塚原あゆ子&野木亜紀子&新井順子が明かす社会派エンタメ「ラストマイル」の反響

興行収入59.6億円の大ヒットを記録し、脚本の野木亜紀子が第98回キネマ旬報ベスト・テン日本映画脚本賞や第48回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、監督の塚原あゆ子が第49回報知映画賞など、多数の映画賞を受賞する高い評価を受けた映画「ラストマイル」。流通業界を舞台にしたノンストップ・サスペンスエンタテインメントである本作のBlu-ray&DVDが4月25日にリリースされた。数々の名作ドラマも生み出してきた最強チーム、監督の塚原、脚本の野木、プロデューサーの新井順子の3人が、大ヒットの反響やソフト化での見どころなどを明かした。

お客様へ荷物を届ける過程の最後の区間 "ラストマイル"

タイトルの"ラストマイル"とは、物流においてお客様へ荷物を届ける過程の最後の区間。本作は、流通業界最大のイベントの一つ、ブラックフライデーの前夜から4日間の物語を描いている。アメリカの小売業界で最も売り上げが見込めるブラックフライデーは、近年の日本でも年末商戦直前の11月下旬に定着しつつあり、世界規模のショッピングサイトでは大きな売り上げを見込める一大イベント。必然的に荷物の出荷や配送も増え、“ラストマイル”を担う運送業者も大忙しとなる。

物語の舞台は、11 月のブラックフライデー前夜の東京都内。アメリカに本社を持つ世界規模のショッピングサイト『デイリーファスト』(通称デリファス)から配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。それは日本中を恐怖に陥れる連続爆破事件の幕開けだった。誰が何のために爆弾を仕掛けたのか、残りの爆弾の数とその在処とは。翌朝、デリファスの巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。二人は流通網を止めずに連続爆破を止めることができるのか……。

事件の対応に追われる主人公・舟渡エレナ役に満島ひかり、その部下の梨本孔役に岡田将生。エレナ役は「こんな満島ひかりを見てみたい」という制作陣の思いを込めて、野木が当て書き。事件に関わっているのか不審な行動が多く、表情も言動も変化する真意が見えない謎の多い役。満島にとっても難役だったようだが、彼女ならではの繊細さと大胆さが活かされた愛すべきキャラクターとなっている。エレナの相棒となる孔も、硬軟自在の岡田ならではの幅広い演技力が活かされ、熱意はないが仕事はきっちりこなす今時の若者かつ上司に振り回される姿が見事にハマっている。他に、阿部サダヲ、ディーン・フジオカ、火野正平、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、中村倫也らが共演。さらに豪華すぎるゲスト俳優も多数登場する。

大ヒット&映画賞受賞の質実共に高い評価を獲得

本作が質実共に高い評価を受けたことについて、塚原、野木、新井の3人は「本当にありがたくて、感謝しかない」と口を揃える。野木は「当初は興収30億円超えたら万々歳という感じだった」、新井は「ロングランヒットになったことも含め、予想外のことばかり。“TVチームによる映画だから映画賞は獲れないだろうと思っていた」とも振り返る。報知映画賞や日本アカデミー賞で監督賞を受賞した塚原は「恐縮しちゃって、逆にどうしよう」と謙遜するが、昨年末公開の映画「 グランメゾン・パリ」、公開中の「ファーストキス 1ST KISS」と、約半年間で3本の劇場映画監督作を大ヒットさせている。たまたま公開が集中しただけで、映画を撮るのは年に1本ペースだというが、ヒットメーカーとなった塚原にとっても、本作のヒットや評価は励みになったようだ。

「ちょっとした自信にはなっていて、本当に嬉しいことです。古い考えかもしれないけど、何を映画やドラマと呼ぶのか、これは本当に映画と言えるのだろうかみたいな葛藤は常にあります。最終的にはソフト化も配信もあるのに、どの画角を目指し、どんな味わいの作品を、お金を払って見てくださる方のために用意すべきか。私だけではなく全てのスタッフや作り手たちが悩んでいると思う。だからこうしてたくさんの方に見ていただき、評価もしていただいて、これでもいいよと皆さんが言ってくれるのなら、映画体験をしてもらうことを第一義に広い意味でエンタメに挑戦できるし、少し前向きな気持ちで取り組むきっかけにはなっている感じです」(塚原)

画期的なシェアード・ユニバース・ムービー

本作はあくまでオリジナル脚本の独立した1本の映画だが、、塚原(監督)、野木(脚本)、新井(プロデューサー)の3人が組んだTVドラマ『アンナチュラル』(18)『MIU404』(20)と世界観を共有するシェアード・ユニバース・ムービーでもある。そのため、法医学ドラマの『アンナチュラル』から石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、薬師丸ひろ子、松重豊や、警視庁機動捜査隊のドラマ『MIU404』から綾野剛、星野源、橋本じゅん、麻生久美子ら、そして双方から刑事役として大倉孝二、酒向芳などが登場するのも、大きな見どころとなっている。主題歌も2作と同じく米津玄師が本作のために書き下ろし、世界観を盛り上げる。あくまで脇役ながら、豪華キャストが演じる人気ドラマのキャラクターたちの活躍を久々に見ることができるのは、ドラマファンにはたまらない仕掛だった。

