「酒場の母」のストーリー

地主ミヒオウスキーの妻スラヴァはある日同じ地主仲間を招いての宴会の席上、夫から受けた思いやりのない仕打ちを憤って愛児エニセークを連れ家出をした。それから七年後スラヴァはある都会の酒場タバリンで客に媚びを売る身となっていた。だが病身な彼女では充分な収入を得ることが出来ずそれに子どもの将来を思ってエニセークを郊外の農家に預け、教会の少年合唱隊で働かせていた。ある日スラヴァは子どもの養育料を持って村の教会を訪れたが人混みの中で浮浪人にその金を盗まれそのため下宿代を支払うことが出来なくなったのでエニセークは下宿の主婦に立ち退きを迫られた。かねがね、主婦の連れない仕打ちに小さな心を傷めていたエニセークは町に出て母親と一緒に暮らすことを願ったがスラヴァは彼を慰めて帰るより他なかった。数日後エニセークは母親恋しさの余り遂に家を飛び出した。一方、スラヴァは彼女の悲境に同情した親切な客から金若干を貰ったので早速エニセークを引き取るべく村へ向かった。が途中非常警戒に合い一夜を留置所で明かさねばならなかった。そしてやっとの思いで農家に来てみるとそこにはもうエニセークはいなかった。町に出てきたエニセークは何処にも母の姿を発見し得ず、大都会の真中で一人途方に暮れていたがその時通り合わせた一人の浮浪人に連れられその夜は無料宿泊所に泊まることとなった。そして偶然にも以前母親の金を盗んだ浮浪人に巡り会った。この浮浪人は落魄せる有名なヴァイオリンニストだったのでエニセークはそのヴァイオリンニストに伴われヴァイオリンを弾いて町を流しながら母親を探し求めることになった。ある夜エニセークはヴァイオリンニストと共にタバリンへ母親を訪ねてきたがその時、客の請うままに彼は民謡をひいて聞かせた。その歌こそ昔スラヴァがエニセークに教えたものだった。丁度その時酒場にやってきたスラヴァは懐かしいヴァイオリンの音に初めてエニセークが来ていることを知った。飛び立つ思いで愛児のもとへ馳せつけたが日頃の過労にひどく健康を害していた彼女はバッタリ倒れてしまった。そしてヴァイオリンニストとしての子どもの才能に密かなる喜びを感じながら静かに息を引き取っていった。放浪者実は落魄せるヴァイオリンニストは往年の有名な音楽家であったことを発見され、客の中にも後援者たらんと申し出る者があったけれども固辞した彼は己が代わりにエニセークを後援されんことを頼んだのである。