「安五郎出世」のストーリー

瀬戸内海に面した西浜村。名物が三つある。一つ西浜の小ン便水、二つ喇叭のさかり馬、三つ般若の暴れん坊。--その般若の鉄が刑務所から帰村するというので、村長以下は恟々として出迎えた。と、歓迎の喇叭に昂奮した名物さかり馬が村娘を追いかけてとびこんでくる。立ちふさがった般若はあっけなく蹴倒され、とって替った侠客志望の風来坊、中山安五郎がこれを取鎮めた。といえば聞えはいいが、馬は彼の珍妙な顔をみて毒気をぬかれ、安五郎ご自身は気絶したのである。行く所もない彼は村の水道工事--これも名物の小ン便水、つまり塩分過多の用水難解決工事に土工として雇われる。飯場兼お寺の本堂に寝起きして先輩土工亀吉らにやたらにこき使われる安五郎に、庫裏のお手伝い、お静が同情する。安五郎の素人浪花節にうっとりしたりする。が、彼の方は江戸前の芸者小万に首ったけであった。水道会社の重役に収まりたい般若は亀吉らをそそのかしてストライキを起させ、その調停の役を買って出る。ところが安五郎とお寺の下男、口の不自由な唖太の努力で工事は完成してしまったから大憤慨、安五郎を呼びだす。怪力唖太の助勢で首尾よく暴れん坊をのした安五郎は、村人から家を贈られ、念願の親分となった。一の子分は唖太である。小万の帰京で一時はしょげ返ったものの、お静を新妻を迎え、彼はまず幸福であった。般若らは水道完成記念の花興行のあがりをさらって軽便鉄道で逃げだすが、安五郎が非常喇叭にまたも昂奮したさかり馬をあおって軽便に追いつき、珍妙な大立回りの末、金をとり戻した。