「メイプルソープとコレクター」のストーリー
1989年3月。天才写真家と呼ばれたロバート・メイプルソープは、HIVにより死亡する。享年43歳という若さだった。生前よりゲイである事を公言し、芸術表現における“性のボーダー”を超えた彼の写真の数々は、スキャンダラスな論争を巻き起こし、70~80年代のアートシーンに多大な影響を与えた。花、男性ヌード、彫像等、被写体が変化しても一貫して求め続けた“完璧な瞬間<パーフェクト・モーメント>”。その研ぎ澄まされた美しさは、没後20年を経た今日でも観る者を魅了し続けている。そして、メイプルソープのアーティストとしての運命に決定的な影響を与えたのが、サム・ワグスタッフ。歴史ある名家に生まれ、幼少時より収集癖に目覚めた彼は、やがてアート・コレクターとして知られるようになる。卓越した審美眼による彼のコレクションはアフリカの彫刻から、アンディ・ウォーホル、アンティークの銀食器へと及ぶ膨大なもの。彼にとってメイプルソープは特別な存在であり、その希有な才能に早くから目を付け、惜しみない愛情と情熱を注いだ。パトロンとして経済的に援助するのみならず、自らのコネクションを使ってメイプルソープをニューヨークのアートシーンに送り込んだ。こうして、アーティストとコレクター、ギャラリーの力学、アートがビジネスになる仕組みなど、本作はアートの裏側に潜むもう一つの世界をも描き出す。また、メイプルソープが唯一愛した女性パティ・スミス自らの言葉で語る愛の日々。当時を知る関係者によるインタビューをはじめ、時代を代表するウォーホル、リキテンシュタインたちによるポップアートの傑作の数々。そしてアトリエで撮影に没頭するメイプルソープの貴重なフッテージなど。一人のアーティストの人生を超え、当時のニューヨーク・アートシーンとそれを彩った人々の生活をよみがえらせ、リアルに再構築していく。