「だれのものでもないチェレ」のストーリー

1930年代のハンガリーの農村。ホルティ独裁政権下では、民衆は貧しく、人権も保障されていなかった。両親の愛情を知らないみなし児のチェレ(ジュジャ・ツィンコーツィ)は、野原で牛を追っていたが、衣服も身につけていない有様だった。当時の国家は、孤児院に収容された子どもたちを養育費つきで養子に出し、富農たちは、労働力として争って孤児たちをひきとっていたのだった。チェレも富農に引き取られてきたみなし児のひとりだったが、チェレの養い親たちはチェレをこき使った。目を覆うまでの虐待にも耐えていたチェレは、ついに家を出た。しかし、孤児院に収容されたチェレは、再び売りに出され、富農にひきとられる。その養い親たちもひどかった。チェレは、馬小屋でひとりの老人と住んだ。老人(ヨージェフ・ビハリ)は、家や土地をその一家に取りあげられていたのだった。チェレの養母(マリアン・モール)は老人が憲兵に密告するのを恐れて、老人を毒入りミルクで殺してしまう。老人の葬式のあと、憲兵がその農家にやってきて、老人の遺産や遺言のことを聞いた。農婦は証拠をいん滅するため、老人のものをみんな焼いた。チェレが泣く赤ん坊にミルクをのませようとした時、なぜか農婦があわてた。ミルクの中には、チェレを殺すための毒が入っていたのだ。クリスマスの夜、チェレはひとりさびしく馬小屋で、ワラの茎に火をともし、神に祈りを捧げていた。その時、ワラの火が燃え移り、小屋は炎に包まれるのだった。