永久保存、家宝にしたいクオリティ! 時代を超えて鮮やかに蘇る『ウルトラセブン』
特撮の代名詞として世界中で知られる「ウルトラマン」シリーズ。その中でも屈指の人気を誇る『ウルトラセブン』の誕生55周年を記念して『ULTRAMAN ARCHIVES ウルトラセブン 4K UHD & MovieNEX』が7月7日にリリースされた。最新のテクノロジーで蘇った本編をはじめ、ファン必見の特典映像満載の本作について詳しく解説する。
円谷プロダクションが「空想特撮シリーズ」第1弾として『ウルトラQ』の放送を開始したのは1966年1月のこと。同年7月には第2弾『ウルトラマン』が放送され、空前の怪獣ブームが巻き起こった。いずれも高視聴率を獲得し、『ウルトラQ』の平均視聴率は30%超え、『ウルトラマン』に至っては平均35%を超えた。ところが、『ウルトラマン』は人気沸騰中だったにもかかわらず、手の込んだ特撮セットを含めて制作が追い付かなくなり、制作陣は全39話で終了させることを決めた。
その反省を踏まえて、後続の第3弾『ウルトラセブン』は半年の準備期間を置き、67年10月より放送開始となった。その間、東映が満を期して特撮テレビ番組に参入、『宇宙特撮シリーズ キャプテンウルトラ』を制作し放送したが、こちらは思ったほど視聴率が延びず、早くも「怪獣ブームは飽きられた」と囁かれる事態に。だが、『ウルトラセブン』で再びブームは盛り上がり、視聴率は30%台に回復。『ウルトラマン』より10本多い全49話が制作された。
大人をも魅了した卓越したドラマ、当時の台本も収録
放送されたのは1968年9月まで。約1年にわたってウルトラセブンとウルトラ警備隊が活躍する物語を、当時の子どもたちは大いに楽しんだ。ウルトラマンシリーズの中でも、『ウルトラセブン』がダントツの人気を誇るのは、特撮技術の素晴らしさ、精巧に作り上げられたミニチュア、個性豊かな宇宙人と怪獣の造形だけでなく、地球を侵略せんとする宇宙人との攻防を描いたSF要素、さらには異文化・異世界の生命体との相互理解・共存の難しさ、環境問題、社会風刺など、55年先の未来=現在にも通用するストーリーが展開されたからだろう。
第1期ウルトラマンシリーズを企画し、その礎を築いた金城哲夫氏を筆頭に、TVドラマ『傷だらけの天使』(74)『黄金の日々』(78)など数々のヒット作を手掛け、『異人たちの夏』(88)『その日のまえに』(08)など大林宣彦監督作品で知られる市川森一氏、『告白的女優論』(67)『エロス+虐殺』(70)『煉獄エロイカ』(70)など吉田喜重監督とのコンビで知られる山田正弘氏、金城氏と同郷の沖縄出身で第2期ウルトラシリーズの礎を築き、『がんばれ!!ロボコン』(74)『秘密戦隊ゴレンジャー』(75)を大ヒットさせた上原正三氏、『絞死刑』(68)『新宿泥棒日記』(69)など大島渚監督とのコンビで知られる佐々木守氏ら、錚々たるシナリオライターが脚本に参加している。
子ども向け番組ながら、大人をも唸らせた“神回”エピソードは伝説として、ファンの間で今なお語り草になっている。その台本がそのまま収録されているのも嬉しい限り。エピソードを観た後、改めて台本を読むと、そこに描かれたテーマがより浮き彫りとなって胸に迫る。
豪華仕様! 4K/HDRリマスターで甦った美しい映像、2つのリマスターを収録
そして今回、4K・HDR(ハイダイナミックレンジ)リマスターで甦った映像美に改めて感嘆する。昨今、過去の名作が4Kリマスター版となって再公開されるケースが増えてきたが、映画だけでなく、毎週観ていたTVドラマまでもが鮮やかに甦るのは本当に嬉しい。しかも今回のBOXには「4K/HDRリマスター版」だけでなく、過去のブルーレイより階調表現に優れた「MGVC」形式で「HDリマスター2.0版」を収録。2つのリマスターを見比べることができる贅沢な仕様となっている。
特典映像として「4Kリマスターメイキング」も用意されているが、16ミリのネガフィルム原版があるからこその再現だったことがよくわかる。いずれも自然な高解像感を実感。1コマ1コマの情報量は相当なものなのだろう。色彩や光や水の輝き、黒の深みが際立った印象の4K/HDRリマスター版は、制作者の意図するところがより明確に再現。16ミリフィルムの粒状性と相性が良いとされるHDリマスター2.0版は、SDRのモニタに最適なその絶妙な光と影のコントラストが素晴らしい。
今年の3月24日に逝去された『ウルトラマン』のスペシウム光線の生みの親、飯塚定雄さんに何度かお話を伺う機会があったが、何もないところから生み出すプレッシャーは相当なものだったとの苦労話を思い出す。(スペシウム光線では、定規を使い、真っ直ぐだが上下に何本も短い線を描き表現したという。)セブンのエメリウム光線も4Kリマスターで神々しく再現。豊かな光量が眩しい。
