「仄暗い水の底から」のストーリー

家庭を顧みない母親に育てられ淋しい少女時代を過ごした淑美には、自分の家庭を大切にし子供を愛す親になろうという強い想いが人一倍強かった。しかし、現実には夫・浜田との生活はうまく行かず、家庭裁判所で離婚調停中の身の上。それでも、彼女は一人娘である5歳の郁子の親権を勝ち取るべく自立を目指し、マンションへの入居と就職を決めた。ところが、ふたりが暮らし始めた部屋はひどい湿気と雨漏り、水道水も不味く、更にそこには何かの存在が感じられた。そしてそれらを暗示するかのように、郁子に奇行が見られ始める。屋上で見つけた赤いバッグへの固執、姿の見えない友達との会話。そんな中、淑美は2年前に行方不明となった郁子と同じ幼稚園に通っていた女の子・美津子が、実はマンションの屋上の貯水槽に落ちて死んでいたことを知り、淋しい想いをしている彼女の霊が郁子を連れ去ろうとしているのではないかと思うようになる。果たして、郁子を連れ去ろうと美津子がふたりの前に姿を現した。しかし、そんな彼女を不憫に思った淑美は郁子を残し、美津子と姿を消してしまう。それから10年後、高校生になった郁子は、ふとかつて自分を捨てて行方をくらました母親と暮らしたマンションへ立ち寄った。今は廃屋となったそこで、あの頃と変わらない姿の淑美と再会する郁子。その時、彼女は淑美が美津子といなくなった理由が、自分を美津子の手から守ろうとした母親の愛だと悟る。