「白痴」「ばるぼら」などで知られる映画作家・手塚眞がライフワークとして創り続けている短編アート映画の特集上映〈Visualism〉が、2022年11月19日(土)よりシアター・イメージフォーラム、京都みなみ会館、新潟 シネ・ウインドなど全国ミニシアターで順次開催されている。
アニメーションからダンス、音楽、さらに永瀬正敏や草刈正雄など俳優とコラボしたものまで内容は多彩。最新作・未公開作も含めた1987〜2022年制作の計12本を3つのプログラムで上映し、手塚監督のトークショーも行われる。今後の直近開催は2023年2月18日(土)より新潟シネ・ウインドにて。
【上映作品】
■プログラム Black
「OKUAGA」(2016/デジタル/20分)
出演:松崎友紀 撮影:辻健司 音楽:田口雅之
新潟県阿賀町で撮影された第1作は、ダンスとカメラの完全な即興による奇跡のアート。イメージフォーラム・フェスティバル2016招待作品。
「HINOHARA」(2022/デジタル/40分予定)★最新作初公開
出演:Nourah、芹川有里、他 撮影:辻健司 音楽:赤城忠治、他
東京都唯一の村、檜原村。首都の辺境を3年に渡り取材。古代の原風景から貴重な祭りの情景までをイメージ豊かにモンタージュしてゆく。時空や意味を映画的に超えたフリーフォームの作品。
「TUNOHAZU」(2021/デジタル/32分)★最新作
出演:Cay 撮影:辻健司 音楽:PHONOGENIX
「角筈」とは新宿の古名。作者が愛し続ける街、新宿をモチーフに、ダンサーの肉体を通して描かれるフィジカルなコスモポリス論。イメージフォーラム・フェスティバル2022東アジアエクスペリメンタル・コンペティションノミネート作品。

■プログラム Blue
「NUMANITE」(1995/35mm→デジタル/23分)
出演:田中久美子、宮本はるえ、神林茂典、甲田益也子(ナレーション) 撮影:藤井春日 音楽:橋本一子
「水」をモチーフにした美しい幻想譚。沼の底に棲む姉妹とその恋人の物語は、時間と共に歪み始める。1996年ミュンヘン映画祭招待上映。クレルモン=フェラン映画祭招待上映。
「NARAKUE」(1997/16mm→デジタル/44分)
出演:倉田和穂、櫻田宗久、小野みゆき、草刈正雄、ほか 撮影:藤井春日 音楽:橋本一子
「土」をモチーフにした地底の映画。映像による地獄巡りとも言える。50シーンを1カットに繋ぐ驚愕の構造が世界でも高く評価された。
「実験映画」(1999/35mm→デジタル/40分)©KADOKAWA
出演:永瀬正敏、橋本麗香 撮影:藤井春日 音楽:橋本一子
「廃墟の中で一人の少女を映画に撮ること。期限は一週間。」謎の依頼から始まる映画撮影は想像を超えた展開を見せる。永瀬正敏、橋本麗香というプロの俳優を使い、実際に一週間で撮影された脚本の存在しない映画。
「ダニエルとミランダ」(1996/16mm→デジタル/5分)★デジタル版初公開
アニメーション:手塚眞 音楽:橋本一子
手塚眞の手書きによるシンプルなアニメーションは「NUMANITE」の変奏曲。「もし絵コンテが動いたら」という発想から生まれたキュートな小品。


