アメリカ初公開から40年、いまだ古びない「スランバー・パーティー大虐殺」が伝説であり続ける理由
- ロジャー・コーマン , スランバー・パーティー大虐殺 , パジャマ・パーティー , エイミー・ジョーンズ
- 2023年02月15日
B級映画の帝王として知られるロジャー・コーマンが製作、海外ではスラッシャー映画のマスターピースとして絶大な人気を誇る「スランバー・パーティー大虐殺」が4月5日、Blu-ray&DVDで発売される。1982年に封切られたアメリカ映画だが、日本では今年1月に劇場初公開、映像ソフトもHDリマスターの高画質で初めて発売となる。
MIT映画科出身の女性監督はなぜ “お下品ホラー” を監督したのか
まずは「スランバー・パーティー」とは何か説明しよう。スランバー(Slumber)=居眠り、休眠の意で、日本では「パジャマ・パーティー」と訳されることが多い。すなわちアメリカの十代女子が友達の家に集まり、夜明かしで盛り上がるホームパーティーだ。両親が留守の夜、女子高生が部屋着でゴロゴロしながら異性の話題で盛り上がる男子禁制の女子会は、男性にとってはエッチな妄想の対象だ。よってティーンズ映画やホラー映画の格好の舞台になり、数多くの作品が題材にした。
そのようなジャンル映画であるから、本作もストーリーは非常にシンプルだ。高校の女子バスケット部員が両親が外泊した子の家に集まりパーティーを開いた夜、誰とも関係のないサイコパス中年男が電気ドリルを持って唐突に襲撃、次々と女子をドリルで突き刺し惨殺していく、それだけの展開だ。絶叫、そしてお色気シーン、さらに絶叫の繰り返し。シャワーシーン、男子学生の乱入や覗き、こっそり彼氏と会っていたイチャイチャしていた子があっさり餌食に…などお約束シーン満載で飽きさせないのはもちろんだが、それだけで本作が伝説化したわけではない。むしろ本作の魅力はジャンル映画のお下品なムードを保ちつつ、緻密な画面構成や巧みな編集で魅了する点にあった。
1982年に発表された本作はエイミー・ジョーンズの初監督作品だが、彼女は90年代にロバート・レッドフォードとデミ・ムーアが共演したラブロマンス「幸福の条件」(93年)やアレック・ボールドウィン、キム・ベイシンガー主演のリメイク版「ゲッタウェイ」(94年)で脚本家として成功、近年はTVシリーズ「レジデント 型破りな天才研修医」(2018年~)の企画・製作総指揮・脚本で大活躍している。もともとMIT(マサチューセッツ工科大学)の映画科に学び、アメリカン・フィルム・インスティチュートの学生映画祭で優勝という才能の持ち主で、映画祭の審査員だったマーティン・スコセッシは彼女を「タクシー・ドライバー」(76年)の監督助手に呼んだという。
低予算映画の監督をとるか、「E.T.」の裏方をとるか
その後フィルム・エディターとして頭角を現した彼女は監督になる夢捨てがたく、当時のニュー・ワールド・ピクチャー社長ロジャー・コーマンに懇願、オクラ寸前だったリタ・メイ・ブラウンの脚本を使い本作のパイロット版を撮って認められ、制作費25万ドルで本作を完成させる。彼女は同じタイミングでスピルバーグの「E.T.」(82年)の編集作業のオファーが来ていたというから、彼女にとって初監督は大きな決断だった。
このような才女の演出による「スランバー・パーティー大虐殺」はその通俗的で暴力的な内容にもかかわらず、多くのファンを作り出した。そもそもこの映画はホラーなのかコメディなのか。絶妙なタイミングで大げさな残酷カットが次々と登場する本作は、試写会では見せ場のたび大爆笑が起きてエイミー監督を当惑させた。しかしプロデューサーのコーマンは「最高のプレビューだな」と絶賛。彼の自伝「私はいかにハリウッドで100本の映画をつくりしかも10セントも損をしなかったか」(早川書房)の中でも「この映画はある意味で、ニュー・ワールド最高の作品といってもよいものだった」と賛辞を残している。
ホラーでありコメディ、そして女性映画でもある映画的含みの豊かさ
この映画が作られた1982年といえばホラー映画は全盛期を迎えていた。「悪魔のいけにえ」(73年)はすでに10年前にあったし、「ゾンビ」「ハロウイン」(78年)、「13日の金曜日」(80年)、「死霊のはらわた」(81年)など斬新な恐怖映画が続々と公開されている。ただ本作のように恐怖と笑いが鮮やかにブレンドされた映画はまだ少なく、ゆえに新しい傾向として受け入れられたのだろう。その後の「悪魔のいけにえ2」(86年)や「死霊のはらわたII」(87年)がストレートなホラーからコメディへとシフトした背景や、後年の「スクリーム」(97年)シリーズなどへの影響を感じる。
暴力的な男性が電気ドリルで若い女性を次々と貫いてゆく、それはまさに男性視点のセックスのストレートな比喩だが、本作は監督、脚本ともに女性であり、それが映画を興味深いものにしている。本作を女性映画として見れば、スランバー・パーティーにおける少女たちの入り組んだ人間関係、最後に殺人鬼を倒すミシェル・マイケルズとその妹との愛憎など、ショック場面以外のところで人間味を細かやかに描写していし、殺人犯の倒され方に、男性にやられっぱなしにならないと主張する女性の強い意思表明が感じられる。ドリル殺人鬼の最期に隠されたメッセージを見れば、これは歴然と女性の映画である。ちなみにコーマンが制作した2本の続編(第2作『マドロック・キラー』87年、第3作『狙われた女子高生/スタッブ・イン・ザ・ダーク』90年)と2021年に南アフリカで撮られた同名のリブート作もすべて女性監督で撮られているのも意味深である。
このような含蓄の豊かさこそ、本作を公開から40年を経て古びないものにしている。この見事なテクニックで緻密に演出された映像を、映画製作を目指す人たちは優れたカッティングの教科書として参考にするべきだ。Blu-ray特典として収録された監督や出演者らの貴重なインタビューを含む約23分のメイキング回顧録も必見。殺人鬼役のマイケル・ヴィレラの発言には発見が多く感銘を受ける。ぜひとも手元に置いておきたい一枚である。
文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社
「スランバー・パーティー大虐殺」
●4月5日(水)Blu-ray&DVDリリース▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray:5,170円(税込)
【映像特典】(約40分)
・メイキング回顧録 約23分
・隣家の男(リッグ・ケネディ)約13分
・予告編(シリーズⅠ.Ⅱ.Ⅲ)約4分
・フォトギャラリー
●DVD:4,180円(税込)
【映像特典】
・予告編(シリーズⅠ+Ⅱ+Ⅲ)
●製作1982年/アメリカ/本編77分
●出演:ミシェル・マイケルズ、ロビン・スティル、マイケル・ヴィレラ、デブラ・デリソ、アンドレ・ホノレ
●監督:エイミー・ジョーンズ/脚本: リタ・メイ・ブラウン/プロデューサー:アーロン・リップスタッド、エイミー・ジョーンズ/撮影:スティーヴン・ポージー/編集:ショーン・フォーリー/音楽:ラルフ・ジョーンズ
●発売・販売元:株式会社アクセスエー 販売協力:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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