真の多様性とは?「ライフ・イズ・クライミング!」のコンビが特別授業で高校生と白熱トーク
- ライフ・イズ・クライミング! , 小林幸一郎 , 鈴木直也 , 西山清文 , エリック・ヴァイエンマイヤー , 中原想吉 , Chihei Hatakeyama , MONKEY MAJIK
- 2023年04月19日
視力を失ったクライマーのコバ(小林幸一郎)と視覚ガイドの相棒ナオヤ(鈴木直也)が、アメリカで想像を超えるクライミングに挑むまでを描いたドキュメンタリー「ライフ・イズ・クライミング!」が、5月12日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。《ダイバーシティの実現に向けてできること》をテーマに、ふたりが4月18日(火)に東京都立西高等学校で行った特別授業のレポートが到着した。

特別授業には13名の生徒や保護者が参加し、小林幸一郎(以下、小林)と鈴木直也(以下、鈴木)を拍手で迎えた。前半のトークは、映画の感想を述べ、小林と鈴木が生徒の質問に答えていく形で進行。
小林のクライミングをガイドする鈴木が「マイクを使わずに地声で意思疎通を図っているという点が印象に残った」と生徒がコメントすると、
小林は「初めてナオヤと会った時から声の“力”を感じていたわけではないんです。いくつか大会に出場する中で、自分が勝てる理由を考えるようになったんですが、自分の努力だけではあんな結果は得られなかった──あの“声”があるから、自分の出せる力を出せている、『やってやる!』という気持ちになっているということに気づきました。テクノロジーの時代ですが、人間の力がそこにはあると感じています」と説明。
続けて、真のダイバーシティを実現するには何が必要かという議論に。
生徒が「国とか地域といった境目を最初からつくらず、“隣人(となりびと)”という意識を共有していくのが大事だと思います」と述べると、
小林は「これから皆さんの時間の中で、“国籍”だったり“文化”だったり、(自分と他人を)比較するような言葉が増えていくと思います。そういう境目を表す言葉について考えることで、垣根が下がっていくと思います」と語りかけた。
また別の生徒が「ハンデがある人とない人が関わっていく中で、自分や相手にハンデがあることを認めたうえで、それを卑下したりするのではなく、他の良いところや悪いところも見て、判断して付き合っていけばいいのではないか」と思案すると、
鈴木は「障害の有無を抜きにして付き合うのはハードルが高いと感じるかもしれないけど、僕は小林幸一郎という人間を見ていて、目が見えないとは思っていません。旅をしたり、生活する上でも『目が見えないけど大丈夫?』という感じで接することってないですし、むしろ置いてっちゃいます(笑)。ただ、僕もここまで来るには様々な経験をしています。それを超えられたのはその沢山の経験があったから。みなさんもこれからいろんな経験をすると思うけど、いま話してくれたような気持ちを忘れずにいてほしいです」「楽しみたければ楽しめばいいし、ちょっと助けが必要なら、ちょっとだけ助ければ楽しめるし、あんな(不思議な形をした)岩にも立てます。その“ちょっと”がその人を幸せにするし、自分も幸せになれます」と訴えた。
ふたりの信頼関係についても意見や感想が寄せられたが、小林は「映画をご覧になった方に、ナオヤと週に何回会っているの? よく飲みに行ったりしてるの? と聞かれたりするんですけど、会っても年に10回くらいです。『理解し合う』とか『信頼し合う』というのは、会っている回数でも時間でもない、もっと違う“何か”があるんじゃないかと感じています」と明かす。
また鈴木は「みなさん、目が見えないコバちゃんがいて、目が見える僕がいて、僕がコバちゃんをガイドするというイメージでいると思いますが、僕がコバちゃんに助けてもらっているところもあるんです。一方的ではなくキャッチボールがあるからこそ旅ができるんだと思います」と付け加える。
特別授業の後半は、小林の指導により生徒たちがガイドにチャレンジするワークショップ【天才画家と助手】が行われた。生徒たちはペアを組み、目隠しした1人(天才画家)が、もう1人(助手)に情報を伝えてもらいながら、スクリーンに映った写真(クライミングする小林を撮ったもの)をデッサンしていく。
生徒たちは、目の見えない状態で描くこと、そして伝えることの難しさを実感した様子。「フライドチキンみたいな形の岩が……」など、説明を工夫して奮闘する。
体験後、生徒たちは「実際に描くとなると、直線を書いても、どこにその線があるのかわからないし、『〇を描いて』と言われても『どこから?』という感じで……」「ガイドが『12時』とか『3時』などと時計の針で表すのは合理的なんだなと実感しました」などと感想を述べた。
小林は「今日、なんでこれをやってもらったか? これは『天才画家と助手』というワークショップです。でもみなさん、実際にやってみて、天才なのは目が見えない画家のはずなのに、助手は先生の手を取って、自分の目に見えるがままをそこに描かせようとしたり、目が見えていることがすべて正しいことであるかのようにふるまってしまったり、言葉にしてしまったりしませんでしたか? 人間は、目が見えないからってできないことばかりであるかのようにしてしまうものです。でも、天才画家が助手に何が見えているかを聞いて、先生が感じるがままを絵にしたものが、素晴らしいデッサンだったかもしれません。目が見えているから正しいと考えるのではなく、もっと自分が感じるがままをそのままお互いが受け止めて、自分に何ができるかを考えてもらうことが重要だと思います。それが見えない私たちと目が見えているみなさんとのコミュニケーションを活発にして、どうしたら世の中がもっと楽しくなるかということを生み出すきっかけになるんじゃないかと思います」と核心を説く。
授業の最後、鈴木は「障害のあるなしにかかわらず、いろんな人がクライミングをしています。パラクライミングというんですが、のちのち“パラ”というのをなくして、脚や手が不自由な人も、目が見えない人もひとつの“クライミング”というくくりで楽しむというのが僕らの最終的な目標です」と未来を見据えた。
そして小林は「映画を通じて『人生って楽しいよ』ということを伝えたかった。悔しい思い、悲しい思いをしたり、どうしていいかわからない壁にぶつかることもあるかもしれませんが、それも全部ひっくるめて『人生は楽しい』。僕はいつも、良いことは続きにくいけど、楽しいことは続くと思っています。良いことは、どこかに無理があったり、頑張らなきゃいけないけど、楽しいことは絶対に続きます。ほっといても楽しい気持ちがあればやりたくなります。自分の中で何が楽しいかを探し続けるような人生を追いかけてほしいと思います」と呼びかけ、会場は拍手に包まれた。
「ライフ・イズ・クライミング!」
出演:小林幸一郎、鈴木直也、西山清文、エリック・ヴァイエンマイヤー
監督:中原想吉
音楽:Chihei Hatakeyama
主題歌:MONKEY MAJIK「Amazing」
製作:インタナシヨナル映画株式会社、NPO法人モンキーマジック、サンドストーン、シンカ 配給:シンカ
2023年/日本/本編89分/5.1ch/1.90:1/UDキャスト対応
© Life Is Climbing 製作委員会
公式サイト:https://synca.jp/lifeisclimbing/ 公式Twitter:@LifeIsClimbing_