「ニュルンベルクの親方」のストーリー

今からおよそ四百年の昔、南ドイツニュルンベルクの都にハンス・ザックスという名物男が住んでいた。彼は靴屋で又ニュルンベルク一の詩人であった。ある年、ニュルンベルクで市長改選が行われた。その選挙法というのは一番優れた詩の詠み手が当選するという奇抜なものであった。勿論、町中の者は当然ハンス・ザックスが当選するものと信じていた。さてハンスの家の前に金鍛冶のファイト・ボグナーが住んでいた。彼の娘エヴにはハンスが心密かに想いを寄せている。が、それには恋の競争者がもう一人いた。それは市役所の書記ベックメッサーで、彼はボグナーを市長にする手引きをする条件を持ち出してエヴを我物にしようとしていた。ちょうどその時、近隣随一の古城ストルツィンク家の若い城主ワルターが無理強いの縁談沙汰を逃れてこのニュルンベルクの町に姿を変えて入って来た。そして町の教会で彼とエヴとは互いを見染めたのであった。で、その日からワルターはハンス・ザックスの家に下男として住み込み、窓越しにエヴと微笑みを投げかわしたのである。所が名誉心に馳られたボグナーは遂にベックメッサーの願いを容れてエヴをベックメッサーの妻にやる事を承諾してしまった。そこでエヴとワルターとは手に手を取って駆け落ちした。で忽ち、不義者逃すな、と町中の騒動となり、ワルターは役人に捕らえられて獄屋に繋がれてしまう。一夜ハンス・ザックスはワルターを訪れ、己の心をこめて作ったエヴを称える詩を彼に渡し、彼にその暗唱をすすめた。詩はその後、転々としてベックメッサーの手により市役所に運ばれて、この詩は当選したが、ベックメッサーの朗読はしどろもどろであった。エヴはすぐにこの詩の作者を見破り、それはハンスの詩であると叫んだが、ハンスは首を横に振り、一同を引き連れてワルターの獄屋の前に行き、ワルターに声高にその詩を誦ませた。斯くてワルターは獄より出され、エヴと共に新しい日を迎える事となった。が、恐らくは何人といえども、一人苦しい思いを胸に秘めてワルターとエヴとの睦しさを眺めるハンス・ザックスの悲しい心を知るものはなかった事であろう。総ては今をさる四百年の昔、南ドイツニュルンベルクの都に名高きハンス・ザックスの物語り。