また昨年、東京都現代美術館で開催された『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』で惜しみなく披露された当時の特撮技術──ウルトラセブンやウルトラ警備隊のポインター、ウルトラホークのデザインを担当した美術総監督・成田亨氏の仕事ぶりはまさに日本の宝。加えて、現場で特撮美術を担当した池谷仙克氏をはじめとするスタッフ入魂の山間の基地からメカニックが発進するシーンや、空中での合体シーン、名シーンを生んだ数々のミニチュアセットのすばらしさも何度見ても飽きない。
故・井上泰幸さんからも、山間部に生える木々のミニチュアを作り、植え込んでいく作業について伺ったことがあるが、4K/HDRリマスター版だとその一つひとつのディテール、その緻密な仕事ぶりが手に取るようにわかる。それを一瞬で爆破し、破壊してしまう潔さ。CGIによる描写が増えてきた昨今、精巧なミニチュアをいくつも作り、現実世界に寄せるべくアイデアを絞って撮影した特撮シーンは日本の誇りだ。『ウルトラセブン』はリアルタイムで観た世代ではないが、再放送を子どもの時に観た衝撃と感動は忘れられない。地球を侵略しようとする宇宙人が本当にいるのだと思っていた。それほどリアルな番組作りに改めて頭が下がる。と同時に、「ゴジラ」「モスラ」「大魔神」「ガメラ」シリーズを劇場で鑑賞、家に戻ればウルトラマンシリーズをはじめとした特撮番組を観ていた世代だったことに感謝するばかり。その豊かな映像体験は、多くの人の人生に多大な影響を与えたに違いない。
見応えたっぷりの特典映像ドキュメンタリー「ウルトラセブン伝説」
実相寺昭雄監督、金城哲夫脚本の第8話「狙われた街」は、『ウルトラセブン』の中でも根強い人気を誇る“神回”エピソードの一つ。タクシー運転手が暴走し乗客に暴力をふるったり、パイロットだったアンヌ隊員の叔父が130人の乗客を巻き込む墜落事故を起こしたり、おとなしい青年が突然ライフルを強奪し乱射したりと、異常な事件が立て続けに北川町で起こる。
これは駅前で販売された煙草に仕込まれた赤い結晶体が原因で、地球侵略を目論むメトロン星人の実験によるもの。「地球を壊滅させるのには人間同士の信頼感をなくせばよい」と、モロボシ・ダンを潜伏先の古いアパートに呼び寄せ、ちゃぶ台を挟んで語る。表層的な壊れやすい信頼関係といった社会風刺もさることながら、そのシチュエーション、そしてぬかるんだ砂利場、古い昭和アパート、美しいオレンジ色の夕陽といったロケーションなどどれも群を抜いて秀逸。4K/HDリマスターで夕陽での戦闘シーンがさらに映える。
約2時間にわたる特典映像「ドキュメンタリー『ウルトラセブン伝説』」にはそんなエピソードにまつわるトリビアが満載。高視聴率を獲得した最終回では、ダンとアンヌの別れのシーンなどの演出を含めた解説に胸が躍った。モロボシ・ダンを演じた森次浩司氏(現・森次晃嗣)はじめ、アンヌ役の菱見百合子氏(現・ひし美ゆり子)、フルハシ役の石井伊吉氏(現・毒蝮三太夫)、アマギ役も演じた古谷敏氏らキャストほか、演出の満田かずほ(※「禾」へんに「斉」)監督、撮影の中堀正夫カメラマンらスタッフの貴重な証言を交えながら、益若つばさ氏、笠井信輔氏のナビゲートでウルトラセブンの魅力を、セブンにちなみ“7つの視点”で掘り下げていく。
なぜ『ウルトラセブン』が時代を超え、世代を超えて愛されているのか。史上類を見ない偏愛・特撮ドラマの魅力が詰まった豪華BOX。また一つの伝説となりそうだ。
文=岡崎優子 制作=キネマ旬報社
『ULTRAMAN ARCHIVES ウルトラセブン 4K UHD & MovieNEX』
●7月7日(金)リリース
▶詳細情報はこちら
●価格:88,000円(税込)
●収録話数:第1話~第49話収録 ※12話欠番
●オンライン映像特典(TSUBURAYA MovieNEX):ドキュメンタリー「ウルトラセブン伝説」/「4Kリマスターメイキング」ほか、今後追加予定あり
●収録特典:台本再生機能
●音声特典:5.1chサラウンド音声(4、7、10、15、21、25、26、32、36、41、42、48話)
●パッケージ仕様:三方背ボックス/デジスタック/32P解説書/TSUBURAYA MovieNEXコード封入/ピクチャーレーベル仕様
●1967年/日本/本編1210分
●出演::中山昭二、森次浩司(現・森次晃嗣)、菱見百合子(現・ひし美ゆり子)、石井伊吉(現・毒蝮三太夫)、阿知波信介、古谷敏、藤田進 ほか
●監督:円谷一、野長瀬三摩地、満田かずほ(※かずほは「禾」へんに「斉」)、鈴木俊継、実相寺昭雄、飯島敏宏、安藤達己
●脚本:金城哲夫、山田正弘、菅野昭彦、若槻文三、上原正三、佐々木守、市川森一、藤川桂介、南川龍、赤井鬼介、山浦弘靖、川崎高
●発売元:円谷プロダクション 販売元:ポニーキャニオン
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