映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「ただ、愛を選ぶこと」

青春の空を滑走した先で、痛みの重さを知る

マリアのブログを通して、自然豊かなノルウェーの農場で可能な限り自給自足の生活を送るペイン家の生き方に魅了されたというシルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン監督。作品としては完成しなかったものの、かつて一家にカメラを向けた経験を持つ。そんな彼女が10年ぶりにニックらと再会。大切な人を失った彼ら彼女らに寄り添いながら撮影を続け、今作を完成させた。

森の木を切り、畑を耕し、家畜を育て、家族で語り、笑い合っていたペイン家。その創造的で完璧な生活のバランスは、マリアの死によって大きく崩れる。父ニックは、最愛のパートナーを失った悲しみに加え、ホームスクールを続けることについての不安や経済的な圧迫、異国で暮らし続けることの寂しさに悩む。長女のロンニャは妹や弟たちの力になれないことを気に病んでいる。次女フレイアは笑いを忘れてしまった父のことを気遣う。

やがて、維持できなくなった農場を離れ、新しい家で暮らし始めた一家に少しずつ変化が現れる。フレイアは小学校に通いだし、先生や同級生たちと新しい人間関係を築く。その姿を見ていると、「誰にも支配されず、何ものにも捉われず自由と愛に満ちた人生を送りたい」と語っていたマリアの理想は、家族という関係のなかだけで実現するのではなく、外に向かっても広く開かれているのだということがわかる。もちろん、新しい世界でタブレットPCやインターネットゲームにふれてしまった子どもたちは、父や母の求めた生活から離れてしまうかもしれない。しかし、マリアの言葉や写真が随所に挟み込まれるこの映画を見ていると、家族を結びつけている〝愛〞に立ち返れば、きっとどんなことでも乗り越えていけるはずと思えてくる。

文=佐藤結 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2025年5月号より転載)

 


「ただ、愛を選ぶこと」

【あらすじ】

ノルウェー人のマリアとイギリス人のニック。自然のなかで自由に生きようと決めたふたりは、4人の子どもたちとともに森に囲まれた農場で豊かな時間を送っていた。しかし、一家の中心で写真家として家計を支えていたマリアの突然の死によって、彼女の連れ子だったロンニャは実の父と住むことを選択。ニックと3人の子どもたちも大きな変化を迫られる。

【STAFF & CAST】

監督:シルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン
出演:ニック・ペイン、ロンニャ、フレイア、ファルク、ウルヴ ほか

配給:S・D・P
2024年/ノルウェー/84分/Gマーク
4月25日より全国にて順次公開
© A5 Film AS 2024
公式HPはこちら

 

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