桃井かおり モモイカオリ

  • 出身地:東京都世田谷区の生まれ
  • 生年月日:1952/04/08

略歴 / Brief history

東京都世田谷区の生まれ。父は国際政治学者の桃井真、脚本家の桃井章は長兄。幼時からバレエを習い、小学校卒業後にロンドンのロイヤル・バレエ・アカデミーに留学。1968年に帰国して、女子美術大学付属高校デザイン科に進む。71年、文学座附属演劇研究所11期生となり、同年、市川崑監督「愛ふたたび」で映画初出演。さらに田原総一朗・清水邦夫共同監督のATG「あらかじめ失われた恋人たちよ」のヒロインに抜擢され、無断で女優になったため厳格な父から一時は勘当される。72年に文学座を退団。藤田敏八監督「赤い鳥逃げた?」73と日活ロマンポルノの「エロスは甘き香り」73で注目を集めたのち、神代辰巳監督「青春の蹉跌」74で、萩原健一演じる大学生の重荷になる登美子役に起用される。ふたりが雪山をさすらう場面の行き場のない哀感が鮮烈な印象を与えた。神代との出会いで女優を続ける意志を固め、以降も「櫛の火」「アフリカの光」75に出演。黒木和雄監督「竜馬暗殺」74では石橋蓮司扮する中岡晋太郎の愛人、長谷川和彦監督「青春の殺人者」76では主人公・水谷豊の同窓生役。当時は既成の型を逸脱した俳優が次々と登場しており、その時代の空気を倦怠感に満ちた演技でヴィヴィッドに体現する。テレビドラマでの活躍も早く、早坂暁脚本のNHK『たった一人の反乱』『天下堂々』73、倉本聰脚本のTBS『幻の町』75、日本テレビ『前略おふくろ様』75~77、山田太一脚本のTBS『それぞれの秋』73、NHK『男たちの旅路』76~77など、ドラマ黄金期を牽引した人気脚本家の代表作に次々と出演。特に『前略おふくろ様』でのトラブルメーカー“恐怖の海ちゃん”の怪演と最終回のしおらしい変貌は、アウトロー女優の本来の幅と素養を証明するに充分だった。77年、山田洋次監督「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」に出演。刑期を終えた男(高倉健)とお調子者の青年(武田鉄矢)と一緒に北海道を旅する娘役。今ふうのようで実は繊細な娘の優しさを丁寧に演じて、キネマ旬報賞、ブルーリボン賞、日本アカデミー賞などの助演女優賞を受賞する。ここから一気にステージが拡がり、79年は、東陽一監督の青春映画「もう頬づえはつかない」と前田陽一監督の人情喜劇「神様のくれた赤ん坊」79の2本で、キネマ旬報賞、ブルーリボン賞などの主な主演女優賞を独占。さらに黒澤明監督「影武者」80、今村昌平監督「ええじゃないか」81、野村芳太郎監督「疑惑」82など、出演作が軒並み代表作となる圧倒的活動が続く。殺人容疑の猛女を火の出るような迫力で演じた「疑惑」で、イタリア・カトリカのミステリー映画祭で主演女優賞。日本テレビ『ちょっとマイウェイ』79~80、『ダウンタウン物語』81、松田優作と共演のフジテレビ『熱帯夜』83など、テレビドラマでも強烈な個性を発揮する。85年、恩地日出夫監督「生きてみたいもう一度・新宿バス放火事件」で大火傷を負った被害者女性の苦悩と再起を熱演。この年に主人公を演じた早坂暁脚本のNHK『花へんろ・風の昭和日記』は、97年まで断続的にシリーズ化された。88年は滝田洋二郎監督「木村家の人びと」の過剰な貯蓄に邁進する主婦、久しぶりの神代作品「噛む女」では夫との関係が冷めた妻、黒木和雄監督「TOMORROW/明日」のつつましい戦時の女性と三様の女性を見事に演じ分け、再びキネマ旬報賞とブルーリボン賞の主演女優賞を獲得する。以降は、主に貫禄を効かせた助演に回りつつ、オムニバス「ご挨拶」91の一篇を監督するなど幅広い活動も見せた。それでも若松孝二監督「われに撃つ用意あり」90、市川準監督「東京夜曲」97など主要作に途切れはなく、常に余裕たっぷりに見える自身のイメージを厳しい演技への姿勢によって磨き上げる。新たな転機はロブ・マーシャル監督「SAYURI」05の、チャン・ツィイーの“おかあさん”役。アレクサンドル・ソクーロフ監督「太陽」05ではイッセー尾形と昭和天皇・皇后役で共演し、反響を呼ぶ。日本ではトップでもハリウッドではオーディションに落ちる新人扱いの落差を良き刺激として、2006年にアメリカの映画俳優組合に加入。主演を兼ねた家庭劇「無花果の顔」06で長篇映画初監督もつとめ、独創的な演出でベルリン国際映画祭最優秀アジア映画賞などを獲得した。俳優最年少で紫綬褒章を受章した08年には、出世作のハリウッド・リメイク版「イエロー・ハンカチーフ」に出演。国際派女優となった今、尖った個性はさらに輝きを増している。