塚原はその狙いを「もしも“物流がテーマのオリジナル映画です”と言うだけでは、ここまで多くの人には来ていただけなかったでしょう。でも、この映画を知ってほしい、物流の問題を考えてほしいということが主題なのだとすると、野木さんがよくこういう座組を考えついたなと思います。きっかけはどうであれ、こういうテーマの映画を見るつもりのなかった人に知ってもらうことがいちばんの狙いでしたから」と明かす。しかし、本作はあくまでオリジナルの映画企画として始まったもので、野木によると最初から狙ってやったわけではないという。

「塚原さんの“荷物が爆発する”というアイデアから始まった企画なので、事件が起これば初動捜査を
する刑事たちがいて、死人が出れば解剖する人がいるから、以前『アンナチュラル』の次に『MIU404』をやる時に『同じ世界線だったら面白くない?』という発想やったことの延長で、たまたま無理なく事件に絡ませられただけなんです。ドラマを見ていないとわからない映画は嫌だし、そういうことをやりたいわけではなかったので、最初から映画だけで独立したものにしたいとは思っていました。ただ、『アンナチュラル』『MIU404』の続編は難しいけれど、その世界を盛り上げてくれて、続きを楽しみに待ってくれていたドラマファンへの感謝の思いがありましたから、こういう形でもう一度お見せすることができてよかったです」(野木)

塚原が「私もあのキャラクターたちに会いたかった」とも語るとおり、今回はドラマファンだけでなくスタッフたちも『アンナチュラル』『MIU404』のキャラクターたちを愛すればこそ実現したことだが、「企画が通るかもわからないし、スケジュールも確定していないけど、とりあえず登場させて脚本を書いて、役者さんたちがまたやりたいと言ってくださったのも含め、新井さんがスケジュール調整をしてギリギリ実現した」(野木)、「刑事や解剖医が自然と登場する事件もので、無理に見せ場を作っているわけではないから、あのキャストが揃わなければ別の方をキャスティングしても成立すると、いつ撮るのかも配給会社さんも決まっていない中で書いていただき作り始めた、かなり特殊な企画でした」(新井)とも明かすように、今回は決してドラマありきや、マーケティング戦略などによるものではなかったようだが、この画期的なシェアード・ユニバースの成功が、新たな可能性を広げたのではないかとも思う。

豪華版とリミテッドエディションには野木が書き下ろした“noginote”ほか貴重な特典を収録

本作を見て、格安で大量の荷物を配送する流通業界に大きな問題があることに目を向けた人も多いと思う。スマホやPCで簡単に何でも注文できるショッピングサイトがどのように運営されているのか、注文した商品が格安で玄関先に届けられるまでにどんなことが起きているのか。現代社会の問題をあくまでエンタメ作品の中で描くことで、幅広い層に問題定義するのは、社会派エンタメに定評のある野木の真骨頂。シェアード・ユニバースで興味をもたせつつも、流通業界の問題を幅広く知らしめることができ、今作の成功には大きな手応えを感じているのかと思いきや、野木は「宅配便の荷物を一度で受け取るようになったという感想をたくさんいただいたことは嬉しい反響ですし、小さくても大事なことだとは思います。でも、やっぱり上の方というか、構造から変えていかなきゃいけない問題。この作品が果たして上の立場の人々にどれだけ届いたのかということは、やっぱりちょっとまだ遠いんだろうなとは思いました。なかなか世界はそうそう変わらない」と、満足はしていない様子。とはいえ、塚原が「自分自身も出来る限り置き配を選択するようになったし、実際のブラックフライデーの時まで上映されていたので、現実とリンクさせながら見てくれた人もいたのでは」、新井は「荷物を受け取る時に、感謝の言葉を伝えるようになった人は多くなったんじゃないかなという気がします」と、本作のメッセージが届いていることにも期待を寄せていた。

4月25日にリリースされるBlu-ray&DVDは、本編のみの通常版、特典映像ディスクと封入特典が付く豪華版やリミテッドエディションがある。リミテッドエディションには、ステンレスビアタンブラーや「置き配OK!」と書かれたマグネットなど、本作ならではの5つの限定グッズが付く。豪華版とリミテッドエディション共通の特典映像ディスクには、メイキングや満島ひかりと岡田将生の対談などの他、完成披露試写会などイベント映像集も収録。中でも『シェアード・ユニバース プレミア』は、「すごい華やかで豪華」(野木)、「横一列に並んだ姿はワクワクした」(塚原)と語るとおり、満島&岡田はもちろん、石原さとみや綾野剛や星野源など『アンナチュラル』『MIU404』のキャスト陣も一堂に会した貴重なイベント記録で、新井も「あれほどのキャストたちが1日で集まってきてくれたことは奇跡に近い。皆に愛された作品だと実感します」と振り返る。

