“この脚色は詩のためになっているか?”「グリーン・ナイト」デヴィッド・ロウリーがオンライン舞台挨拶
- アリシア・ヴィキャンデル , バリー・コーガン , グリーン・ナイト , デヴィッド・ロウリー , ジョエル・エドガートン , ショーン・ハリス , デヴ・パテル , サリタ・チョウドリー , ケイト・ディッキー , ラルフ・アイネソン
- 2022年11月28日
アーサー王の甥である若者サー・ガウェインの奇妙な冒険と成長を描いた14世紀の叙事詩『サー・ガウェインと緑の騎士』を、俊英デヴィッド・ロウリーが大胆に脚色して映画化したダークファンタジー「グリーン・ナイト」が公開中。封切日の11月25日(金)に吉祥寺オデヲンで行われたデヴィッド・ロウリーのオンライン舞台挨拶のレポートが到着した。

まず監督は「この映画を作ることは自分にとってものすごく大きな体験でした。それが2022年11月、こうして皆さんに届いていることを実感してすごく嬉しく思っています」と挨拶。
原典詩との出会いについては「大学1年の時に初めて読んだんですが、ものすごい衝撃を受けて、暴力的なものに惹かれていた自分にすごく響いたんです。でも、それと同時に自分の核へ向かう旅であることがテキストにしっかり織り込まれていて、その頃からずっと心に引っかかるものがあったんです。それで20年経ち中世を舞台にしたファンタジーを作りたいと思った時に、この詩を思い出して、読み直したらとても深遠で心に響くものがあり、すぐ脚色したいと思い立ちました」と振り返る。
脚色にあたり大事にしたことは「原典の中で一番自分に響いたのは、個人の名誉よりも品格の方がずっと大きいということでした。だからそれを描きたかったんです。テキストを映像にするために脚色する上でどうしても変えなければならないことは出てきますが、僕は本当に心からこの原典である詩を愛しているので、“詩のためになっているか?”ということを常に考えながら変更していきました」と説明。
デヴ・パテルやアリシア・ヴィキャンデル(一人二役)をキャスティングした理由は「はじめは、自分の中でガウェインを誰に演じてもらえばいいのか……というイメージがなかなか沸いてこなかったんです。そんな中でデヴと食事をしたんですが、彼が主演である作品、それこそが自分が作るべき正しいバージョンであると感じ、絶対彼だと思いました。それからこの詩は、隠された両面性がテーマでもありますが、アリシアと会った時に“彼女は一役では足りない。もっと出演させなければならない”という思いに駆られました。それで彼女をイメージしながら二役を当て書きしました」と明かす。
ガウェインの前に現れる巨人たちが、いずれも女性の姿であることについては「それが女性であることが正しいと感じたというのに尽きるんです。僕は映画を作る時に、あまり知的な分析をし過ぎないのがいいと感じています。映画は私たちの深層意識から来るものだと思っているから、直感で正しいと思えばそれでいいと思うのです。とても美しくて大きい巨人たちが、我々のこの世界を後にしていくシーンですが、どんなルックスがいいか考えた時に全員女性だと自分の中でスッと腑に落ちました。だから、それ以降自分で深く分析することはあえてしていません」とのこと。
その上で「でも面白いのは、製作当時に決めたことがこういう理由だったのかと後になって分かったりするんですよね。観客の皆さんが“私はこんな風に思っていました”と言ってくれる中で、“当時はそんな風には考えもしなかったけどそうだったのか”と気づくこともあるんです。このシーンは自分の一番好きな場面で大きな意味もありますが、皆さんそれぞれに感じていただきたいので、どういう性格のシーンなのか僕からお話するのはやめておこうと思います」とした。
観客に人気のキツネについては「このキャラクターは原典詩にも登場しますが、人間なんです。でも僕は、人物のキャラクターをこれ以上増やすべきではないと考えていました。ただ、このキャラクターがガウェインに提案することや彼との対話で出てくるものはすごく重要で、ガウェインの選択にも繋がるから、セリフとして残すべきだと思ったんです。それで、これは魔法のある世界だから言葉を話す動物がいてもおかしくないだろうとキツネにその役割を担ってもらうことにしました」と述べ、さらに「僕は、映画の中で人間の言葉を話すキツネが大好きなんです(笑)。ウェス・アンダーソンの『ファンタスティック Mr. Fox』やラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』など、今までの映画における“人間語を話すキツネ”の素晴らしい歴史に僕も名前を連ねたかったという気持ちもありました。実際に登場させてみて、すごく気に入ったので登場シーンを増やしたほどです」と茶目っ気を見せた。
たった一冊のみ現存する原典詩写本のイラストが、劇中で一瞬だけ映し出されることについては「これは編集の最後の段階で加えたもので、この場面で光った瞬間に何かが隠れていたら面白いんじゃないかと思い、オリジナルのイラストレーションを入れました。結果的によかったと思っているのは、その場面は原典にかなり忠実なシーンになっているので、原典への楽しいオマージュとして見ていただければと思っています」。
最後に、騎士という進むべき道を前に未熟でどこか頼りない主人公ガウェインと、映画業界に足を踏み入れた頃の監督自身に共通点はあると思うか? ガウェインに声をかけるとすると、どんな言葉ですか? というSNSで寄せられた問いに対し、「自分が映画業界で得てきた体験や辿ってきた道のりとガウェインの旅路が似ていると言えるのか、考えたこともありませんでした。ただ、僕自身は自分の作品と自分自身を切り離すことができないと思う映画作家です。若い頃から映画監督になりたいと思い、おそらくガウェインも幼い頃から騎士になりたいと思っていたはずで、そういう意味では共通するところもあるかもしれません。脚本を書く時に、いつも主人公を自分の立場に置いてみることを必ずしています。今回の脚色にあたって、原典から変えていった部分は自分に近づけていった行為とほぼ同じでもありました。若い頃、自分で自分の夢を叶えるためのモチベーションをどうしても上げられずに、自分がなりたい姿に近づくために時間がかかってしまった中で、大きな力になってくれたのが母親でした。“家から外に出て行きなさい、世界をもっと体験しなさい”と背中を押してくれたんです。それこそ、この映画のガウェインの母親と同じように。ガウェインにアドバイスすることは当時の自分へのアドバイスにもなるんですが、外の世界を見ること、世界から隠れないこと。自分が温かくて安全な居心地のいい場所に留まらずに一歩踏み出そうということを言うと思います」と回答した。
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配給:トランスフォーマー
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