桃井かおりの関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 優作について私が知っている二、三の事柄

    制作年: 2022
    1990年12月、松田優作の死の一年後に開催された『CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOW』と銘打たれたライブを表で、陰で支えた者たちに映画監督・崔洋一がインタビューを敢行したドキュメンタリー。その生の言葉による膨大な証言から、松田優作という存在自体に鋭く迫る。出演は水谷豊、桃井かおり、ミュージシャンの原田喧太、元ビクターエンタテインメントディレクターの高垣健、スチールカメラマンの渡邉俊夫、Exのベーシスト・奈良敏博。
  • 松田優作・メモリアル・ライブ

      制作年: 2022
      1990年12月3日、松田優作の死の一年後に池袋サンシャイン劇場で行われた幻のステージを、当時ライブを演出した崔洋一が作品化。水谷豊扮するボーイ頭に導かれて、原田芳雄、内田裕也、宇崎竜童等々が扮する客たちが、次々と現れては歌い、思いを語り、去ってゆく。セントラル・アーツを率いた黒澤満の遺品から見つかった伝説のライブ映像。
    • 宇宙でいちばんあかるい屋根

      制作年: 2020
      野中ともそによる同名小説を「新聞記者」の藤井道人監督が映画化。誰にも話せない恋心や家族への思いを抱え、時々息苦しくなる14歳のつばめは、満天の星が輝くある夜、派手な装いでキックボードに乗った老女・星ばあと出会い、いつしか2人は距離を縮めていく。主人公・つばめを本作が映画初主演となる清原果耶、星ばあを映画監督としても注目を集める実力派女優・桃井かおりが演じる。共演は「惡の華」の伊藤健太郎。
    • 一度も撃ってません

      制作年: 2020
      石橋蓮司が「黄昏流星群 星のレストラン」以来18年振りに主演するハードボイルドコメディ。売れない小説家・市川は密かに殺しの依頼を受けては本物のヒットマンに仕事を頼み、その状況を取材していた。そんな彼が、敵のヒットマンから命を狙われてしまう。監督は、「半世界」の阪本順治。脚本は、ドラマ『探偵物語』の丸山昇一。出演は、「団地」の大楠道代、「北の桜守」の岸部一徳、「ふたりの旅路」の桃井かおり。
    • 夏少女

      制作年: 1996
      「夢千代日記」などで知られる脚本家・早坂暁が自らの原爆体験を踏まえ執筆し、「若者たち」の名匠・森川時久監督のもと完成以来23年の時を経て初の劇場公開。瀬戸内海の小さな島に住む12歳の少年マモルと、忽然と現れた少女とのひと夏のふれあいを幻想的に綴る。出演は「火 Hee」の桃井かおり、「あさひるばん」の間寛平。
    • ふたりの旅路

      制作年: 2016
      「太陽」以来2度目となる桃井かおりとイッセー尾形共演の日本ラトビア初共同製作映画。あることをきっかけに自分の殻に閉じこもっているケイコ。ラトビアの首都リガで開催される着物ショーに参加した彼女は、震災で行方不明になった夫と不思議な再会をする。監督・脚本・編集は、ラトビア出身の映画監督マーリス・マルティンソーンス。