ムック|溝口健二著作集

ムック

表紙・巻頭特集

定価2800円+税 ページ数448
刊行オムロ(発売・キネマ旬報社) 発行日2013年6月下旬
判型四六判(上製) ISBN978-4-87376-422-1

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内容 / Detail

【『溝口健二著作集』PV コチラ(youtube) からご覧いただけます】

本書は、日本が生んだ世界映画界の巨匠である映画監督溝口健二が、
生前に自身の署名で発表した記事を出来る限りすべて、
その発言のなかで重要と思われるものを網羅した。

著者は『溝口健二・全作品解説』を刊行した溝口研究の第一人者、佐相勉。
この本は、編年体で編まれ、フィルモグラフィー、記事、そして書誌情報が年代順に収録されているので、
溝口が時代を追うに従って、映画監督としていかに変化していったかが、手に取るようにわかってくる。
そして、その時代にどんなことを考えていたのかがよくわかる。

全体を5つの時代に区分した。1923―1929はサイレント時代、1930―1935はトーキーの時代、
最も記事が多い1936-1945は『浪華悲歌』でブレイクした溝口が巨匠になった時代である。
1946-1951は戦後、そして1952―1956はヴェネチア国際映画祭で受賞して世界的な監督になった時代である。

全体的に、記事は元の発表媒体からあまり手を加えていない。
従って、溝口作品のタイトル表記でさえも統一が取れていないところがある。
この辺りは巻末の索引を参照していただくとある程度疑問点は解消できると思う。

フィルモグラフィーや編註、メモランダムもすべて佐相の執筆によるものである。
フィルモグラフィーは他の資料と食い違っているものもあるが、
佐相による最新の研究成果となるものであり、それは註やメモランダムも同様である。

溝口という監督のとても不思議なところは、日本でよりも海外での方が有名で、
映画関係者にもよく知られているところである。研究論文なども海外での方が圧倒的に多い。
ただ、海外の研究者が溝口作品のスタイルやショット分析を中心としているのに対し、
この本は新しい視点を導入することを狙っている。溝口の原テキストを読むことで、
新たな溝口像を発見していただけるものと確信している。

いくつかの原稿は、『溝口健二集成』(1991年、キネマ旬報社)、
『映画読本溝口健二』(1997年、フィルムアート社)に収録している。
前者は絶版であり、後者は現行本であるが、先にも記したように、
時代順に読まれることで新たな光を当てられる可能性があること、
佐相による新たな注釈が付記されていることに意味がある。

エピローグの「二つの流れを唯一つのものにコンデンスする」は、
この本を読む上での最良のガイドとなっているので、これを先に読んでもらってもよい。

この本が、若い映画作家や、若い映画研究者にも読まれ、
英語版をはじめとする海外版で発行されることを期待したい。
(発行人・西田宣善)



【著者】溝口健二
1898年東京に生まれ、1956年京都に没する。
1923年に第一作を発表してから1956年まで90本の作品を監督。
サイレント時代の1920年代には、新派・表現主義(『血と霊』)、翻案文芸物(『霧の港』)、
活劇・喜劇(『金』)、下町情話(『紙人形春の囁き』『日本橋』)、傾向映画(『都会交響楽』)など、
多様なジャンルに挑戦し、1930年代には明治物(『滝の白糸』『神風連』『折鶴お千』)を連続して手がける。
アメリカ、ドイツ、フランス、ソヴィエトなどの外国映画の新しいテクニックを貪欲に吸収しながら、
日本的美の映画的表現に尽力する。
トーキーの意義をいち早く認識し、『ふるさと』(1930)で音と映像の非同時的使用という先駆的試みを行い、
『浪華悲歌』『祇園の姉妹』(1936)、『愛怨峡』(1937)、『残菊物語』(1939)、
『元禄忠臣蔵』(1941、42)において、流麗なカメラワークを伴う「長回し」と、
引いたカメラによる奥行きの深い縦の構図を特色とする独自の映像世界を確立する。
戦後は『西鶴一代女』(1952)、『雨月物語』(1953)、『山椒大夫』(1954)で3年連続ヴェネチア国際映画祭で受賞し、
〝世界のミゾグチ〟となる。
また、『近松物語』(1954)や『赤線地帯』(1956)に見られる斬新な音楽と音の創造も注目に価する。


【編者】佐相 勉
1948年、横浜に生まれる。
著書に『1923溝口健二「血と霊」』(筑摩書房、1991)、溝口作品を第1作から詳細に解説した
『溝口健二・全作品解説』(近代文芸社、2001~)は現在10巻(2013.7)『祇園祭』までの項が刊行されている。
編書に『映画読本溝口健二』(フィルムアート社、1997)、論文に「喜劇監督溝口健二」(『ユリイカ』1992年10月号)、
「溝口健二・失われたフィルムが語るもの」(『NFCニューズレター』第69号、2006)がある。
2001年、「溝口健二―トーキーへの挑戦」にて京都映画祭第3回京都映画文化賞を受賞。
溝口サイレント期の失われた映画についての論考、解説を執筆することが多いが、その研究は溝口の全時代に及んでいる。