■プログラム White
「MODEL」(1987/16mm→デジタル/10分)★デジタル版初公開
出演:Evelyn 撮影・アニメーション:手塚眞 音楽:土屋昌巳
手塚眞実験映画の初期の代表作で、写真コピーを使ったアニメーション。上下に流れるシンプルな動きは次第に複雑なモンタージュを生み出してゆく。ミニマルアートのスタイルから発展してゆくイメージの多様性。1987年ケルン・フィルムセンター。1989年ロンドン映画祭。1990年香港映画祭。
「燐」(1993/16mm→デジタル/3分)★デジタル版初公開
出演:えとうなおこ 撮影・アニメーション:手塚眞 音楽:大津真
燐の光のような仄かなイメージをフィルムに定着。日本的な美の表現である「余白」や「移ろい」を映画の中で描いた動く絵画。写真のコピーのみを素材に使い、繊細なディゾルブも全てコピー機の中で行っていることが興味深い。
「MIND THE GAP」(2020/デジタル/24分)★初劇場公開
出演:サヘル・ローズ、田中玲、ほか 撮影:辻健司 音楽:松岡政長
反復するフィルム・ノワール。スリリングに崩壊する構造の美学とユーモア。映画のメカニズムに踏み込んで破壊し、そこから新たな美学を組み上げる力作。
「謎 AENIGMA」(2021/デジタル/46分)★初公開
出演:植田せりな、Nourah、蜂谷眞未、峰のりえ、ほか 撮影:辻健司 音楽:GHOST HARMONIC
漢字一文字から想起させるビジョンを俳句のようにシンプルなエピソードにまとめ上げた短編集。「幽」「玄」「杳」の三つのエピソードはそれぞれ全く趣向を異にする。手塚眞が近年取り組むミニマルで静的な映画の旅。
「変容」(2022/デジタル/30分予定)★最新作初公開
出演:蜂谷眞未、岡田帆乃佳 撮影:辻健司 音楽:橋本一子、田口雅之
世界は変容していくのだろうか? 手塚眞の最新作は世界的なパンデミックの中でインスピレーションを得たシリーズ作品。表と裏の同時存在、多層的宇宙、ジェンダーを超えた存在といった現代的なテーマを孕んでいる。


【手塚眞監督コメント】
100年前、映画は最先端のアートでした。現在、映画は消費されるだけの商品と成り果てています。そこには脳の活性化も感性への刺激もありません。文化が経済に追いやられている今だからこそ、もう一度映画をアートに昇華させる必要を感じています。あえて劇場上映というスタイルで、文化の前衛としてのアート映画をぜひ体験してください。
【ヴィヴィアン佐藤(ドラァグクイーン、美術家)コメント】
手塚監督の映像群を俯瞰すると「新宿」の匂いがする。それらはひとりの人間が作り上げたとは思えないほど多様で多次元、もしくは分裂的傾向を持つ。「新宿」も多様なイメージを持つメトロポリタンだ。それらは決して混ざり合わないが、一定の距離を保ちつつ共存する夜空の昴(すばる)のような光源群。地球から見える昴の様に、まるで互いを引きつけ合う不可視の「引力」を目撃出来るかもしれない。
【トースティー(アーティスト、歌手)コメント】
神代に潜む五大元素の記憶をリスペクトしつつ斬新なアーキタイプを常に探索!その実験は縦横無尽なサーカスのよう!スクリーンに溢れる湿度は主観と客観が同等に交わる純度の高さ!よって思考停止で全身で浴びるべし!浴びる映画!!大好物!!
【洪相鉉(映画ジャーナリスト)コメント】
ほとんどの映像作家が陥りやすい罠がある。ナラティブに執着するあまり、映像言語(Film language)の独立性を見過ごすこと。悲劇の流れは「量産型映画」がのさばる現象に帰結し、これは今の日本映画でも顕著である。『Mind the gap』はこの現実に屈せず、ジョルジュᆞメリエスの世界観を継承した希有のヴィジュアリスト・手塚眞の逆襲のようだ。永遠が感じられる23分36秒が過ぎると、笑みを浮かべながら安堵する私がいる。手塚眞の美学的冒険がまだ現在進行形であることに気づいた喜びだ。確かに彼と同時代に共存し、全ての旅路を見守ることができることは、大きな幸運に違いない。
©有限会社ネオンテトラ
映倫区分:G
公式HP:https://flyingfoxfilm.com/visualism