共に提供します!
非情な運命、ふたりの逃避行。
映画『ガルヴェストン』
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映画『ガルヴェストン』あらすじ
裏社会に生きる男・ロイは死期が近いことを病院で宣告され、死の恐怖に苛まれるようになる。ある日ボスに命じられ向かった仕事先で、突然何者かに襲われた彼は反撃し、その場に囚われていた若い娼婦を連れて逃亡する。
映画『ガルヴェストン』映画専門家レビュー
死を待つのみという哀しき男を体現するベン・フォスターが秀逸。彼にそっと寄り添うワケありの娼婦を、大人と少女の狭間でゆらぐエル・ファニングが熱演。ヴィンテージな景色にマッチして、娼婦ルックも可愛い。ボスに裏切られ自分の運命をかき乱された男が最果ての地・ガルヴェストンを目指し、道中で思いがけない感覚に包まれていく一瞬一瞬の儚さ。暴力描写までも繊細に魅せる監督メラニー・ロランの手腕には唸り、衝撃の事実を知るラスト、ふたりの旅路の風景がより一層切なくなる。
エロも物語も秀逸な官能ドラマ
映画『モーガン夫人の秘密』
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンより10月2日リリース
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
映画『モーガン夫人の秘密』あらすじ
第2次大戦後のドイツ。息子の死が夫婦関係に影を落とす英国人のレイチェルは、軍人の夫と接収した邸宅で新たな生活を始める。しかし、同情心から一緒に暮らす元の住人のドイツ人男性に、孤独を埋めるように惹かれ……。
映画『モーガン夫人の秘密』の映画専門家レビュー
リドリー・スコット製作、キーラ・ナイトレイ主演の「未公開」にはあまりにも惜しい、官能ドラマとして出色の作品。俗に言えば不倫モノですが、一線を越えるまでの各々の心の機微をきちんと描き、許されない行為をしている妻にも“致し方なし”と納得させられます。また、本作では不倫の三角関係だけでなく、不倫相手の娘の存在が物語に奥行きを出している点にも注目。肝心の(?)、キーラ・ナイトレイの濡れ場は、絶妙なカメラワークとキレのある編集が堪能できますので、是非ご確認あれ。
華麗なる一族のねじれすぎた闇
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』
(C)2017 Crooked House Productions Ltd.
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』あらすじ
ギリシャから英国へ渡り、一代で大成功を収めた大富豪レオニデスが殺害される。彼の孫娘でかつての恋人ソフィに雇われた探偵チャールズは、彼の一族に聞き込みを始めるが、全員に動機があることが分かる。
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』の映画専門家レビュー
まんまと作者の仕掛けにはまってしまった。金持ち一家の主が殺害され、家族全員が容疑者だなんて話はあるあるだが、「きっと犯人はこの人だ」「いや、こいつか!?」といつのまにかこちらを完全推理モードにさせる独特の空気感。主人公にちらつく恋模様も気になるけどとりあえずこっちを早く解決して! と気持ち入りまくりで観ていただけに、訪れた予想外の結末にはあんぐり。「嘘でしょ……」って嘘みたいな言葉を呟いてしまいました。さすが作者本人も自負する傑作。必見です。
悲しいほど爆笑の、珍・脱出劇
映画『THE POOL ザ・プール』
(C) 2018 TMoment Co., Ltd. All rights reserved.
映画『THE POOL ザ・プール』あらすじ
プールでの撮影を終えたアートディレクターのデイは、浮き輪で水に浮かびながら眠りに落ちてしまい、翌朝水が抜かれた深いプールから上がれなくなってしまう。やがて、脱出口のマンホールから凶暴なワニが出現し……。
映画『THE POOL ザ・プール』の映画専門家レビュー
助けはやってくるのにことごとく失敗してプールから出られないもどかしい展開が続き、唯一の出口を見つけたと思ったら始まる“ワニさんパニック”。プールという広すぎず、狭すぎずの空間で見つめる敵の姿ほど恐いものはない。間抜けすぎてもはや可愛いデイの彼女や、疲労困憊の極に達して何故かこれまでの行いを悔やみ始める主人公のセンチな懺悔まで、テンポが良すぎてもはや泣き笑いレベル。ワニとの闘いのリアルさに突然驚かされつつも、最後はやっぱり“愛”だった、な落としまで完璧。
身を滅ぼすのは人間自身なのか
映画『ポスト・アポカリプス』
ハーク/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントより10月9日リリース
(C)2014 Frenzy Films LTD
映画『ポスト・アポカリプス』あらすじ
地球の資源を奪おうとする地球外生命体の侵略により危機に瀕する世界で、目の見えない弟と人里離れた農場で暮らすサラ。ある日、男が逃げ込んできたことから、その男を追う武装集団から襲われ、弟も連れ去られてしまう。
映画『ポスト・アポカリプス』の映画専門家レビュー
息を殺して、隠れ潜む暮らしを強いられる主人公たちが静かに綴られる。侵略者たちの存在は、遠く空を望むと風景に溶け込む巨大な人工物と飛翔物体のみで、余計な説明も、派手な演出も抑え、良い意味で余白のある作り。目が見えず姉の手助けが必要な弟の焦燥も、弟を守ろうと必死な姉の責任感も分かるし、逃げ込んできた男と刹那的な関係を結ぼうとし、踏み止まる姉の惑いも分かる。ディストピアな世界によって浮かんでくる、人間の性(さが)を描いた静かに忍び寄ってくるSFスリラーです。
激動の中を駆け抜けた眩い青春
映画『芳華-Youth-』
(C) 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved
映画『芳華-Youth-』あらすじ
軍で歌や踊りを披露し、兵士たちを時に慰め時に鼓舞する役割を担う文工団に入団するも、周囲に馴染めずに孤立して過ごしていた17歳のシャオピン。そんな彼女の唯一の心の支えは、模範兵のリウ・フォンだったが……。
映画『芳華-Youth-』の映画専門家レビュー
文工団でパフォーマンスの練習に励む若者たち。友情を育んだり恋をしたりと、軍の組織下とはいえしっかり青春を謳歌している姿がとても微笑ましい。そして過酷な前線、戦後へと時は移り変わっていくが、彼らの中であの青春の日々だけは輝かしく生き続けていることに安堵。だからこそ、心を病んでしまった少女が懐かしい音楽で無意識に動き出し、夜空の下で舞い踊る姿は格別に美しく、切なく映る。時代に翻弄されながらも青春を駆け抜けた彼らの生き様に、深く余韻が残る1本。
■前回の誰シネ(9月リリースタイトル)はこちらから