【あの頃のロマンポルノ】日本映画批評『少女娼婦けものみち』

 日活ロマンポルノは生誕50年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。

 今回は、斎藤正治氏による「日本映画批評『少女娼婦けものみち』」の記事を、「キネマ旬報」1980年5月下旬号より転載いたします。

 1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく!

日本映画批評 『少女娼婦けものみち』

▲『少女娼婦 けものみち』より

 「いけいけカラスオイラの分まで運んでくれ……」、という音楽ではじまるこの映画、女のバイタリティと、男の性の無常感を描き出した映画といえる。

 

 神代辰巳はここでも小道具に、自転車を使っているのである。この性的プロレタリアートたちの肉体の”つながり”は、自転車を使った手づくりの空間しかないようだ。性は日常的なものだ、とばかりに、自転車が重要な役割を果すのは、神代映画にいつも特徴的だ。自転車に乗っていって行なう行為は、たとえば男が女の人差指をそりかえして、痛いだろう、といえば、女は我慢する、そういう映像としては、ほとんど無用と思えるシーンに、神代は男や女の生理を含めて、表現する。ほとんど何の役にも立たない、いってみれぽ無用の描写のなかで、彼は主題をつらぬいていくのである。

 男がカモメを一羽、石でうちおとした。この石落としの手づくりは、自転車にもつながるのであって、全体のテーマは、ごく日常的な性に収斂していく。巨大な機械文明に象徴されるいまの世の中で、いかに性を含めた個人の作業が可能か、を神代は問うているように見える。

 誰のかわからない子をはらんで、女にとっては誰の子でもいいと思っているのに、男同士は確信が持てないながら、しかしオレの子だと言い張っている姿がなんともおかしい。

 天才的に、女の本性が見えてしまうスケコマシと、純情一途のはじめの男と、とりあえず比較しながら、主人公サキは結局、スケコマシの男といっしょになっていく。女には純情な初体験者よりも、ヘヘへよがるための男のバイタリティが欲しかったのだ。

 シナリオでいう「闇の中で擦られる一本のマッチ」の描写はなかったし、岸田理生が夢想する物語のような展開はしなかった。しかしこの映画には、多分岸田が描いただろう父恋の唄はあった。

 あるにはあったが、それほど歴然としていたわけではない。そういうところは、匂わせる程度にして、神代はやはり、岸田とは別の、神代自身の世界を描いたのである。

 サキが自分の愛した人形を割るところで、それはカモメが墜落するシーンとして描かれるといったように、墜ちるカモメは随所にインサートされる。墜死するカモメは、実はこの映画のモチーフのようである。

 かつての女とつるみ合っている男の足を、たずねてきたサキが刺す。この突然の行為は男も、寝ている女も驚かすが、サキはその包丁を洗いもせずに、台所で使って、料理をはじめる。”強い”女を描いてなかなかみごとである。

 全体として粘着する映像のなかで、神代はやはり、性の日常的なアナーキーを、どうしようもない倦怠のなかで描いた。そこにいいようのない無常感がただよっていた。

文・斎藤正治
「キネマ旬報」1980年5月下旬号より転載

 
 
 
 
 

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監督: 神代辰巳 脚本:岸田理生、神代辰巳
価格:2,200円(消費税込み)
発売:日活株式会社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

 

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