10代の感情は波のように制御できない!超青春映画「子供はわかってあげない」

10代の感情は波のように制御できない!超青春映画「子供はわかってあげない」

水泳部女子の美波と書道部男子のもじくんは、趣味のアニメをきっかけに運命的な出会いを果たす。そして思いがけず、美波の幼い頃に別れた父親探しが始まるが、見つけた父親は何やら怪しげ。戸惑いながら、海辺の町で父娘の夏休みが始まる──。長編デビュー作ながら「マンガ大賞2015」で2位にランクインした田島列島のコミックを、「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一が監督を務めて映画化した高校生の青春ストーリー「子供はわかってあげない」。そのブルーレイ&DVDが3月2日にリリースされた。

ガールミーツボーイ×父探し

プールを背泳ぎで行く美波。演じる上白石萌歌は、つるんとした顔、ほわんとした表情で、スクリーンに唯一無二の輪郭を描く。

「どうして泳ぎながら笑っちゃうんだろ」

波立って制御できない感情は10代の特権か。その奔放なアンテナで校舎の屋上に見つけたのが、書道のごとく魔法少女を描いていたもじくん。「町田くんの世界」で注目された細田佳央太が、誠実さを発揮する。そんな“ガールミーツボーイ”ストーリーの「子供はわかってあげない」だが、そこに“父親探し”の物語が打ち寄せるのが一興だ。美波の父・友充は遠い町で教祖を務める超能力者だった(?)──演じる豊川悦司が、日焼けした顔でゆったりと中年の体躯を携えて印象的。わりとあっけなく見つかった父と、机を挟んでうつむき気味に正座する娘、茶の間からは海が見える。

そして、波打ち際をぎこちない距離感で並んで歩きながら、ぽつぽつ会話していくふたりを追った長回しのシーン。俳優とカメラに委ねた、沖田監督の悠々たるセンスが光る。もちろん全編通し、ふじきみつ彦の脚本のダイアローグ・組み立ても効いている。娘と父の南国風情に包まれたひととき、そこへ心配して駆けつけたもじくん。まるで娘の恋人に邪魔されたかのような不機嫌さを見せる友充だが、酌み交わして奇妙な絆が……。3人が互いに“わかってあげていく”か否か、そんな夏休みの行方を見届けてほしい。

笑いが弾け、涙が湧く

脇を固める面々も、見せ場がある。もじくんの兄で探偵の明ちゃんを演じる千葉雄大は、中性的で軽やか(美波の父親探しを請け負い、のちに請求書を送りつけるが、そこに書かれたひとこともクール!)。美波の現在の父親役・古舘寛治は穏やかでマイペース。そして母親役の斉藤由貴は、明るく能天気そうに好演。そんな母だが、合宿と偽って父親探しに出た美波の嘘を、ちゃんとわかっている。

さてクライマックスは、いよいよ美波ともじくんの「関係」にフォーカスする(先を知りたくない方は、この段落のみ読み飛ばしを)。

廊下を疾走し、屋上でもじくんと再会し、正座する美波。波立つ感情、笑いが止まらない。
今回はどうしようもなく高潮だ。表面張力いっぱいで、涙がこぼれる。

「なんで泣いてんだろ」

──正座で向き合ったもじくんは、美波の口から出る言葉が、わかっている。

「プロダクションノート」で別世界へ

ブルーレイは特典がいっぱいだ。「イベント集」は、舞台挨拶に登壇したメインキャストの思いや裏話が聞けるのはもちろん、それぞれ劇中とは違う衣装も新鮮。劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」の声優・富田美憂と浪川大輔が登壇したトークイベントも楽しい。そんな「KOTEKO」のフル尺バージョンも収録されているので、こちらも期待してほしい。

「本編メイキング」は、和気藹々とした撮影の模様がうかがえる。沖田監督の人柄が、映画のムードを醸成しているのだとわかる。クランクアップを迎えた上白石萌歌と細田佳央太、それぞれの感謝の挨拶に至るまで見逃せない。

「未公開シーン集」は、電車で美波ともじくんが語り合う「愛について」、水泳部部長選挙を追った「新部長、宮島の誕生」、父と仲良しな少女・じんこちゃんに泳ぎを教える美波の姿と、父の指圧の師匠が美波に語るさまを収めた「美波の名前の由来」、美波が水着姿を気にしながらもじくんと浜辺を歩く「前向け、前」、もじくんが兄・明ちゃんと祖父との和解を目撃する「明大と祖父のハグ」の5シーン。個人的には「明大と祖父のハグ」が白眉と思えた。陰影ある木々のそよぎに導かれ、やや遠目に明ちゃんと祖父が歩み寄る姿を捉えた同シーンは、奇妙におかしくて美しい。

「ブックレット」は、水と空、光の中で呼吸した上白石萌歌と細田佳央太の姿をはじめ、キャストの写真がずらり。そこにアニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」のピンクを基調としたカラフルな設定資料集が対比される。さらに沖田監督の手による「プロダクションノート」とは名ばかりの、謎の長編散文。よく見たらタイトルに「妄想」と添えられ、架空の制作過程が奇想天外かつ適当に綴られていくのだが(イラストも満載)、ひょっとしたら別の世界線ではこちらが本編なのかもしれない。何にせよ思いがけずもう一本見た気分になれるのだから、ブルーレイ版はとてもお買い得なセット商品の趣きを湛えている。

文=広岡歩 制作=キネマ旬報社

「子供はわかってあげない」

●3月2日(水)Blu-ray&DVDリリース(レンタル同日リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray豪華版:6,380円(税込) 
【映像特典】約76分
・スポット集
・劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」
・イベント集(完成披露上映会/テアトル新宿先行公開記念舞台挨拶/全国公開記念舞台挨拶/劇中アニメKOTEKOトークイベント)
・本編メイキング「2019年の、夏」
・未公開シーン集~あの夏、みせられなかった5つのシーン~
【外装・封入特典】
・三方背ケース
・ブックレット

●DVD通常版:4,180円(税込)
【映像特典】約3分
・スポット集

●2021年/日本/本編138分
●監督:沖田修一
●脚本:ふじきみつ彦、沖田修一
●音楽:牛尾憲輔
●原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニングKC刊)
●出演:上白石萌歌、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治、斉藤由貴、豊川悦司
●劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」:富田美憂、浪川大輔、櫻井孝宏、鈴木達央、速水奨
●発売元:アミューズソフト 販売元:ポニーキャニオン 
©2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ©田島列島/講談社