本作は「何マイル(回)見た!」というリピーターも多かったそうで、作品が愛されたことはもちろんだが、伏線も多いだけに結末を知った上で見直したくなる映画となっている。「エレナの初登場シーンから、彼女がどういう思いでモノレールに乗っていたのか、『ふうー』という深呼吸がどういう意味だったのか、最後までわかった上で見るとその思いがわかる」(新井)、「細かいところまで作りこんでいるので、映像を止めて見ると『ここに何かいる』『なるほど、このカットはこうなっていたんだ』という楽しみ方もできるはず。キャスト陣の芝居でも、例えば『MIU404』の伊吹と志摩は、綾野さんと星野さんがちゃんと3年経たニュアンスのお芝居をしているので、そういうものも細かく見られます」(塚原)と、ソフトで何度も見て欲しいとアピール。

また、豪華版とリミテッドエディションの封入特典ブックレットには、野木自身が書き下ろした自作解説“noginote”をはじめ、塚原監督のコメント、相関図、キャラクター紹介などが掲載されている。特に必見なのは『アンナチュラル』『MIU404』の各BOXセットの封入ブックレットでも好評を博した“noginote”で、2021年に書いたという企画書の冒頭文や主人公の名前の由来、登場キャラクターの設定などが綴られている。物流用語に由来する本作のタイトルに込めた真意など、本作の根幹的な部分や狙いが凝縮された文章で明かされており、作品をより深く理解する上でぜひ読んで欲しいものとなっている。さらに豪華版とリミテッドエディションの本編ディスクには、塚原&野木&新井によるオーディオコメンタリーも収録。そこでは塚原自身による演出解説を含む多くの作品秘話などが、3人のコメンタリーとして語られている。

昨年末に放送された『海に眠るダイヤモンド』も好評を博したが、3人が組む作品への期待はますます高まっている。「周囲の期待が上がっているだけ」(野木)と、3人のスタンスは変わっていないようだが、それぞれ関わってきたすべての作品に思い入れがあるのはもちろんながら、「野木さんの脚本は、私にとってはやっぱり特別ですし、面白い」(塚原)、「力を入れないとできない」(新井)、「このチームのスタッフはしっかりしているので、画のリアリティがあるし、安心できる」(野木)と、特別な思いで取り組み、深い信頼関係で結ばれていることが窺える。3人で飲みながら次回作について話すことも多いようなので、まずは「ラストマイル」を見直して、同チームの新作にも期待したい。


文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

「ラストマイル」

●4月25日(金)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報こちら

●リミテッドエディションBlu-ray【数量限定版】 価格:15,400円(税込)
●リミテッドエディションDVD【数量限定版】 価格:14,300円(税込)
【ディスク】<3枚>※本編1枚+特典2枚
★特典映像★※Blu-ray&DVD共通
・メイキング
 -「ラストマイル」編   -「MIU404」編   -「アンナチュラル」編

・満島ひかり×岡田将生 最強バディトーク
・ナビ番組「ラストマイル 最強ドリームチーム大集結スペシャル」

・シェアード・ユニバースプレミア
・完成披露試写会

・LAST MILE -Premium Talk- 
 ティザーPV Episode.1 ラストマイル編 Episode.2 MIU404編 Episode.3 アンナチュラル編
・荷物を繋ごう!リレー
・特報、予告編、TVスポット集
★特典音声★※Blu-ray&DVD共通
・オーディオコメンタリー(塚原あゆ子×野木亜紀子×新井順子)
★封入特典★※Blu-ray&DVD共通
・超豪華オリジナル限定5大特典
 ※“シェアードユニバーススペシャルイラスト”が描かれたDAILY FASTデザインBOX 仕様! ステンレス製ビアタンブラー ポップコーンペーパー(2個) クリアカード(2種) 置き配マグネット
・ブックレット(脚本家・野木亜紀子によるライナーノート“noginote”を掲載)


●豪華版Blu-ray 価格:9,680円(税込)
豪華版DVD 価格:8,580円(税込)
【ディスク】<3枚>※本編1枚+特典2枚
★特典映像★※Blu-ray&DVD共通
・『リミテッドエディションBlu-ray』と同仕様


通常版Blu-ray 価格:5,280円(税込)
●通常版DVD 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>
★特典映像★※Blu-ray&DVD共通
・特報、予告編、TVスポット集


●2024年/日本/本編128分
●監督:塚原あゆ子 
●脚本:野木亜紀子
●主題歌:米津玄師「がらくた」 
●プロデューサー:新井順子
●出演:満島ひかり 岡田将生
 ディーン・フジオカ / 大倉孝二 酒向芳 宇野祥平 安藤玉恵 丸山智己 
 火野正平 阿部サダヲ
 「アンナチュラル」 石原さとみ / 井浦新 窪田正孝 市川実日子 竜星涼 飯尾和樹(ずん) / 薬師丸ひろ子 松重豊
 「MIU404」 綾野剛 星野源 / 橋本じゅん 前田旺志郎 / 麻生久美子

●発売元:TBSスパークル 発売協力:TBSグロウディア 販売元:TCエンタテインメント
©2024 映画『ラストマイル』製作委員会

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