新米教師を追った「ヘィ!ティーチャーズ!」、ミニシアター豊岡劇場が配給したワケは?

ロシアの地方都市に赴任したふたりの新米教師が、“教えること”の理想と現実のギャップに直面する姿を追ったドキュメンタリー「ヘィ!ティーチャーズ!」が、6月25日(土)よりユーロスペースほかで全国順次公開。配給した兵庫のミニシアター〈豊岡劇場〉の館主・石橋秀彦氏よりメッセージが届いた。

 

     

 

プーチン政権により閉鎖に追い込まれた〈Radio Free Europe/Radio Liberty〉のディレクターであるユリア・ヴィシュネヴェッツのメガホンで、多様な意見が飛び交うありのままの教室を捉えつつ、ロシアだけにとどまらない教育システムや教師の働き方をめぐる問題を浮き上がらせた「ヘィ!ティーチャーズ!」。

8月をもって一時閉館する豊岡劇場の代表・石橋秀彦氏が配給に至った思いを綴ったメッセージは、以下の通り。

 

コロナ禍が始まってきた2020年2月、初めてベルリン国際映画祭へ行きました。そして翌年のベルリン国際映画祭2021がオンラインになり、その際に出会ったのがこの作品です。

2020年のベルリンでは、映画祭で上映される作品のシノプシスを片っ端から読み上げ、日本と言う市場の中で、どのような作品が観客にとって観たい作品なんだろうかと、映画館の立場から考えました。その際にこだわったのは、やはり日本でも世界でも共通して起きている社会的な問題をテーマにした作品を、紹介していきたいと思ったのです。

「教育」は、どの時代にも大切で普遍的な議論です。学校で学ぶこと、これは何百年とかけて各国の市民が得てきた権利です。しかし知識を得ることは、社会的な差別も起こるのでは、と僕は思うのです。知識を得た者と得られなかった者の間には、社会の中で大きな差があり、わざわざ勉強して知識を得た者は、知識を得られなかった人々に対して冷たいものだと思います。それもそのはず、自分が努力をして知識を得たわけですから。

地方に住んでいる私は、都会と地方との間にもこれと同じ様な差を感じてしまいます。コロナが全世界を襲い、今まさにまた自分たちの「価値観」が問われる中、社会の足元を見直す、他国の文化を見て自分たちを見直す、というような問いかけをしてくれる作品です。

ユーロスペースで上映が決まり始める今年の2月、実はウクライナのメディアエージェンシーの方と商談中でした。ウクライナでの映像制作の話をしている矢中に、ロシア軍の侵略が始まったのです。すぐさまにエージェンシーから、日本のメディアに正しい情報を届けて欲しいと、ウクライナ国会のYouTube放送局を日本のメディアに紹介した経緯があります。

そしてこの作品も、「教育」と言う観念だけではなく、政治的な意味を持つ作品となりました。なぜロシアがウクライナに侵攻したのか?普通のロシア人は何を考えているのか?この作品の配給元会社も、現在はロシアを離れ海外で活動を再開しています。

私が運営している豊岡劇場は、地方の弱小映画館です。コロナ禍により経営が厳しくなり、少しでも映画関連の収入を増やすために、副業として配給を始めた訳ですが、この作品が最後の2本の内の1本となりそうです。8月には私の元での劇場運営は終わりますが、次の世代が映画館を続けてくれる兆しがあります。是非、豊岡劇場を応援してやってください。

 

豊岡劇場とは……
兵庫県の日本海側に位置する豊岡市の映画館で、通称「豊劇」。1927年に芝居小屋として始まり、社交ダンスの場、戦時中は倉庫、そして映画館と大衆文化の場として長く地域住民に愛されてきた。
2012年3月末に閉館するも、再び文化の拠点を作りたいとの思いから、CINEMACTION豊劇・豊岡劇場として2014年12月27日に再開。映画上映だけではない新たな「場」の創出を目的に運営してきたが、2022年8月末をもって一時閉館することが発表された。

 

© OkaReka

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