映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 — 映画「燃えあがる女性記者たち」—
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- 2023年09月16日
スマホを手にした女性記者たちがインド社会を変えていく
インド北部のウッタル・プラデーシュ州で、下層女性へのレイプ事件、採石場を牛耳るマフィアの暴挙、怠慢な警察、議員選挙への出馬者などを追跡する女性たち。カースト制度の外に位置づけられ、迫害されてきた〝不可触民〞ダリトの女性のみで立ち上げた新聞社〈カバル・ラハリヤ〉の記者たちだ。民主主義を守るため、命を危険に晒しながら日々奔走する。
そんな闘士たちだが、デジタル化の波を受けて動画報道にシフトした。慣れないスマホでインタビュー相手を撮影し、家に帰れば子どもたち、そして彼女らの仕事に決して理解があるわけではない夫や父がいる。動画の再生数はグングン伸び、少しずつ、だが着実に社会を動かしていく。
映画の主人公といえる、温和だが芯の強い主任記者ミーラが、目下奮闘中の新人シャームカリに施すアドバイスが印象的だ。「批判の目が必要なの。あなたの取材はまるで宣伝のようだった」。相手の言葉を真に受けるだけでは記者は務まらない。建前に隠された本音、サングラスの奥の瞳が宿す訴え、笑みが含む一抹の苦さ、文面では伝わらない言葉の温度、政治と宗教をめぐる甘言と思惑、それらを読み取ること——。ひょっとしたら、する気のなかった結婚を決意してカバル・ラハリヤを去るスニータ記者も、弁明からは汲み取れない微妙な胸中のコントラストがあったかもしれない。
「私たちは社会を映す鏡」だと言うミーラは、どこまでも権力の責任を問い、発信し続ける。視聴者にも、事態の核心を感知する想像力が必要だ。まずは記者の勇気と行動力を称え、困窮者に寄り添いたい。そしてフッテージの裏側には映画の制作者たちがいるのだから、彼らの意思や困難、知恵の閃きにも思いを馳せてみたい。物事は多層的で繊細だ。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2023年9月号より転載)
「燃えあがる女性記者たち」
【あらすじ】
被差別民であるダリトの女性たちが立ち上げた新聞社〈カバル・ラハリヤ〉(“ニュースの波”という意味)は、紙からデジタルへのメディア移行という挑戦を始める。記者たちは危険を顧みず、差別に起因する暴行をはじめ地域のさまざまな事件や問題を追い、小さな声を粘り強くスマホに記録。そうして配信されたニュースは、インド中に広がっていく。
【STAFF & CAST】
監督:リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ
配給:きろくびと
インド/2021年/93分/区分G
9月16日(土)より全国順次公開
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