「ダイ・ハード」「スピード」を彷彿とさせるノンストップ・アクション登場! 悩めるヒーローが封鎖された橋の上でテロリストと闘う傑作「デッド・エンド 完全封鎖」
- デッド・エンド 完全封鎖 , ディラン・スプラウス , メーガン・ストット , メイソン・グッディング , ディーチェン・ラックマン , パトリック・ルシエ , ターミネーター 新起動/ジェニシス
- 2025年02月14日
限定的な空間で起きる犯罪パニック映画には傑作が多い。「ダイ・ハード」(88)や「スピード」(94)、「コン・エアー」(97)などはその緻密で緊張感ある演出で無名だった監督の名声を一気に高めた。
2月14日(金)にレンタルが開始される「デッド・エンド 完全封鎖」もその一本に仲間入りするだろう。両端を破壊され完全に孤立した橋の上でテロ集団と戦う主人公を描く本作は、一瞬たりとも気が抜けないスリリングな力作だ。
狡猾なテロリストによる連続トラップ!! 最悪な事態をヒーローは突破できるか?
主人公エリック・ダニエルズ(ディラン・スプラウス)は妹のマデリン(メーガン・ストット)を乗せて、映画を観ようと車を走らせていた。しかし川にかかる大橋の中間点で渋滞に巻き込まれた直後、轟音とともに橋の両端が爆破、通過しようとしていた70人以上が脱出不能の橋の上に取り残される。直後に犯行を宣言した元民間軍事会社の兵士・ロメオ(メイソン・グッディング)は配下を使って橋に取り残されたドライバーたちを拘束、携帯電話を奪い人質にする。その中には重大犯罪の証人として裁判所へ護送中の女性兵士ドク(ディーチェン・ラックマン)もいた。
かつて民間軍事会社のもと戦地で活動していたロメオは、配下に指示し巧みに人質を掌握、橋を包囲する警察を手玉に取る。一方、陸軍特殊部隊にいたエリックは妹の命を守るために行動を始める。だが彼は除隊後、重いPTSDに苦しんでいた──。
物語の中盤、テロ集団がエリックの行く手に立ちはだかる。配下の行動やトラップの緻密な配置、起動のタイミングも絶妙だ。エリックはたった一人で妹を、そして人質たちを救出することができるのか。さらにテロリストの真の目的は何か。この作品の観客は緊張感から開放される瞬間がない。さらにドクの秘密やロメオが服用する薬、エリックのPTSDの原体験などがドラマを重厚にしている。
作品を輝かせたふたりのフレッシュ・スター
何よりディラン・スプラウスとメイソン・グッディングが演ずるヒーローと敵役のキャラクター造形が見事だ。本作は彼らにとってターニング・ポイントの一作になるかもしれない。
ディラン・スプラウスは1999年の映画「ビッグ・ダディ」の子役として注目され、10代、20代と着々とキャリアを積み重ねてきたが、甘いマスクのせいで恋愛コメディやファミリー映画への起用が多かった。本作では一転、男くさい特殊部隊兵士を激しいアクションとともに演じ、俳優として完全に脱皮した。
また、メイソン・グッディングもテレビシリーズ「Love、ヴィクター」(2020~22)やリブート版「スクリーム」(22)で明るい役を演じてきた。クールな悪役ロメオ役は彼にとって新鮮な挑戦だったに違いない。
このイケメン俳優二人の激突が終盤の最大の見所となる。アクションシーンを完璧に演じきった二人が今後、ハリウッド製アクション映画の新星になることを期待したい。マッチョすぎない二枚目のアクションスターはトム・クルーズの再来をも連想させる。また、映画のキーマンとなる護送中の女兵士を演じた、ディーチェン・ラックマンも個性的なキャラクターで強烈なスパイスになった。「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」(22)で印象的なアジア系ミックスルーツを演じた彼女は、本作のキャラクター造形も独特で強い印象を残している。本作はアクション映画として完成度が高いだけでなく、俳優陣もフレッシュで個性的な点で傑出しているのだ。
製作はアカデミー賞受賞作「ハート・ロッカー」のスタッフ
監督のパトリック・ルシエは90年代を映画編集者としてキャリアを積み、ことにホラー・マスター、ウェス・クレイヴン監督の片腕として重用されてきた。本作の緻密な映像設計やアクションの連続は有能な編集者の視点によって生み出されたと言える。
ルシエは2000年に「ゴッド・アーミーⅢ」で監督デビューし、ウェス・クレイヴン製作総指揮の「ドラキュリア」(00)や「ブラッディ・バレンタイン3D」(09)などでホラーマニアから注目され監督作を増やしてゆき、2015年には大作「ターミネーター 新起動/ジェニシス」の製作総指揮、脚本も務めている。
本作は、決して大きな予算の映画とは言えないが、彼の才能を存分に発揮できる場になった。封鎖された橋の上という限定空間を設定することで、ルシエは最小のロケーションで壮大なイメージのアクション空間を作りだした。「ダイ・ハード」や「スピード」も、資金面の難題を克服し大ヒットに結びつけた。本作もその後を追うことを祈りたい。なお、本作の制作会社・ボルテージ・ピクチャーズは独立系ながら2009年にジェレミー・レナー主演「ハート・ロッカー」でアカデミー賞6部門を受賞した経歴がある。それだけにアクション映画も単なるドンパチの連続では終わらせない。「デッド・エンド 完全封鎖」も登場人物たちが経験した戦争の傷を浮かび上がらせことで、原題「Aftermath」=「余波」の意味が立ち現れる仕掛けになっている。
ちなみに映画の舞台となるトービン橋はアメリカ・マサチューセッツ州のミスティック川にかかる実在の橋だ。全長2マイル(約3.2キロ)の長い橋で、独特の形状の美しいアーチリブが印象的だ。1950年に開通した古い橋だけに、破壊にも強いリアリティが感じられるが当然、爆破シーンはCGによるフィクションである。
監督、俳優などフレッシュな才能の共振によって生み出されたこの新たな傑作の誕生を、貴方は見逃してはいけない。
文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社
「デッド・エンド 完全封鎖」
●2月14日(金)レンタルリリース
●2024年/アメリカ/96分
●監督:パトリック・ルシエ
●脚本:ネイサン・グラハム・デイビス
●出演:ディラン・スプラウス、メイソン・グッディング、ディーチェン・ラックマン、メーガン・ストット
●発売・販売元:プルーク
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